強気美人、名前を後回しにする ~激辛パフェから始まる、ちょっとチョロい出会い~
——翌日。
「……来たわね」
私は腕時計に軽く視線を落としてから、顔を上げた。
「来ますよ、約束したんで」
当たり前みたいに隣にいる。
それが、少しだけ不思議だった。
——来ないかも、って思っていたのに。
「今日は何するんですか?」
「決めてない」
「またですか」
「行き当たりばったりのほうが面白いでしょ」
「昨日もそれで失敗してましたよね」
「失敗じゃない」
私は髪を指で軽く払って、歩き出す。
春の空気が、少し軽い。
「……じゃあ、とりあえず歩きます?」
「案内しなさいよ」
「はいはい」
並んで歩く。
沈黙は、意外と苦じゃない。
足音が、やけに揃う。
「……ねえ」
「はい?」
私は少しだけ視線を逸らした。
「あなた、名前は?」
「遅くないですかそれ聞くの」
「今思い出したの」
「忘れてたんだ」
「重要じゃなかっただけ」
「ひどいなあ」
少しだけ、笑う。
「悠真です」
「……そう」
私は小さく頷いて、視線を戻す。
「そっちは?」
「レイナ」
「知ってます」
「は?」
「さっき呼ばれてましたよ、店員さんに」
「……」
聞かれてた。
私は無言で前髪を整えた。
「……じゃあ、最初から名乗りなさいよ」
「聞かれなかったので」
「今聞いたでしょ」
「タイミング逃したんで」
「言い訳ね」
「そうですね」
——少しだけ、空気がやわらぐ。
「……ねえ、悠真」
「はい」
「今日は外さないわよ」
私は袖口を軽く引いて、言い切る。
「毎回言ってません?」
「今日は違うの」
「根拠は?」
「なんとなく」
「一番信用できないやつだ」
「うるさい」
でも。
その“なんとなく”は、昨日より少しだけ。
当たる気がしている。




