崖で犯人を追い詰めすぎて落としてしまったので、どうにかして釣り上げて罪を償わせる!
「来るな!」
容疑者・七五三島村崎 カンチョっ血が声を荒らげ、俺を睨みつけ、舌を「ペロッ」ってした。叫んだ拍子に唇が切れたのだろう。
「行く!」
犯罪者の言うことを聞いてやる義理なんぞ0.01ミリもないので、逆のことを言って追い詰める。これが刑事歴31年の俺のやり方だ。
「来るな!」
「行く!」
「来るな!!」
「行く!!!」
「来るな!!!」
「行く!!!!!」
1歩たりとも譲ることはない。俺が退けば、誰かが傷つくのだ。
「くるな!」
「いく!」
「くるなぁ!」
「いくぅ!!」
距離の読み合い。1歩間違えばヤツは20メートル下の海へと落っこちる。
「クルナァ!」
「イクゥ!」
「ク、クルナァーーーッ!」
「イ、イクゥーーーッ!!!」
とはいえ、このままでは埒が明かない。
運が悪かった。ちょうど神谷が電柱シッコからの畑野グソをかましている間に俺はカンチョっ血を見つけ、ここまで追ってきたのだ。3時間半かけて。連絡する余裕がなかったので、誰にもこの場所は分からない。
「来んといて」
「いや行くし」
「絶対来んといて!」
「いや絶対行くし!!」
「絶対絶対来んといて!」
「絶対絶対行ったるし!!!」
授業参観前夜のような言葉の応酬。
俺たちは目に見えて疲弊していった。だが幸い、俺の方が声がデカい。このまま行けば勝てるはずだ。
「絶対絶対絶対来んといて!」
「絶対行く。100パー行く。行くラ100パーセント」
「は? なんだお前」
「絶対絶対行く!」
「絶対絶対来んといて!」
「絶対絶対絶対行く!」
「絶対絶対絶対絶対あっ」
カンチョっ血が、足を踏み外した。
「カンチョっちぃ〜〜〜〜!!!」
どんどん小さくなっていくカンチョっ血。ザプーン。
「カンチョっちーーーーーーーー!!!」
「⋯⋯⋯⋯」
返事はなかった。
やっちまった⋯⋯
どうすんだこれ。やっとここまで追い詰めて、あと1歩まで来れて、あんな⋯⋯
「善田さん!」
後ろから神谷の声がした。
「神谷!? なぜここに!」
「善田さん、いつも迷子になるからこっそりGPSを仕込ませてもらいました」
「は!? いつのまに!? どこに!?」
「肛門です」
「俺が便秘なの知ってて、この野郎! ていうか、それが栓になって便秘になってるんじゃないか? もしそうだったらお前、便秘誘導罪だぞ! 死刑だぞ!?」
「はいそうですね。ところで善田さん、さっき犯人の名前叫んでませんでした? その前には『イ、イクゥーーーッ!!!』みたいな声も聞こえましたけど。崖に立って犯人の名前を呼びながらオナニーでもしてたんですか?」
「バカッ、んなわけ⋯⋯ハッ!」
犯オナしてたことにすればカンチョっ血が転落したことを隠蔽できるか⋯⋯?
「してました。気持ちよかったです」
「え」
「3回しました」
「冗談で言ったのに⋯⋯あたし、善田さんを軽蔑します」
「け、軽蔑だと!? 電柱シッコ畑野グソ女のくせに!」
「犯オナよりはマシです」
「くっ、言い返せねぇ⋯⋯!」
「ま、とにかく今日は帰りましょうよ。あたしもうヘトヘトです。善田さんがパトカー乗ってっちゃうから、走ってきたんですよ?」
「それは悪かった。今度は俺が走って帰るから、お前はパトカー乗って帰ってくれ」
「は? なに言ってるんですか。ヘトヘトのあたしに運転させる気ですか?」
「うん」
「んで善田さんは走って帰ると」
「うん」
「なにこれ」
「俺への罰」
「⋯⋯分かりました。先に行って署で待ってます」
「恩に着る」
「までもないと思いますけど」
「じゃあ着ない」
「なんか全裸の人みたいですね」
「せめてお盆くらいはちょうだい」
「帰りますね」
「ああ、帰れ」
「なんか会話が変なんだよなぁ⋯⋯」
「だよな、帰れ」
「まぁ、帰りますよ⋯⋯」
「ああ、帰れ」
「じゃ」
「おう」
やっと帰った。
さて⋯⋯
カンチョっ血を救出するぞ!
あんなガタイのいいやつがあれぐらいで即死ってことはないだろうし、背中にでっかいヒレみたいなのついてたし、大丈夫だよな!
とはいえ、どうしたものか⋯⋯。ルフィだったらビヨーンってやって簡単に助けるんだろうけど、俺はルフィじゃないっぽいからなぁ。
ザプーン。
波の音が集中力を途切れさせる。
ザプーン。
波の音がうるさい。
ザプーン。
波の音が⋯⋯そうか! 海なら釣っちまえばいいんだ!
そうと決まれば釣具屋だ!!
「〜ってことで、2メートル60センチぐらいのを釣りたいんだ」
「それだったらこれがいいですよ」
店員が店の奥から出してきたのは、普通の釣竿の6倍の太さはあるであろう、というか普通の釣竿が6本束ねてあるようにしか見えない、巨大な竿。
「これで糸を六つ編みにして、なんか適当にエサをつけて釣ってください」
「六つ編み!? ⋯⋯でも、途中の糸が太くても、針のついてる先のところが1本ずつだったらそこで切れちまうんじゃ⋯⋯」
「だったらでっかい針1個にして、その針に六つ編みを括りつければいいんじゃないですか」
「なるほど!」
「ところで2メートル60センチってなに釣るんですか?」
「カンチョっ血です」
「カンチョっち? 知らない魚だ⋯⋯」
「まぁ、知らない方がいいです」
「ググッても出てこない⋯⋯」
「まだ容疑者の段階ですからね」
「なんの話?」
「ゲームの話とでも思ってください。ヨホホ!」
「はぁ」
こうして俺は店を出た。あんまり喋ってるとカンチョっ血が死んじまうからな。被疑者死亡じゃ手柄になんねーもん。
それにしても重い。なに用なんだこれは。人間用にしてはデカすぎるし、やっぱ2.6メートルあるカンチョっ血専用なのか? でもカンチョっ血知らないって言ってたしな⋯⋯変な店だぜ。イルカとか釣る用かな。
ザプーン。
着いた。海の近くは釣具屋も近くて助かる。さて⋯⋯
あ、エサ買うの忘れた。
でも、エサって何がいいんだ? 赤虫とかゴカイとか? なわけないか。そんなことしたら魚が釣れちまうもんな。あくまで釣りは手段だ。
何かないか、何か⋯⋯そうだ! あいつは公園にエロ本を置いて立ち去りまくった容疑で追われてたんだ。キョロキョロしながらエロ本に近づいてきて、読み始める若者を陰から盗撮し、SNSに投稿して「公共の場でエロ本を読む人達」とか言ってたんだ。
ということでコンビニでエロ本入手。あんまエロいの売ってなかったけど、なろう系の漫画が売ってたから買ってきた。チンとマンを描写する以外なんでもアリの界隈だからねありゃ。
さて、針に引っ掛けて⋯⋯って、竿が1本少ない! コンビニに駐車(駐竿)してた時に取られたんだ! クソ、店内に持っていけばよかった!
まあ5本でもいいか。あんま変わらんやろ。1本でデカい魚釣る人もおるし。いけるいける。
俺はエロ本を開いて針に刺し、糸を垂らした。リールも5個だからちょいうるさい。セミ全盛期の森みたいな音してる。
ザプーン。
ザプーン。
釣れないなぁ。
ザプーン。
ザプーン⋯⋯
もしかして、エロ本だけ取られた?
見てみよ。
釣り針には、なんとなくツルツルした表紙の紙しか残っていなかった。中身だけ取られた? いや、よく考えたら海に漫画入れてもびしょびしょになって終わりじゃない? バラバラになってどっか行ったんだ⋯⋯
ということで俺はまたコンビニでエロ本を買い、裁断し、1ページ1ページラミネートして綴じて、エサにして糸を垂らした。
ツンツン
ぷるぷるする。
ツンツン ピンッ
めっちゃぷるぷるする! 釣り楽しい!
ぶるん!(沈んだ)
合わせる!
すると針が刺さる!
一気に釣り上げるぅ!
って思ったけど。
人間、重っ。
でも頑張るうぅぅぅ! 俺は刑事歴31年のベテランじゃあい!
「善田さん」
えっ?
「善田さん」
後ろを見ると、神谷がいた。
「なんだお前、戻ってきたのか?」
まずい、このままでは血だらけのカンチョっ血を見られてしまう。逃がすか? どうやって? 竿を離したら全部落ちていくし、22万円したから勿体ないし、そもそも不自然だよな⋯⋯?
「クソデカ釣竿でエロ本をエサにして釣りをしてる変人がいると通報が入りまして」
「もしかして、俺のこと?」
「もしかしなくてもですよ。何やってんですか」
「いや⋯⋯なんというか⋯⋯」
誤魔化せ、誤魔化せ⋯⋯!
「なんというか?」
「うーん⋯⋯その⋯⋯」
「その?」
「マグロを⋯⋯」
「マグロを?」
「釣ろうかと⋯⋯」
「エロ本でマグロを? なんというか⋯⋯逆では? マグロはエロに興味ないと思います」
「確かに」
「あ! 引いてるじゃないですか!」
そうなんだよなぁ。どうしよ。
「うん、まあね」
「まあねじゃなくて! マグロ来てるんじゃないですか?」
「いや、来てないと思うよ」
「でもめっちゃ引いてません? 体引っ張られてるじゃないですか!」
「いや、来てないと思う」
「早く巻かないと! 早く! 引いて! 巻いて!」
「いや⋯⋯」
「さっきからどうしたんですか! マグロ釣れるかもしれませんよ! そのために釣りしてたんでしょ!?」
「うん、そうなんだけど⋯⋯」
「もう! 代わってください、あたしがやります!」
「いや、いいよ」
「なんでですか! 貸してくださいよ」
「いいってば!」
「なんでですか! おりゃあ〜」
無理やり奪おうとしてくる! んでこいつめっちゃ力強いんだけど!
「おりゃっ!」
奪われた。終わった。カンチョっ血来ちゃう。
「うお〜楽しっ!」
楽しいよなぁ。暇な時間多いけど、このぶるぶるのためにやってるんだよなぁ。
「よし、釣れるっ!」
上がっちゃうか⋯⋯
「おりゃ〜〜〜! えっ、人間!?」
ドサッ
「キャーーーーーーーーーーーーー!!!」
神谷はショックでその場に倒れた。
そして、本にアソコを挟んで握りしめた状態で釣り上げられたカンチョっ血が⋯⋯って、誰!?
「おい! 誰だお前!」
「僕は昨日身投げしたスケベです」
「昨日身投げしたスケベがなんの用だ」
「そんなことより助けてください。アソコにどデカイ針が刺さって、引きずり回されて、痛くて死にそうです。衝撃を減らすために両手で固定してたんですが、そんなの関係ないぐらいに引っ張られて、痛くて痛くて⋯⋯」
「悪いが、俺は助けられない」
「なんで!?」
「どデカイ釣り針が刺さって引っ張り回されてズタズタになったチンコを見るのが怖いんだ」
「それは僕も怖いです。この本を開けれません」
「じゃあ、そのままっていうのはどうだ?」
「そのまま!?」
「動かさないようにして、そのまま治るのを待つ」
「針とエロ本とクソデカ釣竿がくっついたまま生きていけと?」
「死ぬよりはマシだろ? 俺が釣らなかったらお前は死んでたんだ」
「それはそうですけど、好きで身投げしたわけじゃないんです」
「そうなのか」
「海見てたらなんかムラムラしちゃって、海とエッチしたくなって飛び込んじゃったんです」
「なにを言ってるんだ⋯⋯?」
「不同意わいせつで逮捕します」
「神谷、目覚めたのか」
「はい。善田さん、こいつを逮捕しましょう」
「被害者は海?」
「そうです。自然物虐待です」
「ちょっと待ってください!」
「なんです」
「そんなこと言ったら海に入るだけでわいせつじゃないですか!」
「いや、みんな水着着てるでしょ。ほら、あそこにいる人だって」
神谷の指さす方を見てみると、腰まで海に浸かった中年の男性が腰に手をあてて、1ミリも動かずに地平線を眺めていた。
「アレ、おしっこしてません?」
昨日身投げスケベが言った。
「あいつは逮捕しなくていいんですか?」
「します! でもあなたも逮捕しますからね!」
ということで、カチャリ。あそこにエロ漫画を装着した、巨大釣竿付きの全裸の男性が手錠をかけられて砂浜の方へ連れていかれるという光景。
「あの」
「はい?」ぶるぶる
体を震わせる男性。排尿が済んだのだろう。
「不同意わいせつの現行犯で逮捕します」
「えっ警察⋯⋯ていうかその人大丈夫⋯⋯?」
状況が理解できない男性。
「相手の同意なく体内へ放尿したあなたは現行法では明日、死刑になります」
俺の知らない世界の話してる?
ていうかさ⋯⋯
「なあ神谷」
「なんですか」
「お前も立ちションとか野グソとかしてたよな」
「あたしはいいんです」
「はい!?」
「あたしは警察官なんで。捕まえる側なんで」
こいつヤバ。
「ということで、あなたたちを逮捕します」
神谷は2人を連れてパトカーで帰っていった。俺はカンチョっ血救出作戦(極秘)を継続する。
とりあえず崖に戻⋯⋯いや、よく考えたら上登る必要なくない? ここから探せばすぐじゃん。もしかして俺ってアホ? なんで上から釣ろうとしてたんだ? 釣竿で人間を⋯⋯
ということで少し探してみたところ、尖った岩に刺さってモズのはやにえみたいになっているカンチョっ血が見つかった。こんなすぐ見つかるんなら22万円の竿買わんでもよかったな。
「おい、カンチョっ血。生きてるな?」
「来⋯⋯るな⋯⋯!」
まだ言ってんの!?
「とりあえず逮捕するから」ジャラ⋯⋯
カチャ!
「14時55分、被疑者確保!!!!」
よし、引っこ抜いて署に連れていこう! 生きててくれてよかった〜!
「ぐふっ! ⋯⋯こんな⋯⋯胸に風穴が空いたオレを⋯⋯捕まえるってのか⋯⋯」
「BLEACHにもそういうキャラいるし、大丈夫っしょ」
「⋯⋯⋯⋯」
「無視!?」
「⋯⋯⋯⋯」
「おい、なんか言えよ!」
「⋯⋯⋯⋯」
「おーい!」
「⋯⋯⋯⋯」
「ちっ」
なんかめっちゃ無視されるけど、連行します!




