表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勘違いだらけの異世界転生生活 〜スキル【勘違い】だけで何をしろと? 最弱なので助けてください〜  作者: 杜鵑
第1章:最弱ステータスなのにSランク!? 〜勘違いで始まる英雄(?)生活〜
7/9

第7話 薬草採取だと思ったら、伝説の邪竜がお散歩中だった件について

「……なぁ、帰っていいか? 今すぐにでも、実家の布団に潜り込みたいんだが?」


 俺、霧雨神ジン・キリサメは、目の前に広がる光景を見て、乾いた笑みを浮かべていた。  視界の端で、俺のステータス画面が点滅している。


 【運:-530000】


 うん、今日も絶好調に地獄だね! 畜生!!


 俺たちが今いるのは、王都から馬車で三日……かかるはずの距離を、アリスの転移魔法(※座標指定が適当すぎて空中に放り出された)によって一瞬で移動した先。  人呼んで『奈落の渓谷(アビス・バレー)』。


 切り立った崖、毒々しい色の植物、そして遠くから聞こえる「グオオオオオオ!」という、明らかに野生動物ではない咆哮。  どう見ても、初心者冒険者がピクニック気分で来ていい場所じゃない。


「マスター、素晴らしい判断です!」


 隣で、俺のパーティメンバーであり、剣聖のメリルが目をキラキラさせて言った。  風になびく銀髪、凛とした美貌。黙っていれば女神のようなのだが、口を開くとこれだ。


「普通の『薬草採取』クエストでは、Sランクの我々には物足りない……。だからこそ、あえて最高難易度のこの地を選んだのですね? さすがは『運命を越えし者アンラッキー・ブレイカー』!」


「ちっっがう!! 違うからねメリルちゃん!? 俺はギルドの受付で『一番安全な薬草採取をください』って言ったよな!? なんでここに来ちゃったの!?」


「ええ。ですが受付嬢さんが『ジン様ほどの御方になれば、辺境の薬草など雑草も同然。こちらの”竜の髭(ドラゴン・ウィスカー)”こそ相応しいでしょう』と、震える手で依頼書を差し出してきたではありませんか」


「あれは俺の不運オーラに怯えてただけだろ! 押し付けられたんだよ!!」


 俺の叫びは、渓谷の風にかき消された。   「お腹すいたー。ねー、ジンー。ここの草、食べていい?」


 背後から、小柄な少女がドシドシと近寄ってくる。大魔導士のアリスだ。  彼女は俺の背負っている『底の抜けたカバン』をじっと見つめている。彼女の中では、このカバンは『虚無の収納(ヴォイド・ポケット)』というアーティファクトらしい。ただの不良品です。


「ダメだアリス。そこらへんの草は紫色してるだろ? あれ絶対毒だから」 「チェッ。……あ、あっちに強そうな気配。美味しそう」 「魔物を食材判定するな! 逃げるぞ、全力で逃げるぞ!」


「……ッ!」


 その時、もう一人の仲間、盗賊のルナが短剣を構え、俺の前にスッと移動した。  フードを目深に被った彼女は、極度の人見知りだ。


「……ジン様が、退路を確認した……。つまり、前方から『来る』……!」


「え? いや俺、今帰り道を探してキョロキョロしてただけ……」


 ズゥゥゥゥゥン……!!


 俺の言い訳を遮るように、大地が揺れた。  いや、比喩じゃない。本当に地面が跳ねたのだ。


 渓谷の奥、濃い霧を切り裂いて現れたのは――巨大な影。  高層ビル並みの巨体。  鋼鉄よりも硬そうな黒曜石の鱗。  そして、口元から漏れる灼熱の炎。


「……嘘だろ?」


 俺は引きつった声を出した。  出ないはずなんだよ、こんなところには。  だって事前の魔物図鑑には『オークが出没』って書いてあったじゃん。オークどこ行ったの?


「あ、あれは……伝説の終焉竜アポカリプス・ドラゴン!?」


 メリルが驚愕の声を上げる。


「古の時代、一国を単騎で滅ぼしたと言われる災厄の権化……! まさか、こんな場所で眠っていたなんて!」


「帰ろう! ね!? 今すぐ回れ右!! アリス、転移魔法! 早く!!」


 俺はアリスの襟首を掴んで揺さぶった。  だが、アリスは「むー」と口を尖らせる。


「魔力切れー。さっき飛ぶのに全部使ったー」 「燃費悪すぎだろお前ェェェェ!!」


「グルルルルルル……!!」


 終焉竜が、俺たちに気づいた。  金色の瞳が、ギロリと俺たちを見下ろす。その殺気だけで、肌がチリチリと焼けるようだ。  終わった。  俺の異世界生活、第7話にて終了。  神様、あのクソジジイ、次に会ったら絶対に三輪車をパンクさせてやる。


「下がっていてください、マスター!」


 シャララン、と清涼な音を立てて、メリルが聖剣を抜いた。


「このレベルの相手……私の剣技がどこまで通用するか。胸が躍りますわ!」 「踊らなくていい! 心臓止まりそうだよ俺は!」 「ふふっ、マスターはいつも通り余裕ですね。腕組みをして高みの見物とは」


「寒くて震えてるだけだよ!! 見ろよこのガタガタ震える膝を!」


「なんと……『武者震い』すら高速振動させて熱エネルギーに変えている……?」 「物理法則を無視した解釈をやめろ!!」


 会話が成立しない!  そうこうしている間に、竜が大きく息を吸い込んだ。  喉の奥が赤熱していく。  ブレスだ。あれを吐かれたら、骨も残らない。


(どうする!? 何か、何か手はないか!?)


 俺は必死にポケットを探った。  武器はない。あるのは、道中で拾った『ただの石ころ』と、さっきアリスが食べようとして俺が没収した『妙に臭い雑草』だけ。


 スキル【勘違い】。  このふざけたスキルが発動すれば、ワンチャンあるか?  いや、相手はドラゴンだぞ。言葉が通じるわけが――。


「GYAOOOOOOOOO!!!」


 放たれた。  極大の火炎ブレスが、俺たち目掛けて一直線に迫る。


「きゃあああああ!!」 「……ッ!」 「あつーい」


 メリルたちが反応するより早く、俺の身体が勝手に動いた。  いや、正確には『足がもつれた』。  不運スキル発動。何もない平らな地面で、俺は盛大にすっ転んだのだ。


「うわあぁぁぁぁぁ!!(※訳:死にたくねええええ!!)」


 俺は悲鳴を上げながら、手に持っていた『妙に臭い雑草』を放り投げた。  バランスを崩した拍子に、その雑草が空を舞う。


 ポスッ。


 情けない音を立てて、雑草はドラゴンの鼻先に当たった。  そして。


 ――ブレスが、消えた。


「……え?」


 俺は地面に這いつくばったまま、顔を上げた。  ドラゴンが、鼻を押さえるような仕草(前足が短いので届いていないが)をして、悶絶している。


「ハ、ハックション!!!」


 ドラゴンのくしゃみ。  その衝撃波だけで周囲の木々が吹き飛ぶ。


(なんだ!? 何が起きた!?)


 俺がおろおろしていると、システム音が脳内に響いた。


 ピロリン♪  【スキル発動:勘違い Lv.999】  【対象:終焉竜アポカリプス】  【判定:成功】


 ドラゴンの金色の瞳が、恐怖に見開かれて俺を凝視した。


『(……な、なんだこの人間は……!?)』


 えっ、ドラゴンの心の声が聞こえる!?  これもスキルの効果か!?


『(我が最強のブレスを、たった一本の草で相殺しただと……!? しかも、あの草は……我ら竜族にとっての猛毒、”竜殺しのトリカブト(ドラゴンスレイヤー)”……!!)』


 ――は?  トリカブト?  さっきアリスが食べようとしてたやつ、そんなヤバい草だったの!?  危ねえ! アリス死ぬとこだったじゃん!


『(それを……あえて投げつけることで「貴様など雑草で十分だ」と愚弄したのか!? ……ま、待て。こいつの纏っているオーラはなんだ……?)』


 ドラゴンが、俺の全身を舐めるように見る。


『(……黒い。あまりにも黒い……! まるで世界の不条理をすべて煮込んだような、禍々しい気配……!)』(※注:運-530000のことです)


『(こいつに関われば……死ぬ。隕石が落ちてくるか、地割れに飲み込まれるか、あるいは神の雷に打たれるか……本能が警鐘を鳴らしている! コイツは”歩く厄災”だ!!)』


 ひどい言われようだなオイ!!  合ってるけど!!


 俺は立ち上がろうとして、腰が抜けて「あ、あぅ……」と手を伸ばした。  これが、ドラゴンにはこう見えたらしい。


『(――手を伸ばした!? 「逃がさん、魂ごと食らってやる」という意思表示か!? ひ、ひいいいいい!!)』


 バサァッ!!


 巨大な翼が広げられた。  ドラゴンは、生まれたばかりの子鹿のように震えながら、後ずさりをする。


「お、おい待て! (※訳:置いていかないで! 俺一人じゃ山を下りられない!)」


『(く、来るなあああああ!! 許してくれぇぇぇ!!)』


 ドォン!!  ドラゴンは凄まじい勢いで空へと飛び立った。  あまりの恐怖にパニックになったのか、飛び立つ瞬間に尻尾が岩壁に激突し、崖が崩落する。


「あ、あぶねっ!!」


 俺たちの頭上に、巨大な岩が降り注ぐ――はずだった。  しかし、崩れ落ちた岩盤から、キラキラと輝く鉱石が露出した。


「……ミスリル銀?」


 ルナが呟く。  崩落した崖の中から現れたのは、国宝級のレアメタル、ミスリルの鉱脈だった。


「……」 「……」 「……」


 静寂。  去っていくドラゴンの背中と、目の前の宝の山。  そして、へっぴり腰で手を伸ばしたまま固まっている俺。


 ゆっくりと、メリルがこちらを振り向いた。  その瞳には、狂信的なまでの尊敬の色が宿っている。


「……マスター」 「いや、聞いてメリル。今の全部偶然だから。俺、コケて草投げただけだから」


「あえて『毒草』を投げてブレスを無効化し、さらにその威圧だけで伝説の竜を追い払う……。それだけでなく、逃げる竜の挙動すら計算に入れて、このミスリル鉱脈を掘り当てさせるとは……!」


「計算できるかそんなもん!! エスパーか俺は!!」


「さらに、『殺さずに追い払う』という慈悲の心。圧倒的な力を見せつけながらも、無益な殺生は避ける……。ジン様、あなたはやはり、真の英雄です!」


「違うの! 俺はただビビって腰抜かしてただけなの!!」


「……ジン様、すごい」


 ルナが、顔を赤らめて俺のローブの裾を掴んだ。  その瞳が潤んでいる。


「……私の目にも、止まらなかった……。神速の、投擲……」 「止まって見えただろ!? ふんわり飛んでったよ!?」


「ごはんー!」


 アリスが鉱脈に向かって走り出した。   「このキラキラした石、高く売れるー! これで美味しいものいっぱい食べられるー!」


 ……あぁ、もう。  ダメだこれ。


 俺は天を仰いだ。  空は青く澄み渡り、遥か彼方へ逃げていくドラゴンの黒い点が小さくなっていく。


 後日。  ギルドへの報告により、俺の二つ名に新たな項目が追加された。


 Sランク冒険者:霧雨神  称号:『竜王を叱りつけた男』


「だから! 俺は!! 最弱なんだってばぁぁぁぁぁ!!!」


 俺の魂の絶叫は、今日も異世界の空に虚しく響き渡るのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます!


第7話、いかがでしたでしょうか。

ついに伝説の邪竜まで(くしゃみで)撃退してしまったジン君。

本人は「助けて」と叫んでいますが、周囲の「最強評価」は止まることを知りません。


ここで読者の皆様にお願いがあります。

少しでも「面白かった!」「ジン君不憫すぎる(笑)」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

ページ下部(スマホ版)にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れて応援していただけると執筆の励みになります!


感想やブックマーク登録も大歓迎です。

皆様の応援が、ジンの胃痛……ではなく、更新の原動力になります。


明日も19時20分更新です、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ