第6話 最弱の装備選びと、伝説の古新聞
俺の手元には、金色に輝くギルドカード。 そこには『運:530000』と、マイナスが綺麗サッパリ消された数値が刻印されていた。
「……終わった」
俺が膝から崩れ落ち、絶望に浸っていた、その時だった。
ドシドシドシッ!!
地響きのような足音がギルドの奥から近づいてきた。 現れたのは、筋肉の鎧をまとったような巨漢。顔には古傷、背中には大剣。 このギルド『銀の剣』のギルドマスター、ガンダルだ。
「ガハハハハ! 聞いたぞ! ついに現れたか、伝説のSランクルーキーが!」
ガンダルは俺の目の前で仁王立ちすると、バシッ! と俺の背中を叩いた。
「ぐふっ……!?」
衝撃が走る。HPが1から0.5くらいまで減った気がする。 視界が揺らぐ中、ガンダルは俺の顔を覗き込み、ニカッと笑った。
「いい面構えだ。死線をくぐり抜けてきた者の目をしてやがる(※ただの貧血です)」
「あ、あの、俺はただの……」
「謙遜するな! 貴様のような男を待っていたのだ!」
ガンダルは懐から、一枚の羊皮紙をバシッとカウンターに叩きつけた。 そこには、真っ赤なドクロマークと『緊急依頼』の文字。
「北の岩山に、伝説の『赤竜』が現れた」
「……は?」
俺は耳を疑った。
「正規軍ですら手を焼く怪物だ。我がギルドの精鋭たちも尻込みしていたが……貴様ならやれるな? なんたって『天運の覇者』だからな!」
「いや無理です! 絶対無理! 俺、今登録したばっかり!」
俺は必死に拒否した。 だが、ここでメリルが一歩前に出た。
「……マスター。これは天が与えた試練、いえ、ただの余興ですね?」
「余興じゃない! 処刑だよ!」
「ギルドマスターよ。私の主は、言葉少なにこう仰っています。『赤トカゲ一匹ごとき、散歩のついでに捻り潰してやる』と」
「言ってない! 一言も言ってない!」
だが、ガンダルは感涙にむせび泣いた。
「おお……! なんと頼もしい! 聞いたか野郎ども! 彼がやってくれるそうだ!」
「「「うおおおおおおおお!!!」」」
ギルド中の冒険者たちが拳を突き上げる。 逃げ場はない。外堀も内堀も埋められた。
「さあ行け! 善は急げだ! ドラゴンが昼寝している今のうちに首を取ってこい!」
ガンダルが俺の襟首を掴み、出口へと放り投げ――いや、送り出した。
「ちょ、待っ――」
俺の体は宙を舞った。
◇
ドンッ!!
俺はギルドの扉から弾き出され、石畳の上に無様に転がった。
「いっ……てぇ……」
HPがまた0.1減った。 背後からは「頼んだぞ英雄!」「土産話を待ってるぜ!」という熱い声援が聞こえ、バタンと扉が閉ざされた。
「……追い出された」
俺は呆然と呟いた。 扱いが雑すぎる。Sランクって、もっとこう、VIPルームでお茶菓子とか出るもんじゃないのか? 登録からわずか数分。俺は『ドラゴン討伐』という死刑判決を受け、装備も整わぬまま街の路上に放り出されたのだ。
「……ジン様、行きますか」
メリルが涼しい顔で剣の柄に手をかける。
「待って。お願いだから待って」
俺は涙目で立ち上がった。 今の俺の装備を見てほしい。 ボロボロの布服(防御力1)。 武器なし(攻撃力1)。 これでドラゴン? 爪楊枝で戦車に挑む方がまだ勝率がある。
「装備だ……。せめて装備を整えないと、ドラゴンの鼻息だけで俺は死ぬ」
「なるほど。あえてハンデを背負って戦うのも一興ですが、万全を期すのもまた王者の兵法」
「ハンデしかないんだよ! 今の俺は歩く死体なんだよ!」
俺たちは、わらにもすがる思いで、目の前にあった街一番の高級武器店『鉄の牙』へと駆け込んだ。
カランコロン♪
店に入ると、鉄と革の匂い。 壁には煌びやかな剣や、頑丈そうな鎧がズラリと並んでいる。 カウンターには、巌のような巨体の店主・ガンソが座っていた。
「いらっしゃい。……なんだ、ひやかしなら帰んな。うちはガキの小遣いで買えるようなモンは置いてねえぞ」
ガンソが睨みをきかせる。 俺はビビって縮こまったが、ルナが無言で前に出た。 彼女は懐から『魔導銀行ブラックカード(無制限)』を取り出し、カウンターにスッと置いた。
「……ここにあるもの、全部買える。……文句ある?」
ガンソの目が飛び出た。 ブラックカードの黒い輝きは、この世界において水〇黄門の印籠より強い。
「へ、へへっ! こりゃ失礼しましたお嬢様! いやあお目が高い! さあさあ、何でも見てってください!」
態度の変わり身が早すぎる。 俺は恐る恐る前に出た。
「あ、あの、親父さん。俺に合う、一番安全な装備をください。金ならあります」
「おう、兄ちゃんのか! 任せとけ! 見たところ……随分と華奢だな」
ガンソは俺の体を値踏みし、店の奥から巨大な鎧を持ってきた。 分厚い鉄板を重ねたフルプレートアーマーだ。
「『剛魔の重鎧』だ。ドラゴンの爪でも傷一つつかねえぞ」
「おおっ! これだ! これを着れば死なない!」
俺は歓喜して鎧に手を伸ばした。 だが。
グッ……!
「…………重っ」
持ち上がらない。1ミリも動かない。 それどころか、持ち上げようとしただけで腰の骨がミシミシと音を立てた。
「だ、ダメだ……これ、着た瞬間に重さで圧死する……」
俺の筋力は『1』。自分の体重を支えるのがやっとの虚弱体質に、50キロの鉄塊など処刑器具でしかない。
「なんだぁ? 軟弱だなぁ。なら、この剣はどうだ? ミスリル製で軽いぞ」
渡されたショートソード。 俺は受け取った。 ズシッ。 手首が悲鳴を上げ、剣先がフラフラと俺の足の親指を狙う。
「あ、あ、危ない!」
ガシャン! 俺は剣を取り落とした。
「ダメだ……。金属は重すぎて持てない……」
「じゃあ、この『ひのきの棒』はどうだ?」
渡された木の棒。 握った瞬間。 チクッ。
「いったぁぁぁぁぁい!!」
俺は絶叫した。指先にささくれが刺さり、血が滲んでいる。 HPが0.9になった。致命傷だ。
「と、棘が! 棘が刺さった! 木の武器は表面が荒すぎて、俺にとっては『棘付きメイス』と同じだ!」
ガンソが呆れ果てて叫んだ。
「ふざけんな! 鉄もダメ、木もダメなら、お前に売るもんはねえよ! マシュマロでも装備してろ!」
「マシュマロはベタつくからダメだ! もっとこう、軽くて、滑らかで、刺さらないものはないのか!?」
俺が食い下がると、ガンソは舌打ちをして、カウンターの隅にあったゴミ箱を蹴飛ばした。
バサァッ!
中から、梱包材として使っていた古新聞やゴミが散乱した。
「ほらよ! これなら軽いし安全だろ! ゴミだがな!」
俺は床を見た。 そこに、運命の出会いがあった。
カチカチに丸められた『古新聞の棒』。軽くて、紙だから刺さらない。 そして、パートのおばちゃんが忘れていった『使い捨て衛生帽子(給食帽)』。空気のように軽い。
「……これだ」
俺は古新聞と給食帽を拾い上げ、装備した。 鏡に映るのは、給食当番になり損ねた不審者。
「……ねえ、これでドラゴンと戦えと?」
俺が絶望していると、メリルがハッと息を呑んだ。
「……なんと。マスター、その白き剣は……『白竜の封印剣(古新聞)』。そしてその冠は『聖女のヴェール(給食帽)』ですね!?」
「ただの古新聞と衛生帽子だよ!」
だが、勘違いは止まらない。 ルナがブラックカードを出す。
「……その伝説の装備、いくら?」
ガンソが震える指で「に、二億……」と言いかけ、ルナが決済した。 こうして俺は、2億ゴールドのゴミを装備し、ドラゴン討伐へ向かうことになったのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます! 作者です。
今回は「ギルドからの(物理的な)激励」と「最強装備の爆誕」をお届けしました。
■今回のポイント
ギルド追放(?)の真相: 冒頭でジンが「追い出された」と言っていますが、あれはギルドメンバーたちの「英雄への熱すぎる声援(物理)」です。 背中を叩く力が強すぎて、HP1のジンにとっては「背後からの強襲」でしかありませんでした。
新聞紙と給食帽: ファンタジー世界にあるまじき装備が完成しました。 メリルのフィルターを通すと「封印剣」と「聖女のヴェール」に見える不思議。店主のガンソさんも、商売人魂で乗っかってくれました(2億G)。
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