表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勘違いだらけの異世界転生生活 〜スキル【勘違い】だけで何をしろと? 最弱なので助けてください〜  作者: 杜鵑
第1章:最弱ステータスなのにSランク!? 〜勘違いで始まる英雄(?)生活〜
4/10

第4話 回復役不在の脳筋パーティと、死を招く小石

 魔王軍幹部(笑)を撃退した俺たちは、未だ深い森の中を彷徨っていた。  木漏れ日が差し込む美しい森。小鳥のさえずり。マイナスイオンたっぷりの空気。  だが、俺、霧雨神ジン・キリサメの心は、泥沼のように濁りきっていた。


 限界だ。精神的にも、肉体的にも。  俺はガサガサと草をかき分けながら、目の前の地面を――それこそ、砂金でも探すような目つきで凝視し続けていた。


「……ないな。よし」


 一歩進む。


「……ここも大丈夫だ。よし」


 また一歩進む。  まるで地雷原を行軍する新兵のような慎重さだ。  なぜこれほどまでに怯えているのか。  理由は単純にして絶望的。俺のHP(体力)が、文字通りの『1』しかないからだ 。


 この世界に転生して二日目。あの日の恐怖は、今も脳裏に焼き付いている。  俺は、何の変哲もない河原の小石に躓いて転んだ 。  ただ、それだけのことだ。  だが、膝が地面についた瞬間、俺の視界はセピア色に染まり、スローモーションの中で走馬灯が駆け巡った。


 ――三途の川が見えた 。  対岸には綺麗なお花畑が広がり、数年前に死んだはずのない、ピンピンしているはずの婆ちゃんが「こっちだよ〜、ジンちゃ〜ん」と満面の笑みで手招きしていた。  いや、ばあちゃん生きてるから! 先週ゲートボール大会で優勝してたから!  生きてる人間が川の向こうに見えるってどういうことだ。俺の脳内メーカーがバグっているのか、それともばあちゃんの霊圧が強すぎて生霊として迎えに来たのか。



 とにかく、あの時の体感ダメージは『0.9』。  あと『0.1』深く転んでいたら、あるいは石の角度が悪くて打ち所が悪かったら、俺は「異世界転生してすぐに石に躓いて死亡」という、冒険者ギルドの笑い種として歴史に名を刻んで終わっていた。


(二度と転べない。小石ひとつ、木の根ひとつが、今の俺にとってはギロチンの刃と同じなんだ……!)


 冷や汗が背中を伝う。  俺がビクビクしながら進んでいると、隣を歩く美貌の剣聖・メリルが、感心したような溜息を漏らした。


「……素晴らしい」


「えっ、何が?」


 俺がビクッとして振り返ると、メリルは俺の足元を熱っぽい瞳で見つめていた 。


「ジン様のその歩法です。一歩ごとに大地の脈動を読み、重心を極限まで制御している……。まるで薄氷の上を舞う蝶のよう。あえて不安定な足場を選び、常に死線を想定した訓練を行っておられるのですね?」


「違うよ!? 安定した足場がないんだよ! どこ踏んでも死にそうなんだよ!」


 俺は叫び返すが、メリルには届かない。彼女の脳内フィルターは、俺の情けない行動を全て英雄的な修行へと変換してしまう 。


「……お兄さん、お腹すいた」


 後ろから、亡霊のような声がした。  大魔導士のアリスだ。彼女は燃費が悪すぎる 。さっきの戦闘で極大魔法をぶっ放したせいで、今はただの腹ペコ幼女と化している。


「アリスちゃん、もう少しの我慢だ。街に着けば、何か食べられるから」


「……ん。街に着いたら、牛を一頭まるごと食べる」


「フードファイターかよ。金ないんだぞ俺たち」


 俺は乾いた笑いを浮かべた。  そう、金がない。無一文だ。HP1で、無職で、無一文 。  詰んでいる。


 その時。  俺の「死のセンサー」が反応した。


「……ッ!!」


 俺は立ち止まり、息を呑んだ。  目の前の獣道に、拳大の石が落ちていた。  苔むした、どこにでもある石だ。だが、俺にはそれが、カウントダウンを始めた時限爆弾に見えた。


「じ、地雷だ……」


「ジン様? 敵ですか?」


 メリルが即座に愛刀の柄に手をかける。


「違う、あれを見てくれ。あの石……」


 俺は震える指で石を指差した。  メリルは目を細め、その石を凝視する。そして、ハッと息を呑んだ。


「……なんと。ただの石に見えますが、あれは擬態した岩石生命体ロックイーターの幼体……いえ、内部に高密度の魔力を圧縮した『天然の爆弾』ですね?」


「えっ」


「不用意に踏めば、連鎖爆発を起こしてこの一帯が吹き飛ぶ……。常人なら見過ごすほどの微細な魔力の揺らぎを、ジン様は見抜かれたのですね 」


「いや爆発するのは俺のライフだよ! 触れたら俺だけ木っ端微塵になるんだよ!」


 俺は大きく石を避けた。  半径3メートルは距離を取り、へっぴり腰で迂回する。  メリルはそれを「爆風の有効範囲を見切った完璧な回避ルート」と解釈し、感涙していた。


 俺はため息をつき、ふと冷静になってパーティメンバーを見渡した。



メリル: 剣聖。物理攻撃特化。会話が通じない暴走機関車 。



アリス: 大魔導士。広範囲殲滅魔法特化。燃費最悪の固定砲台 。


 ……あれ?  俺の背筋に、冷たいものが走った。


「ねえ、ちょっと待って」


 俺は引きつった顔で二人を見た。


「このパーティ、アタッカーしかいなくない!?」


 回復役ヒーラーは?   盾役タンクは?  一番重要な「俺を守ってくれる人」と「俺が死にかけた時に(頻繁にある)治してくれる人」がいない!


「これじゃ誰かが怪我したら終わりじゃん! 特に俺とか、風邪ひいただけで死ぬのに! 紙で指切っても致命傷なのに!」


「ご安心ください、マスター」


 メリルが自信満々に胸を張り、バサァッとマントを翻す。


「やられる前にやる。それが最強の防御です」


「出たよ脳筋理論! 一番聞きたくない言葉だよ! やられる前にやられるんだよ俺は!」


「……お兄さん、敵が来たら、燃やせば解決」


 アリスがよだれを垂らしながら杖を構える。


「解決しない! 火事という新たな問題が発生するだけだ! 森を燃やすな!」


 ダメだ。こいつら攻撃のことしか頭にない。  完全なる特攻野郎〇チームだ。守備力ゼロ、火力のみカンスト。  俺の命運は、風前の灯火だった。


 ――そんな俺たちのやり取りを、頭上の高い木の上から見下ろす影があった。


(……す、すごい……)


 盗賊の少女・ルナは、枝葉の陰で戦慄していた。  彼女は裏社会で名を馳せる『怪盗ルナ』。スキル【隠密】のエキスパートであり、気配を消すことに関しては世界一の自信があった 。  それなのに。  あの黒髪のジンは、ルナの存在に気づいているフシがある。


(さっきの石の回避……。あれはただ避けたんじゃない。あえて大げさに動くことで、死角に潜む私への牽制球を投げたんだわ。『お前がどこから狙っているか、分かっているぞ』と……)


 ルナの心臓が早鐘を打つ。  バレている。完全に掌の上だ。  ルナは試すことにした。本当にバレているのか、それとも偶然か。


 彼女は懐から、木のどんぐりを取り出した。  そして、指先で弾いた。  ヒュンッ。  音もなく、殺気を込めたどんぐりが、ジンの頭上へと落下する。


 その時。  ジンは、空を見上げることなく、奇妙な動きを見せた。


「うわあああああああ!!」


 ドサァッ!!  ジンは突然、地面を転げ回るようにして前方にダイブしたのだ。  直後、彼が立っていた場所に、カツンとどんぐりが落ちた。


(……!!)


 ルナは息を呑んだ。  見えていないはずだ。背後からの、しかも音のない投擲。  それを彼は、まるで未来予知でもしたかのように、あるいは「あえて無様な格好で転ぶ」というフェイントを織り交ぜて回避した。


 実際には、ジンはただ「何かの気配(鳥のフンとか)」を察知して、ビビって足をもつれさせて転んだだけなのだが。  ジンの独白はこうだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……! あ、危なかった……! 今、何か落ちてきたぞ!? 直撃してたら頭蓋骨陥没で即死だった……!」


 ジンは脂汗を拭いながら、キョロキョロと周囲を見回した。  その視線が、偶然にもルナの隠れている枝の方を向いた。


「……そこにいるのは誰だ!? 出てこい!」


 ただのビビりゆえの確認だった。リスか猿がいるのかと思っただけだ。  だが、ルナにとっては、それは絶対強者からの「呼び出し」だった 。


(見つかってる……! 『降りてこないと、その木ごと切り倒すぞ』って目が言ってる……!)


 ルナはパニックになった。  殺される。どうすればいい? どうすれば許してもらえる?  ルナのコミュ障脳が高速回転する 。


 ――そうだ。さっきの会話。  彼らは「金がない」「腹が減った」と嘆いていた。  つまり、今彼らが求めているのは『富』と『食』。  ルナは大富豪の怪盗だ。金なら腐るほどある。  貢げば、助かる? いや、貢ぐしかない!


 バササササッ!


 突然、ジンの頭上に「恵みの雨」が降ってきた。  最高級の干し肉、瑞々しいフルーツ、瓶詰めされたヴィンテージワイン。  そして、ジャララララッと音を立てて降り注ぐ、大量の金貨。


「うわぁっ!? 痛っ! 痛い痛い! 今度は何!? 爆撃!?」


 ジンが頭を抱えてうずくまる。金貨の一枚一枚が、HP1の彼にとっては散弾銃のような威力だ。  そして最後に。


 ドサッ。


 小柄な少女が、空から落ちてきた。  フードを目深に被り、顔を真っ赤にして、小動物のようにガタガタ震えている 。


「……こ、これで……許して……」


 ルナは涙目で、ジンに金貨の山を差し出した。


「……私、ルナ。怪盗。お金持ち。……だから、殺さないで」


「え?」


 ジンは呆気にとられた。  状況が飲み込めない。空から金と食料と美少女が降ってきて、いきなり命乞い?  美人局つつもたせか? それとも新手のカツアゲの逆バージョンか?


「い、いや、殺さないよ!? ていうか君、誰!? 大丈夫?」


 ジンが手を差し伸べようとした瞬間、ルナはビクッとして後ずさりし、メリルの背後にササッと隠れた。  そして、影から顔だけ出して、上目遣いでジンを見る 。


「……殺さない? 本当?」


「本当だよ! 俺、虫も殺せない(返り討ちに遭うから)平和主義者だから!」


 ルナはホッとしたように息を吐き、そして頬を染めた。


(……優しい。あんなに強いのに、弱者のフリをして私を気遣ってくれた。……それに、私の『貢ぎ物』を受け入れてくれた )


 彼女の中で、何かが歪んだ形で噛み合った。  ルナは、懐からさらに追加のアイテムを取り出した。  黒く輝くカード。『魔導銀行ブラックカード(無制限)』だ。  彼女はそれを、おずおずとジンの手に握らせた。


「……じゃあ、これあげる。……暗証番号は0000」


「セキュリティ意識どうなってんの!?」


「……私の財布は、あなたの財布。……ご飯も、お金も、全部貢ぐ。……だから」


 ルナは熱っぽい瞳で言った。


「……私を、飼って」


「はあああああ!?」


 俺は森中に響き渡る声で絶叫した 。  飼って? 人間を?  だが、メリルは腕を組み、深く頷いていた。


「なるほど。さすがマスターです」


「今度は何!?」


「アタッカー過多というパーティの欠陥を、瞬時に見抜いておられたのですね。そこで、あえて『無限の資金源』を持つこの者を勧誘し、最高級のポーションや装備を金に糸目をつけずに買い揃えることで、回復役とタンクの不在を補う……。極めて合理的かつ、覇道を行く解決策です」


「勧誘してない! 向こうから降ってきたんだよ! あと覇道とかいいから!」


「……お兄さん、この人、いい人」


 アリスがすでに、ルナの出した干し肉にかぶりついている。口の周りが油だらけだ 。  ルナはアリスの頭を撫でながら、俺に向かってコクンと頷いた。


「……ん。私がいれば、餓死はさせない。……あなたの欲しいもの、全部盗んでくる」


「盗むのはダメだからね!? 買うんだよ!?」


 こうして。  最強の剣聖ポンコツ、大魔導士(腹ペコ)に加え、大富豪の盗賊(コミュ障ストーカーATM)が、なし崩し的に仲間になった。    俺は手の中のブラックカードを見た。  ずしりと重い。  これで、防具が買えるかもしれない。全身をクッションで覆ったような、安全な装備が。  少しだけ希望が見えた気がした。


「……よし、街へ行こう。そして装備を整えるんだ」


「はい、マスター! 世界を征服する装備ですね!」


「……街ごと買う?」


「買わないよ! 自分の身を守るだけだよ!」


 新たな仲間(財布)を加えた俺たちは、ようやく森を抜け、冒険者の街へと足を踏み入れた。  そこで待っているのが、さらなる『勘違い』の伝説だとは知らずに。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます! 作者です。


今回は「HP1の恐怖」と「回復役不在の脳筋パーティ問題」、そして「新しい財布ルナ」のゲットまでをお届けしました。


■今回のポイント


ジンのトラウマ: 小石に躓いただけで三途の川が見える。しかも、ばあちゃんは存命なのに川の向こうにいる(生霊?)。HP1の過酷さが露呈しました。


パーティ構成: 剣聖(暴走)、大魔導士(燃費最悪)、盗賊(コミュ障)。全員アタッカーで回復役ゼロ。ジンが一番死にそうな構成です。


ルナのチョロさ: どんぐり一発でビビり散らかしたジンを「神回避」と勘違いし、全財産を捧げてATM化しました。


【読者の皆様へのお願い】


「ばあちゃん生きてるのかよ!」「ルナちょろすぎw」「続きが気になる!」 と少しでも楽しんでいただけましたら、


ページ下部(スマホ版は広告の下)にある 【☆☆☆☆☆】 をタップして評価していただけると、執筆のモチベーションが爆上がりします! (星は5つ押していただけると、作者が嬉しさのあまり小石を全力で回避します)


ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします!


それでは、次回の更新でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ