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ヨリカカリ  作者: 栢瀬 柚花
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神社の管理者


 ファミレスから家に帰って1人になると、琴は再び現実感のない世界に戻ったようだった。先程まで界人と笑っていたのが嘘のように、頭に残るのは不可思議な時間飛ばしの事ばかりだった。両親に話しかけられても内容を覚えておらず、自分が何を話したかも覚えていない奇妙な時間を過ごした。

 夜早々にベッドに入ると、ひたすらにスマホで似た実例がないか調べた。お陰でよく眠れなかった。


 やっと翌日が来ると、大学の図書館前で界人と落ち合った。彼も余り眠れなかったのか、疲れた顔をしている。

「おはよ。あんまり寝れんかった?」

「そういう稲田さんもじゃろ?顔色良くないで」

 指摘され、もう少しファンデーションを塗ればよかったと始めて思った。今朝、鏡で自分の顔色を見たのでいつもよりは化粧をしたつもりだったのだが、いかせん普段からやらないので、勝手が分からなかったのだ。

 琴は顔に手を添えて慌てて、

「そう?具合悪そうに見える?」

 と界人に尋ねた。女子らしく見た目を気にする仕草に、界人は微笑んで、

「ちょっとな」

 と言った。でもちゃんと綺麗だと言いそうになって、界人は言葉を呑み込んだ。寝不足とはいえ、とんでもない事を言いそうになった。

 琴はちょっと、の部分に反応して青くなった。

「また完徹したって疑われる!どうしよ!先輩にペナルティくらう!」

 思った心配と方向が違い、界人は 

「ペナルティ?」

と聞き返した。

「サークルのペナルティ!レポートと課題で完徹したら部員全員のお昼奢るはめになるんよ!」

「それって何のサークル?」

「あんこ同好会」

「……何するん、それ」

「ひたすらにあんこの研究に決まってるじゃん」

「決まってるんだ……」

「練り切り作ったり美味しあんこのための小豆の産地と配合を考えたり、生地とあんこの相性を評価したり。楽しいよ!」

 凄くいい笑顔で教えてくれた。

「なんで完徹とあんこ同好会が関係してくるん?」

「あたしがよく調べすぎて完徹してたから。講義に支障が出たら成績下がるじゃん?単位取れなかったりしたら同好会の存続に関わるから、今後辞めるように言わててさ……。次にやったらペナルティで全員にお昼奢れって言われてて……」

 あんこの調べすぎで完徹……。いったい何をそんなに懸命に調べていたのか気になった。

「ちなみに部員は何人?」

「あたし入れてまだ6人」

「少なっ!」

「今年発足じゃから。まだ周知されてなくてさ。鷹取くんの周りであんこ好きいたら誘ってみてよ」

真剣にいわれ、

「頭の片隅に入れとく……」

と返した。

「片隅じゃなくて真ん中に入れといて」

 訂正され、「はい」と素直に返事をした。

「鷹取くんは?顔色良くないよ?」

 さらっと話題を戻された。完全に琴のペースに乗せられているなと思いながら答える。

「あれから夜更かして、色々調べすぎただけじゃから、平気。稲田さんの体調悪くないなら、図書館行こう」

 琴は頷き、2人して図書館に足を向けた。


 郷土資料が並ぶ一角に荷物を置くと、早速本を探す。道通神社と神社がある山について、手分けして探してみることにした。

 琴は山について、界人が道通神社について片っ端から本を集めて机に並べた。

 

 ほぼ午前中を費やし、昼休みになる前、やっと2人は互いの成果を報告し合った。分かった事は僅かだった。

「神社がある山は露山っていうらしい。通称ウガ山って呼ばれとる。ウガは蛇の事じゃから、道通神社があることと関連してそう呼ばれとるんじゃろうな。標高とか山の広さとか書かれてるけど、他に情報は特にない」

 これは琴の結果だ。ノートに色々と書き込まれているが、目だった言い伝えや伝承はないようだった。

 次に界人がノートを見せた。

「あの道通神社は神主がおらんみたい。最近は後継者不足でそういう神社も多いらしいけど、あの神社は地域の代表者が代々管理をしとるみたいじゃな。後継者不足とは関係なさそう。歴史は長くて、創建は1909年。それ以前からもあったけど、歴史書に書かれてる一番古い時代がここやな」

 約116年前となると、比較的新しい神社だと言えた。

 それにいつから神主がいないのだろう。戦時中のゴタゴタで資料が消える事はよくあったが、最初からいない、ということはないだろう。

「今、神社を管理しとる人に聞くのが一番ええよな。稲田さんは何か知らん?」

 尋ねられるが、琴はよく知らなかった。取り立てて有名な神社でも無かったので、たまに山登りを兼ねて参拝者が来る、という事くらいだ。

「知らん。両親に聞いてみるわ。多分同じ町内の人やろうし、管理しとる家くらいは分かると思う」 

 そこで自由時間が終わり、一緒に学食へ移動してお昼にした。琴は大学では誰かとご飯を食べることがほとんどなかったので、何だか変な気がした。しかも昨日のファミレスに続いて2日連続だ。

「昨日の時間飛ばしの事、親に話したん?」

 丼ぶりとうどんのセットを食べながら、界人が琴に聞いた。

「まさか!言っても信じるわけないし、何にも話してないよ」

「まぁ、そうよな……。稲田さん以外にこの街で神隠しにあった話はないんよな?」

 琴は箸を止めて頷く。

「多分……。最初は誘拐かもって警察沙汰になったらしいし……」

「それはそうじゃろ。7歳の子供が消えたら大事じゃし。捜索願も出されるわ」

 界人の言葉に、琴は「ん?」と引っかかった。神隠しにあった年齢を教えた記憶がなかった。

「何で7歳の時って知っとん?」

 うどんを啜っていた口を動かしてた界人は、ゴクンと飲み込むと「怒らんで聞いてな」と言った。

「実は、稲田さんが来る前に調べた。当時の新聞。市の図書館に行って」

「えっ?」

 界人はノートを机にのせてページを開いた。調べた内容の記事がそのまま転写されて、界人の字で書かれている。

「小さな事件として地方紙の隅っこに載っとった。稲田さんの写真はなかったけど、名前は載っとったから、すぐに分かったよ。流石にスマホ記事には無かったわ」

 本当に小さな記事で、消えた詳細はほとんどなく、10行にも満たないものだった。

『一人で遊んでいた所、夕飯になっても帰宅しない娘に気がついて捜索するも見つからず、警察に通報。何の情報もなかったが、7日後の昨日、道通神社の参拝に訪れた夫婦によって発見、保護された』

 読んでしまえば何てこない、よくある様な話だ。

「ホンマは両親にもう一回聞いた方がいいんかもしれんけどな。親もいい思い出じゃないし、むやみにほじくりたくないから、この記事で我慢な」

 琴は初めて目にした記事の内容をじっと見た。記憶がないとは言え、決していい思いはしてこなかったので、これまで目を背けてきた。

 しかし今、こんなにもあっさりと過去の事実を突きつけられた。思ったよりも冷静でいられるのは、自分事として見ていないからだ。

 記事を凝視していると、界人はノートをパタリと閉じた。

「じっくり見んでもいいよ。いい思いはせんじゃろ」

「いや、あんまり動揺してない。自分に起こった出来事って、実感がないからじゃろうな」

 琴は止めていた箸を動かし、昼ごはんを再開した。

「それよりも、今は午後の講義に間に合うようにせんと。午前中はほとんど成果なかったし、市の図書館まで行ったのほうがええんかもしれん」

「俺は夜バイトあるけ、今日はここまでしか付き合えんよ。両親から道通神社の管理者聞けたら、LINEして」


 講義を終えて大学を後にすると、琴は一人で市の図書館へ向かった。郷土資料から露山について調べたが、大した情報はなく終わった。やはり、直接神社の管理者にあって歴史を聞いたほうが早いのかもしれない。

 そもそも、あの神社が2人の怪奇現象に関連しているとも決まっていないのだ。またまた神社の近くで琴が発見され、2人もおかしな体験した、という共通点があるだけだ。

 徒労に終わった家路への足取りは重かった。昨夜の寝不足も重なって、すでに眠気に襲われた。

(今日はさっさと布団に入ろう……)

 自宅に着くと、また店舗に立っている母の背中が見えた。自宅のすぐ前が小さな店舗なので、せかせかと冷蔵庫の周りを動いている。お客さんは居ないようなので、早速神社の管理者について聞いてみることにした。

「ただいま」

「おかえり。今日は早かったんね」

 昨日はあんな事がありファミレスでしばらく界人と話していたせいで、帰宅したのは19時を回っていた。

「今日は講義だけじゃから。それより、聞きたい事があるんじゃけど」

「何?」

「家の裏にある道通神社って、誰が管理しとる?神主さんはおらんで、地域で管理しとる神社やろ?」

 母は冷蔵庫の作業を終えて、琴に体を向けると腰を擦った。中腰が辛かったのだろう。

「よう知っとるな。それも大学の勉強なん?」

「そう。共同研究の人が道通神社の事調べとって。管理者の人からの直接歴史とかを聞きたがっとるんよ。誰が知っとる?」

「山本さんじゃけど……。話しを聞くのはどうかな……」

 珍しく母が渋っている。

 母は店番をやっているこ事もあり、琴と違って社交的で人付き合いも多く、顔が広い。大抵の人とは上手くコミュニケーションを取れる人だった。

「お母さんがそんな事言うの、珍しいな」

「山本さんはお婆さんで、かなり高齢なんよ。最近はそれを理由に、街の会合にも顔をほとんど見せんし。来たとしても、周りの人とは口を聞かんのよ。黙って座っとるだけ。確か、琴と同い年位のお孫さんがおったはずじゃけど……。見たことないんよな」

 これは初耳だった。しかし、琴の同級生に山本という者は居ない。他の学年は知らないが、少なくともこれだけ近所なら顔を見たことがあるはずだった。

「そうなん?あたし全然知らんよ?」

「そりゃぁそうよ。小学校は違う所に行ったらしいし、中学もほとんど登校してないって聞いたからな」

 不登校だったのだろうか。後で中学の卒アルを見てみようと思った。

「その山本さんの家ってどこ?ダメ元でアポ取ってみる」

「山の麓にある大きなお家よ。電話番号は分かるから、帳簿見てみ」

 母に礼を言うと、早速固定電話の前にある電話帳で調べた。豆腐の配達もするので、琴の家にはちゃんと電話帳がある。昔からの付き合いも多いので、数代分の連絡先が書かれていた。

 『や』の行をパラパラとめくると、『山本』の苗字があった。5軒ほど書いてあるが、1軒を除き他は全て二重線で消されている。引っ越したり亡くなったりして、すでに居ないと言う事だろう。その名前と電話番号をメモすると、界人に知らせた。

『神社の管理者、分かったよ』

 バイトだと言っていたので、既読がつくのは夜遅くだと思い、その日はさっさと寝ることにした。

 

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