この先
それから程なくして、双子の解呪は行われた。琴も界人もその場に立ち会いこそしなかったが、山本家の家で待機していた。
解呪後の2人の首には、トウビョウ持ちの証しである金輪がなくなっており、成功したと分かった。
「天狗のサネミに報告しなくていいの?」
青透にそう聞いたが、
「どうせどこかで見てるからいいよ」
と笑っていた。
やがて大学が始まり、琴も界人も無事に3年に進級した。講義に実習、ゼミとさらに忙しくなったが、2人でいる時間は長くなった。
「琴は研究テーマもう決めたん?」
いつもの外庭のテーブルに2人で座り、卒業論文のテーマについて話し合っていた。
「まだ。大方決めてはいるけど」
「いいなぁ。俺はザックリとしか浮かんでない……」
「夏休みのフィールドワーク、海外に行こうかとも思ってる」
「えっ!マジで?」
「マシマジ。こんな機会じゃないといけないしさぁ。せっかく制度があるなら使わないと」
「琴は随分とオープンな性格になったよな」
「界人のせいじゃん」
「そうか?」
「そうなの」
琴の何を変えたのか自覚がない界人は首を傾げたが、
「それなら責任とらんといけんかな……」
呟いた。
「責任?」
「琴の性格と人生を変えた責任」
「人生は変えてなくない?」
「そんなことないじゃろ?神隠しにもあったし、イケメン双子とも出会ったじゃん。後継になりそうな働きぶりなんじゃろ?」
「お父さんが思いのほか、2人を気に入ったからね……」
双子はせっせと働いていた。覚えも良くて助かると、両親は大層喜んでいる。
「琴が跡を継がんで良くなったのは大きくない?」
「元からそんな事言われてないって……」
「なら、琴の初めてを色々と貰った責任かな」
ニヤニヤ言われて、
「ちょっと!ここ屋外!」
赤くなった琴は思わず声を潜めて周りをみた。しかし杞憂な心配で、周囲には誰もいなかった。
「聞いとる人おらんよ。そっちの責任はとっていいじゃろ?」
「……界人以上に良い人が現れなければね」
「いや、現れんじゃろ?」
「分かんないよ?海外に行って劇的な出会いをするかも知れんし」
「俺も一緒に行くからそんな事にはならんよ」
「なら、界人の方が出会うかもしれんよ?」
「それもあり得ない」
界人はきっぱりと言うと琴の手をとった。
「琴しか居ない」
ううっ、とうなり耳を赤くした琴を見て、
「可愛い」
と呟く。
「昨日の夜も可愛かったけど、今も可愛い」
「そういう事言わんで!」
ガンと足を蹴ったが、全く痛くなさそうに界人は笑った。
「琴が行くなら、俺もマジで一緒に行くよ?一人で行かすわけないじゃん」
「研究兼ねてるから一人じゃないけど……」
「近寄ってくるムシを払わんと。それに海外でも神隠しに遭ったらどうするん?経験者が一緒におった方がええじゃろ?」
「そんな頻繁に神隠しにあったりせんから!」
「分からんよ?そういう話は国関係なくあるしな」
界人は琴にピッタリ寄り添うと、
「心強いじゃろ?」
ニカッと笑った。
「……あんまり」
照れ隠しで琴が言うと、
「本当はそんな事思ってないくせに」
と笑った。
「それより、今日はどうするん?うちでご飯食べるの?」
「行く行く。双子にも会えるし」
界人はしょっちゅう白透と青透の試作品を食べていた。専属試食者のようになっていた。
「なら連絡しとく」
「琴と海外かぁ。新婚旅行みたい」
「いや、勉強だからね?」
「琴と一緒ならどこでも楽しいの」
「界人、本当によく軽口叩くようになったよな……」
「軽口じゃなくて、本音だって。琴はもう少し本音を言ってくれてもいいけどな」
「……言ってるじゃん」
「ベットの中でだけな?」
「界人っ!」
いよいよ真っ赤になると「ごめんって」と殴る手を制した。
「ほら、そろそろ講義行こ」
手を繋いで移動し始めると、後ろから遠矢が
「今日も一緒?仲いいな」
と茶化してきた。
「結婚式には呼んでな」
「わかっとる」
軽く返す界人に、笑って遠矢は行ってしまう。
「ほんまに口軽い……」
「本番はもっとじっくり言ってあげる」
界人が笑った。
琴は少し口元が緩んだが、気を取り直して講義に向かった。
随分と変わってしまった日常と性格。
たった半年もない日々が、こんなにも人生に影響を及ぼすとは思っても見なかった。
でも決して悪い気はしない。
琴はこの先の人生が楽しみで仕方なかった。




