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ヨリカカリ  作者: 栢瀬 柚花


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34/40

蛇の社


「おはよ」

 翌日遠矢達と合流すると、皆

「顔色良くなった」

「ちゃんと寝れた?」

「食事した?」

 口々に心配の声を掛けてくれた。

「迷惑かけてごめん。だいぶ楽になった」

「なら良かった」

 遠矢も他のメンバーも深くは聞いてこなかった。琴にとってはそれがありがたかった。

 遠矢はスマホの地図を琴に見せると、赤で囲った場所を差した。

「今日はここを見て回る。今までも目撃情報はないけど、最後に界人らしき人がいたのがここのあたりじゃから」

「警察は特に捜索してないんよな。家出だと思っとるみたい。昨日警察署に行って聞いたけど、返事は変わらんかった」

「皆、連日捜索してくれてるけど大学はいいの?」

 心配になってそう言うと、

「大学は春休みじゃろ?」

 全員がキョトンとして琴を見た。

「えっ?」

 琴は日付を思い出そうとしたが判然とせず、スマホで確認した。

 確かに一昨日から春休みになっていた。寝不足でまったく頭が働いていなかったらしい。

「そっか……。そうなんじゃ………」

「稲田さん、ほんまに時間間隔ズレとるな。あと2週間は大学の心配しなくていい。体調良くないなら早めに言って。休息した方がいいから」

「平気。本当に。頭もスッキリしてるし、体も軽い。今日はこの辺り……。あっ、山本のおばあさんは?」

「今日は見送るって。膝が痛いらしい」

 体調がよい日は白透の祖母もこの捜索隊に参加していた。毎日というわけにはいかなかったが、琴も何度か一緒になった事がある。

「そろそろ1週間になるな……。いい加減、何か進展が欲しい」

 遠矢が零した。

 

 白透が消えて1週間、界人が失踪して6日が過ぎようとしていた。

 2人はどうしているのだろうか。ここまで手がかりがないと、やはり神隠しにあっているとの疑念が琴の中で高まっていた。そしてどうしても道通神社の周辺が気にかかった。

(遠矢達の捜索予定範囲が終わったらたま足を向けよう)

 そう決めて、全員で目的地に向かった。

 

 午後3時。

 一通りの予定範囲が終了した。

 昼頃、白透の祖母に「一段落したらここへ来なさい」と言われていたので、今は山本家の庭で休憩中だ。

 お茶と和菓子が振る舞われ、だいぶ暖かくなった日なたで明日の作戦を立てていた。

「もう一回黒羽神社の周辺をあらう?」

「あの街のあたりには行ってなかったらしいけど」

「それでも少し回ろうよ。帰り、また界人のマンション行ってみる」

 琴は聞くともなくボーっと空を眺めていた。まだ寝不足がたたっているのだろう。午後になると頭が半分働いてないような心地だった。

「稲田さん、このあと界人のマンション寄るけどどうする?多分鍵がかかったままじゃと思うけど」

「あたしはいいや。また道通神社の方に行ってから帰るから」

 琴は捜索の度に道通神社周辺に寄っていたため、メンバーは何時もの事だと納得して「分かった」と頷いた。

帰宅すると全員がグループLINEに一報を入れる約束だ。

  

 30分の休憩が終わると琴は1人、道通神社へ向かった。

だいぶ春めいて、茶色しかなかった山には所々緑が見え、暖かな風が吹くようになっていた。まだ木々の新芽は見えないが、それでもカタクリやスミレが咲き心を和ませた。

 この道を界人と歩いたのは3ヶ月前。遠い過去のようで不思議な気分になった。

(まさか付き合うことになるなんて……思ってもみなかった)

 白透も当初より笑うようになったし、初対面の時とだいぶ印象が変わった。

 2人を懐かしむように思い出す。

(白透の声もずっと聞いてない……もう忘れてしまいそう。界人の笑顔はまだ覚えてるけど……クセとかなんだっけ……)

 まだ鮮明に仕草や声が思い出されるが、たった1週間で細部の記憶が曖昧なっていた。このままだと全てが希薄になってしまう。そんな恐怖があった。

(あんなに一緒にいて、買い物までしたのに……。こういう時、写真が必要なんだ…)

 界人、白透と撮った写真は一枚も無かった。

 琴のカメラに収められているのは風景や植物、人工物ばかりで、人間は1枚もない。どれだけヒトに興味が無かったか、よく分かる。

(2人が帰ってきたら一緒に写真を撮ろう。おばあさんと白透も、高杉宮司も入ってくれるかな……。あとは遠矢達……)

 浮かんでは消える知人達の顔。

 そして界人。

 手の感触、肌に触れる指先、グイッと引き寄せる力、抱きしめる腕……。その全てが愛しくて切なくて、

「―――会いたいよ、界人」

勝手に言葉がもれた。

 呟くとどうしても恋しくなって目が潤む。

(思えば、あたしから界人に抱きついたことない)

 今までは恥ずかしさが勝ったが、もしまた会えたら。

「きっと飛びついちゃうな……」

 そんな事を思う日が来るなんてと、思わず笑みが溢れた。恋って恐ろしい。

 滲んだ涙を拭って気を取り直して顔をあげる。

 もう少しで目的地だ。

「………あれ?」

 琴は目をぱちくりさせた。

 先ほどと山の様子が違う。

 どこか鬱蒼としていて薄暗く霧がかかっていた。

 あたりをキョロキョロ見回す。

 足元に見えていたカタクリやスミレがない。

 暖かいと感じていた風も吹いていない。

 後ろを振り返るが、霧でよく見えなかった。

 前方も同様で、先が見通せない。

「また時間飛ばしにあったのかな……」

 不安になってスマホを取り出し時間を確認したが、矛盾しない時刻だった。

 不思議に思いながらも、とりあえず前進することにした。


 道通神社方面へ歩いていくと、やはり景色が違う気がした。どうにも雰囲気が異なる。周りは見分けがつかない木々と草ばかりの光景だが、既視感がない。

 引き返そうかとも考えたが、何かが琴を止めた。

(もう少し先に行ってみよう。せめて道通神社あたりまでは……)

 なぜかそう思えた。

 

 5分ほど足を進めると、石階段が見えた。

 琴は息をのんだ。

 道通神社の道すがらに、こんな石階段はない。

 そしてこの階段は見覚えがあった。

 斜面になった先にある石階段。草や苔が生えていて手入れがされていない。

 今ならハッキリと分かる。

 夢で見た階段そのものだ。


 琴はゴクリとツバをのんだ。喉がカラカラだった。

 

 20段ほどの石階段を上がっていくと社が見える。

 古めかしい屋根には草が生えている。しかし縁側や障子は綺麗で、手入れされていると分かった。

 緊張を隠しきれず、ゆっくりと社に近づくと話し声がした。

 何やら揉めているのか、複数人の声が混じっている。

 社の短い木製の階段を登って、耳を澄ませる。

「――じゃ……んか?」

「だけ―――は……と…………た?」

「青――何……こんな……――っていうん?」

 どうやら3人の声だ。

 

 そしてそのうち2つには聞き覚えがあった。

 

 琴は障子を明ける。

 中は薄暗く、外の日差しがほとんど入らないようだった。床は美しく磨かれ艶のある木目が、僅かな光源しかない中でも分かるほど光っている。

 

 白透と、白透と同じ顔をした青透と思しき青年。

 そして――――。


「界人!!」


 ガラリと急に開けられた障子を中にいる3人全員が見ていたが、琴はそんな事どうでも良かった。

 界人の名前を叫ぶと駆け寄って、遠慮なく飛びついた。衝撃で「うっ」と息を詰まらせた界人は

「琴?」

 驚いて恋人を見た。

「どうしたん?そんなに慌てて」

 まるで事の重大性が分かっていないのか、界人は何の気なしに尋ねている。

「やっと……やっと見つけた―――!」

 界人の服を強くシワができるまで握った。

 震える肩を見て尋常でなく動揺していると踏んだ界人は、状況が理解できず混乱していた。

 琴の肩にそっと手を置くと、頭を撫でてくれる。

 その手が望んだ温かさをしていて、ようやく実感を伴って心と頭が追いついた。

「界人………探した――。ずっとずっと探してた…………」

「そうなん……ごめん。心配かけたみたいで」

 抱き締めてくれ跳ねた心臓が少し落ち着いた。

 琴は奥に立つ白透を見た。

「白透も………。やっといた…!おばあさんが凄く心配しとるよ」

「ばあ様?なんで?もうだいぶ夜になったかな?」

 キョトンとした様子から、やはり時間間隔がおかしくなっているのだと理解した。

「2人とも、早くここを出よう。青透」

 初めて青透を正面から見た。

 確かに見た目も背格好も白透とそっくりだ。

 しかし目だけが違った。白透よりも暗く淀んで、光がないようだった。

「あなたも一緒に行かなきゃ。こんな所出ないと」

「待って琴。今、青透と話してる最中で―」

 説明しかけた白透の言葉を遮って、

「ダメ!これ以上ここにいたらもっと大変なことになる!」

 強く言った。

 あまりにも強い反論に界人も白透も驚いていたが、青透だけは違った。

 口角をつり上げて薄暗く笑っている。

 その顔に背筋がゾクゾクした。

(全部分かってるんだ)

 確信した。

「2人とも、外の世界でどれだけ時間が経ったか分かってる?1週間だよ?!」

 理解できてない2人は呆然として、

「何言ってるの?まだ数時間しか経ってないはず」

「俺もそんな感じじゃけど……また時間がおかしいんか?」

 同じ体験をした界人が素早く危機を感じた顔になった。

「この場所は外と時間の流れが違う。早く出よう。1週間居なくなっただけで、どれだけ皆が心配したかっ!」

 界人の腕をグイグイ引っ張り一つしかない入り口に誘おうとする。必死の様子に

「白透、琴の言うとおりにしよう。社の外に出れば全部分かる」

 白透を促した。

「話の続きはあとじゃ。青透、ちゃんとついてこい。ダ駄々をこねるなら強制的に連れて行くからな」

 言葉荒く言われたが、青透は意に求めなかった。琴をじっと見て、

「やぁ、琴。久しぶり。1月以来じゃな」

 どこか暗さを感じる笑顔で言った。

「やっぱりあの時会ったのは白透じゃなかったんじゃ……」

 今なら違いがハッキリ分かる。見分けがつく。

 こんなにも目が違うのだ。見間違えるわけがない。

「途中からおかしいと思っとったじゃろ?警戒しとったもんな?」

「そんな話はいい!とにかく一度外に出て」

 鋭く言う琴に、

「なんで?」

 冷たい声で返す。 

「俺は行かない。必要ない。帰る場所なんて向こうにはない」

 矢のように刺さる鋭い目だった。思わず体がこわばる。

「駄々をこねるなって言ったよな?」

 界人が琴の前に立ち、視線から庇った。

「琴、先に社の外に出とって。青透を引っ張って行くから」

「ダメ!全員一緒にここを出るの!別々になったらどうなるか!」

 ここは現実と違う。きっと離れ離れになったら厄介なことになる。琴にはその確信があった。

 強い剣幕にビクリとした界人だが、すぐに

「分かった。なら琴も手伝って」

 と言い直した。そして2人で改めて青透を見る。 

「ははっ!鋭いな、琴」

 捉えようとする視線をものともせず、青透は笑い飛ばした。

「琴が正しい。一度社から出たら合流は出来んよ。そういう風に仕掛けた。元の場所に帰るなら、4人全員じゃないと一緒には帰れん」

 白透は悔しげに顔を歪めた。

「別々に出ても元の場所には帰れるけど、時間が違うじゃろうな」

「なら、尚の事強制的に連れ出す」

 一歩前に出ると、

「琴は端っこにいて。手荒になると思う」

 コクリと頷くのを見て、入り口近くまで後退した。

「俺は行かないって言ってる。話聞けよ」

 界人に冷たく言う姿は白透と似ても似つかない。

「青透、何度も言わせるな。俺も界人もそのためにここへきた。お前がいないと意味がない」

 白透も界人と同じように臨戦態勢になる。

 

 同い年2人から囲まれても、青透はものともしていない。2対1でも意味がないと言わんばかりに嘆息すると、

「やめとけ。ケガをするだけじゃ」

 落ち着いて言った。

 しかし2人はじりじりと距離を詰め、青透を捉えようと伺っている。

 先に動いたのは白透だった。

 腕を掴もうと飛びかかるが、青透か腕を上げただけですんなり床に転ばされた。

 あまりにも鮮やかで予備動作も一切なく、琴は何が起こったか分からなかった。

 転ばされた白透もなぜ床にいるのか理解できていない様子の顔をしている。

 続いて界人が挑んだが同じで、スルリと避けると足をスッと伸ばして界人を引っ掛けた。軽い動きから想像もつかない音を立てて界人は床に突っ伏した。

 顔面を派手に打ち、嫌な音がする。

 界人と青透では体格が違う。しかし明らかにガタイが良い界人が、いとも簡単に青透にやられた。きっと体術の経験があるのだ。

 これは一筋縄ではいかない。

 男2人もそう思ったのだろう。再び立ち上がると青透に挑んだ。2人同時の時もあれば、スキをついた瞬間もあったが、どれもこれも赤子の手を捻るようにあっさりとかわされる。

 何度も床に叩きつけられるので、2人とも擦り傷だらけになった。

 20回では収まらない回数を繰り返すと、流石の青透も呆れていた。

「かなわないってもう分かったじゃろ?いい加減諦めたら?」

 うざったそうに姿勢を整える2人を見据える。

「そんなわけにいくか」

「わざわざこんな所まで来たんだ。絶対に連れて行く」

 心折れてない2人の言葉にイライラしたようで、青透の目つきが変わった。

 界人も白透もそれを察して、一段と気合を入れて挑んだ。

 しかし腕にグッと力を込め2人をて薙ぎ払うと、凄い勢いで壁に叩きつけた。

 まるで漫画のように2人が吹っ飛び、床に沈むと動かなくなった。

 

 あまりにも一瞬の出来事で、琴は瞬きをすることもできなかった。

「少しは静かになった」

 軽い運動をした様子もない青透はそう言うと、呆然と立ち尽くす琴を見る。

「久しぶりじゃな、琴。俺の事覚えてないんじゃろ?」

 話しかけられ緊張した。

 頼りの界人は落ちている。すがることは出来ない。

「覚えとるよ」

 なんとか2人の意識が戻るまで時間をかせがないと。

「嘘。1月に会った時、神隠しに遭った時のことは覚えてないって話してくれたじゃん」

 琴は訝しんだ。

 青透が言っているのは7歳の時の事だ。

 やはり神隠しで連れて行かれた先で、青透と会っていたのか?

「あの時、あたしは青透と一緒にいたの?」

「そうじゃ。この社で話をしたじゃん」

「………覚えてない。あたしを連れ去った人と、青透をここに連れてきた人は同じなん?それとも、たまたま同じ場所に集められただけ?」

 質問に青透は首を傾げた。

「そこも覚えてないか」

 青透はゆっくりと琴に体を向けた。

 何やら楽しそうに顔を歪めている。

 嫌な予感がした。

 

「7歳の時、琴を連れ去ったのは俺よ?」

 

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