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ヨリカカリ  作者: 栢瀬 柚花


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失踪


「琴が消えたことは知ってるじゃろ?7歳の時じゃった。あの時もそうで、7歳の子供が消えるにしては状況が不自然すぎた。人の仕業とは思えんことばっかりで……。警察も捜索に協力してくれた人達も信じてはくれんかったがな。琴は人じゃないモノにつて行かれた……。俺も妻も婆さんもそう思った」

 オカルト的な話なんて一切したこがない父が、至極真面目な顔でそんな事を言っている。

 琴も界人もあんぐりと口を開けて話に聞き入った。

「帰ってこないかも知れん……。1週間絶望して過ごした。もう家の中は通夜のようで、3人とも食事も喉を通らんかった」

「あの…具体的に琴が消え状況を聞いても?」

 父はギロッと界人を見た。思い出しくないのかもしれない。しかしそんな視線を受けても界人は怯まなかった。

「白透が消えた事と関連があるかもしれない。そう考えてるからこんな話をしてくれるんですよね?」

 強気にそう言われ、父は嘆息した。

「お前に威嚇はきかんな」

 口角を上げた。笑ったのだ。

「妻と同じじゃ。平気な顔して受け流してくる」

 決して不快ではなさそうにそう言うと、話を続けた。

「琴は学校から帰って近所の子供と遊んどった。場所はこの家の店先で、店舗にいた俺たちからもその姿が見えたし、婆さんも傍で見とった。

 小さい子供が到底登れないコンクリートの壁が背中にあって、左右に店舗と婆さん、前方には数人の子供達。その状況で琴だけが消えた。他の子供達の世話をやいて目を離した30秒ほどの時間だった」

 状況を思い描いた2人は、確かに逃げ道や隠れられる場所は限定されると分かった。

「もちろん、最初は家に入ったんじゃと思った。じゃけど俺たちは気がつかんかったし、家の中にも居なかった。他の大人が近寄ってきたわけでもなかったから、誘拐じゃないのは分かった。

 最初はすぐに見つかると思った。思いつきで勝手にかくれんぼでもしてるんだろうと、婆さんと子供たちは面白がって探したがどこにも居ない。名前を呼んでも、降参だと言っても、出てこない。

 1時間もしないうちに全員の顔色が変わった。必死にあちこち探して近所の人にも声をかけて行方を聞いたが、誰も見ていない。家の中も探し回ったけど姿はない。いよいよ焦って俺も妻も必死に琴を呼んだが出てこない。生きた心地がしなかった」

 琴は初めて失踪時の状況を聞きいた。こんなにも生々しく話をされたのは初めてだった。

「そのうち取り乱した婆さんが警察に連絡して捜索が始まった。じゃけどなんの手がかりもなく時間だけがすぎた。ついにその日には見つからんかった」

 琴と界人は聞き入った。言葉を挟むなんて出来ない雰囲気だった。

「失踪時の状況が状況だけに、警察も誘拐の可能性はなかり低いと思っているようだった。じゃけど日が経つにつれて警察の様子が変わった。どうやら俺たち家族が琴に危害を加えて、それを隠していると考えているようだった」

「そんな!自分達で通報したのに?」

 界人が思わず声を荒げたが、父は小さく笑っただけだった。

「子供を突然失った悲劇的な家族。それを演じていると思われとった。もちろん、警察の全員がそう考えてる訳じゃない。一部の疑ぐり深い警察からそう見られとった。

 俺たちは琴が消えたショックと、信頼していた警察からもそんな目で見られた事に酷く疲れた。婆さんは失踪から3日目には倒れた。

 このまま琴は見つからず、あらぬ嫌疑をかけられて逮捕されるのかと頭がおかしくなりそうだった。この世に信じていい人間はいないとさえ思えた。そんな時、突然警察から連絡が入って琴が帰ってきた」

 その時の気持ちが思い出されたのか、父が微笑んだ。

「驚いた。いよいよ精神がおかしくなって夢でも見てるのかと思った。ちゃんと抱きしめられたし、温かみもあったから現実なんだと分かったが、それでも信じられなかった。琴はキョトンとし事の重大性が分かってないようで、俺たち夫婦を見て平然と言うんよ。『晩ごはん何?』って。あれには思わず笑った」

 琴はなんだか恥ずかしくなった。そこまで食い意地は張っていなかったはずだ。

「琴は1週間も消えてる自覚がまるでなかった。『1時間くらい外で遊んでただけ』と言っとった。だから晩ごはん何?って聞いたらしい」

 琴も界人もピクリとした。

 時間間隔のズレ。

 思い当たる節がある。

「どこで何をしとったか聞いたが『男の子と遊んどった』としか言わなかった。それも時間が経つにつれて曖昧になって、3日もすれば忘れてしもうた。最終的には何も覚えてないと言っとった。今もそうなんじゃろ?」

 琴は頷いた。

 本当になんの記憶もない。

 失踪直前に他の子供達と遊んでいたことさえ知らなかった。

「見つかった当初、警察には『気がついたら男の子がいて、一緒に遊んでた』と説明していらしい。大人に連れてこられたわけでも、自分から歩いて行ったわけでもない、気がついたら違う場所にいたと、そう言っていたと。

 警察からは精神疾患や脳の病気についても聞かれたが、琴にそんな既往はない。念ため後から病院にも行ったが、なんの問題もなかった」

 父はそこで顔を上げて琴を見た。

「どうだ?話しを聞いて何か思い出すか?」

 尋ねられたが、琴は首を横に振った。

 まるで他人事のようで、過去に我が身に起こったことと思えなかった。

「そうじゃろうな。戻ってきてから3日以降の琴は、ずっとそうじゃから。

 俺達も婆さんも琴をそれ以上追求しなかった。暴力を振るわれたりしたわけじゃなそうだったが、きっと忘れたいんだろうと考えたからだ。失踪時の状況も話したことはない」

 父はそこまで話すとお茶を飲んだ。

「どうだ?鷹取。友人を探す上で何か参考になったか?」

 界人は思案した。

 琴も考えたが、共通点はあるように思えた。

 

 不自然な時間の流れ。本人には長時間時が過ぎた自覚がないこと。

 そして明確にならない失踪理由。


 実際の失踪時の状況は白透に聞いてみないと分からないが、消える場所なんてない所で突如として別の場所にいたのなら、やはり神隠しと言えるだろう。


「共通点はあると思います。思いで当たる節がないわけじゃない。ありがとうございます、話してくれて」

「そうか」


 父はそれ以上喋らなかった。

 食事を持ってきた母は「暗い顔してもどうにもならん。取りあえず食べれる時には食べとき。味がせんでも食べた心地がせんでも、胃に何か入れとくのは大切なんよ」

 きっと台所で話しを聞いていたのだろう。

 説得力のある言葉を言われた。


 4人は夕食をともにした。決して話に花が咲くわけではなかったが、それでも空気は悪くなかった。

「俺、明日には大学行くわ。白透の事は探したいけど学費とか出席日数の事を考えたら、そうした方がいいよ。何より、あとから白透から怒られそうな気がする」

「それはちょっと分かる気がする……」

 食事を終えた界人が帰宅のため玄関で靴を履いてる時、琴にそう言った。

「バイトも穴ばっかり空けていられんし。白透も青透も捜索はするけど、人手がいるよな。遠矢にも声かけてみようかな」

「池田くん?」

「そう。けっこう面倒見がいいやつじゃし、頼みごとしたら手を貸してくれること多いから」

「でもなんて説明するん?」

「『困ってるから手伝って』」

「……それだけ?」

 驚く琴を見て、界人は笑った。

「それだけで動いてくれるやつなんよ。理由は深く聞いてこんと思う。あとで何か奢れって言われるけど」

「普通は説明いるよ?物を探すわけじゃないんだから」

「普通はな。でも遠矢は違う」

 きっぱりと言い切る界人は遠矢を信用しているのだと、琴にも分かった。

「明日遠矢に言っとく。蛇の嫉妬かあるからあんまり深くは関わらせるつもりはないよ」

 トントンとつま先を地面に打ち付けると、

「じゃあ、また明日。大学一緒に行こう。迎えに来るから」

 界人は笑って帰っていった。少しは気晴らしになったようだと安心して、琴は見送った。


 しかし翌日、界人は来なかった。

 白透と同じく、突然と姿を消した。

 

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