表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヨリカカリ  作者: 栢瀬 柚花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/40

祖母の話


 蔵は埃っぽく、やはり琴達が年末に踏み入って以来、誰もここへは来ていないようだった。

 琴は換気することから始めた。12月より蔵内は寒く、持参したカイロを早速貼った。

 軍手とマスクをして1階の掛け子を全て開け戸も開くと、寒い風が吹き抜ける。ついでに床も箒で履くと土臭さがだいぶ薄れた。

 半分掛け子を閉めると、竹籠と藤籠を前に立つ。

「よし、始めるか」


 和綴じ本の表紙には題名が書かれたものと、そうでないものがあった。明記されているものは公の資料として記された物が多く、名無しの本は蔵の管理だったり収めた調度品の品目が書かれているようだった。

(せめて解析する本の絞り込みはしておきたい……)

 本日の琴の目標はそれだった。

 

 藤籠と竹籠の中にはざっと見ても200は本がある。題名がある本はおそらく違うと踏んで、除外する場所に移した。名無しの本は中身を見ないと内容が分からないので、時間がかかる。

 作業を繰り返しているとアラームが鳴った。開始から3時間を知らせるもので、休憩の合図だ。

 時刻は13時。一息つくと空腹を感じ、庭に出て持参したおにぎりとみそ汁を飲んだ。白透に一つおにぎりをあげてしまったので些か物足りなさを感じたが、仕方ない。

(次からはもっと具沢山のみそ汁にしよう……)

 ゼリー飲料も持ってくれば良かったと考えていると、

「稲田の娘」

 急に声を掛けられた。琴は飛び上がるほど驚いて、ビクンと体が跳ねた。

 振り返ると白透の祖母が立っていた。

 前回見た時よりも小さくなった気がした。

「あっ、庭先ですいません」

 慌ててスープジャーの蓋を閉めると「慌てんでいい」鋭く言われた。

 琴の手元を見て、

「昼はそれだけか?」

「はい……」

 おずおず返事をすると祖母はくるりと踵を返し、

「こっちへ」

 家に向かって歩き出した。

 琴は急いで荷物を鞄に仕舞うと、後を追った。


 案内されたのはいつもの客間だった。暖房がすでに付けられている。

「あれだけだとひもじいじゃろう。これも食べなさい」

 出されたのは筑前煮と卵焼きだった。小さめのおにぎりもある。

 すでに机の上に置かれているが、湯気が見えるのでわざわざ琴のために温めてくれたらしい。

「いいんですか?」

「白透が世話になっとるからな」

 急須からお茶を淹れる顔は心中が読み取れなかったが、きっともてなしてくれているのだと思い、

「なら、遠慮なくいただきます」

 座布団に座った。

「いただきます」

 箸をとって煮物に手を出す琴を見ながら、何か話すわけでもなく、食べる姿を見ていた。どうにもやりづらかったが、祖母が立ち去る様子はない。

 気にしないようにして箸を進めた。

 卵焼きは出汁の味がして料亭で食べる味のようで、琴の好みだった。

 筑前煮はよく染みていて美味しかった。肉も柔らかく、鶏肉がプリプリしていてパサツキがない。

「筑前煮美味しですね。鶏肉にパサツキがないし、野菜にも味がしみてて、好きです」

 素直に言うと、

「そうか……」

 少し俯いて黙る。

 パクパクと止まることない琴の食べっぷりを見ながら、

「青透が好きじゃった……」

 ポツリとそう教えてくれた。

 琴はピタリと動きを止めて祖母を凝視した。

「まだ5歳じゃったのに、古風な物が好みでな。ごま豆腐に筑前煮、生姜焼き……和風なものばかり食べたいと言っとった……。白透はオムライスやミートソースが好きで、よく喧嘩になったな。献立を考えるのに難儀した――」

 懐かしむように細めた目から、流れるものがあった。


 やはり青透の事は深い後悔と懺悔があるようだ。一概に責める言葉を投げつけられるわけもなく、琴は静かに続きの言葉を待った。

 そっと涙を拭うと鼻をすすり、

「青透の事は感謝しとる。白透も年相応の顔をするようになった……。わたしはもう何も言わん……。好きに調べてみればええ。聞きたいことがあるなら答えよう」

 顔を上げると、初めて琴の目を見た。

 10年以上前に自身の祖母を亡くした琴にとっては、懐かしい眼差しだった。

 琴は箸を置いて彼女を見据えた。

「ありがとうございます。今日は解析する本を見つけるところまでいければと思います。山本家とトウビョウ持ちについて、記録されている本がどれか分かりますか?題名がついてない本だと思うのですけど……」

「さぁ……。先代から聞いたのはことはない。存在しとる、という事だけが口伝されとる」

「記録自体はあんるですね?」

 頷くのを見て、琴は作業は無駄じゃないと勇気が湧いた。

「なら、蛇憑きの呪いの解呪については?試みたことがあのか、知ってますか?」

「いいや……。聞いたことはない。昔、妖が信じられ陰陽師がいた時代に試みたのかもしれんがな。近代では聞かん」

「……そうですか。なら、歴代のトウビョウは皆男性でしかた?」

 おかしな質問する、とばかりに眉を寄せた。

「少なくとも、先代、先々代は男じゃな。それ以上は知らん」

「家系図とかもありますかね?」

「山本家の史実を書いた本になら、あるいは……」

 3代続いて男性がトウビョウ持ち。

 界人の考えた通り、トウビョウは代々男性があてがわれるのかもしれない。

 (家系図に名前が載ってるはず……。トウビョウって分かるように印がされとればいいけど……)

 考えていると、

「何故男性か聞く?重要か?」

 訝しんで尋ねられた。

「呪物が簪なことが気にかかって。簪は女性しかつけないので、もしかすると歴代のトウビョウは皆男性なのかな、と。男性が身につける呪物もあるなら話は別なんですが。何か心当たりがありますか?」

 祖母はすぐに首を横に振った。

「代々受け継がれてきたのは簪だけじゃ。他にはない」

 これで確定した。

 きっとトウビョウ持ちは男性しないない。

「なら、男性であれば白透と親しくしても平気なのでは?」

 これにも、祖母は首を振った。

「一概には言えんのじゃ。かつて親友程に親しかった者も被害にあった事がある。先々代の話じゃがな。痛々しい最後じゃった……。鷹取のも、気をつけたほうがええ」

「そうなんですか……」

 完全に当てが外れた。

(界人に早めに連絡しておかないと……)

 やはり簪が作られたのは、子孫を残すという意味で女性が大切だったからだろうか。

(亡くなり方まで具体的に書かれてたらどうしよ…。流石に読みたくない)

 空恐ろしい想像をしてしまい、思わず体が震えた。

 完全に箸が止まった琴に、

「冷めんうちに早う食べなさい」

 食事の再開を促して、お茶を勧めた。 

 琴が再び箸を取ると、残りをあっという間に平らげてしまった。

「ご馳走様でした。凄く美味しかったです」

「そうか」

 少し満足げな声に、祖母が笑ったのだと分かった。

 立ち上がって作業に戻ろうとする琴に、

「本だがな」

 前置きなしに話しかけてきた。

「解読出来るものが見つかったら、持って帰りなさい」

 これには驚いた。

「えっ!そんな!貴重な歴史書ですよ?」

「どのみちトウビョウ持ちや山本家の歴史が記してあるなら、残した所で人目につく扱いはできん。焼却処分するしかない。そっちの家から出さんのであれば、何日かけてもええ。思うだけやってみなさい」

 これには躊躇したが、ずっと蔵で作業しなくても良いのは正直助かった。自宅なら資料もあるし、直接データをパソコンに打ち込めて界人に添付出来る。何より、暖もとれる。

「分かりました。ありがたく、そうさせてもらいます」

 一礼すると、琴は客間をあとにした。


 白透の祖母の後ろ盾を得られた事は、思いのほか追い風になって作業は捗った。

 めぼしい本は右手に、そうでない本は左手にと仕分けしていくと残ったのは5冊だった。うち3冊が山本家について、2冊がトウビョウ持ちについての記録と踏んだ琴は、その5冊の持ち帰りを報告した。

「解読結果をまとめたらお知らせします。白透と一緒に見てください。あたしの携帯番号も白透から聞いているのと思うので、何かあったら連絡してくださいね。お昼。ご馳走様でした」

 

 意気揚々と帰路についた琴は、自室に入ると早速2人に今日の出来事を伝えた。

 3人でやり取り出来るグループ部屋を作ったので、そこでやり取りをした。

 祖母と進行が出来たことは2人の驚きを大いに招いた。食事を振る舞われた事、トウビョウ持ちは男性しかいないのだが、蛇の嫉妬の効力は性別問わず起こること、5冊の本を自宅に持ち帰ったことを報告した。

『性別問わずかぁ……。残念。あんまり派手な動きはせんようにする』

『ばあ様から話が聞けたようで良かった』

 それぞれから反応が返ってきた。

『そっちの進捗はどう?』

『特になし』

『こっちも同じ。明日は少し山に入ろうと思う。蛇を見かけたら話が聞けるかも。もう少し暖かくなったらみんな冬眠から目覚めるから、話を聞きやすくなるのに』

「山に入るって………。こんな寒い季節なのに……」

 琴は冬山に入るリスクを考えて小まめに連絡するように白透に釘を差した。

『分かってる。道通神社の近くは慣れてるから平気』

 スタンプが送られてきた。

「白透って寒さに強いよな……。蛇憑きの能力だったりするんかな?」

 気をつけて、のスタンプを送信した所で、界人と2人の部屋にメッセージが届いた。

『今日はお疲れ。また俺の家で詳しく教えて。解読も手伝えるから』

『資料はあたしの家から持ち出さないように言われてる。界人がうちに来なきゃいけないよ』

『お父さんが許可してくれる?』

 これには指が迷った。

 部屋に2人きりになるのは……どうだろう。

『わかんない。あとで聞いてみる』

 ちょうどその時、夕飯ができたとの声がした。

「タイミングいいな」

 琴はスマホを持って部屋を出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ