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ヨリカカリ  作者: 栢瀬 柚花


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22/40

日常の変化


 同好会の間、琴と界人は横に座って過ごした。互いに何となく気恥ずかしく、あまり顔が見れなかった。

 同好会出何を話したか、琴は記憶があいまいでずっと頭がふわふわしていた。

 気が付いたら解散となっていて、部会の部屋を出た所で界人から手をさせ伸ばされていた。

「帰ろう」

 琴は呆然と差し伸べられた手を見た。

「繋いで帰ろ」

 そう言われてやっと気がついた。

 おずおずと手を取ると、ギュッと握られた。寒風の中だったが、繋いだ手だけはポッポっとして寒さを感じなかった。

「手、繋いで良かった?」

「……今更じゃない?」

「そうじゃけど。琴の手、あったかいな。チャージするのにいいかも」

「チャージ?」

「あったかチャージ」

「あたし、基本冷え性だよ?」

「俺はあったかい方だから、琴のカイロになるわ。俺が冷えた時は琴が温めて」

「……それは分かんない」

 照れて意地悪にそう返した。

 界人は気分を害することもなく笑う。琴は眩しくその笑顔を見た。

「連休、黒羽神社行く時さ。白透に話していい?」

「話す?」

「琴と付き合えることになったって」

「……うん」

「白透は応援してくれたからさ。ちゃんと報告したいんよ」

「そうだね……」

「キスしたことは言わない方がいい?」

「言っちゃダメ!」

 慌てた琴の顔にフフッと笑うと、

「恥ずかし?」

 覗き込んできた。

「そこまで言わんでもいいじゃん!付き合ってるよ、でいいよっ」

 真っ赤になって言うと、

「琴はすぐに赤くなるな?可愛い」

 また笑われた。

「うっ……。可愛いくないよ……」

 マフラーを口までたくし上げた。出来るだけ顔を隠したかった。

「可愛いって言っても赤くなるな?やっぱり可愛い」

「うー……。あんまり誂うなら喋らないっ」

 拗ねるようにそう返すと、

「分かった分かった。琴の可愛いさを知ってるのは俺だけでいいからさ。二人きりの時、たくさん見せて?」

 面白そうに言われ、益々マフラーを上に上げた。もう鼻まで隠れてしまった。


 2人で豆腐屋まで帰ってくると、界人は琴を抱きしめた。

「ここはマズイって……。お店から見えるからっ」 

「いいよ。お父さんに見られたら、ちゃんと説明するし」

「お父さん、背凄く高いよ?」 

「身長って関係ある?」

「威圧感が凄いんだよ……」

「そう言う意味ね……。でも平気」

 界人は緩めるどころか抱きしめる力を強くした。

「今日は凄く良い1日だった。琴と付き合えた記念日。夢じゃないって自分に刻んどくの」

 耳元で界人の声がすしてくすぐったい。

「家に着いたらLINEする。用事なくても連絡する」

「……あんまり沢山はしなくていいよ」

「する。既読つけるだけでも良いから、見て」

「……努力する」

「うん」

 界人は満足いくまで琴を抱きしめると「おやすみ」と言い帰路に着いた。


 琴はまるで足が地に着いていないような気分で、帰宅後もふわふわしていた。

 夕食で何か両親と話した気がするが耳から耳へと抜けていって、頭に残らなかった。

 思い出すのは界人の事ばかりで、とりわけキスのことだった。布団に潜り込んで電気を消すと、繰り返して映像が思い出され、唇の感触をなぞってしまい眠気がやってこなかった。

 界人からのLINEは何度もやってきて、返事を返しているうちに深夜0時になった。その頃にはやっとうつらうつらしてきて、『おやすみ』と返事した所で記憶が途切れた。


 

 次の日から、大学では一緒に居ることが増えた。講義が重なっている時は隣の席に座り、昼食も一緒にとった。

 界人は友人が多く、その人達とも同席になるので琴は自然と知人が増えた。連休までの僅か2日で8人余りの顔と名前を覚えることになり、琴の人生初の出来事だった。

「界人って友達多いな……」

 やっと2人きりになったタイミングで、琴が呟くと

「そう?」

と界人は軽く返事した。

「特に仲いい奴はもっと少ないけど。顔見知りというか、たまに話すのはあれくらい人数おるじゃろ?」

「陰キャなあたしにそんな事言われても……」

「琴って陰キャかな?単に友好関係が狭いだけな気がする」

「似たようなもんでしょ?」

「全然違うじゃろ。同好会のメンバーみたいに、意気投合する人がおればガンガン喋るじゃん。そういう人は陰キャじゃないよ」

 真っ当な意見な気がして「そう……かも」と納得する。

「琴はもっと友達できると思うけどな。あっ、作れって言ってるわけじゃないよ。多けりゃいいってもんでもないしさ。疲れない程度に、ほどほどに」

「……覚えとく」

「話は変わるけど」

 琴のすぐ隣でノートを広げはじめた。

「明日の黒羽神社での質問じゃけど、琴は何を聞く予定?」

 琴もノートを取り出した。

「神社の歴史と天狗の神隠しの噂について。あと、露山と烏山が不干渉の理由、かな」

「まぁ、そんな所になるよな。神隠しについて何か収穫あると思う?」

「大学図書館では資料無かったし、可能性は低いと思ってる」

「白透が言っとった神隠し……どこからの情報なんじゃろ?」

「さぁ?明日聞いてみようか」

 そこへ遠矢がやってきた。琴はまだ3回しか会ったことがないが、遠矢は琴を知っているため気さくに話しかけてきた。

「よう、お二人さん。またいちゃいちゃしてんの?」

 界人から話しを聞いているので、2人が付き合っている事は知っていた。

「遠矢の場合、茶化すというより挨拶みたいなものだ」と界人から言われていた琴は、そう言う人なんだ位にしか考えていなかった。

「明日研究のインタビューに行くから、その打ち合わせ。勉強だよ」

「ふーん」

 何気にノートを見た遠矢は、

「あっ。ここ、ゼロ磁場の上じゃん」

 呟いた。

「ゼロ磁場?」

 界人の隣の椅子に腰掛けた遠矢は、琴の質問に「知らない?」と返した。

「前、調べたことあってさ。ゼロ磁場の上には神社が建てられてる事が多いの。あとは富士山があったり、パワースポットって言われる観光地が多かったり。訪れると身体が温まったり、癒されたりする効果を実感する人が多いんだって。その関係性と地域特性、観光業との関連を調べたんじゃけど」

「ふーん……」

「今は心身がリフレッシュしたり、ネガティブなエネルギーが浄化されるって人気じゃけどな。昔の人はそんな事分からんじゃろうに、スピリチュアルな感覚とか風習が強かったからか、ゼロ磁場の上に沢山神社があるんよな。面白くない?」

「確かに興味深くはあるな……」

 界人が呟く。

「じゃろ?なかには磁場の影響で頭痛とかめまいを感じる人もいるみたいじゃけど。科学的には証明不十分らしいけどな」

 琴はそれを聞いて、道通神社でのめまいを思い出した。黒羽神社がゼロ磁場の真上なら、近隣の道通神社も似たような場所に建っていることになる。黒羽神社に行った時は何も違和感がなかったが、無関係と考えるには些か条件が合いすぎている気がした。

「まぁ、気になったなら少し調べてみたら?」

 遠矢は立ち上がると、

「じゃ、界人はまたあとの講義で」

 と手を振って去っていった。

 遠矢の姿が消えると、琴は

「界人、道通神社での時間飛ばしの時、あたしが気分悪くなったの覚えとる?」 

界人にコソッと話し掛けた。

「ああ、あったな。それが磁場と関係しとる?」

「可能性はあるよな……。めまいが急に起こったし。白透と初詣に行った時もクラッとした。それ以来、道通神社には行ってないから毎回起こるのか試してはないけど……」

「体調悪くなるなら、無理にいかん方がええよ」

「まぁそうよな……」

「黒羽神社でも似たような事あったら言って」

「うーん。前一人で行った時は平気だったけ、大丈夫だと思う」

「ならいいけど……。無理はせんでな」

 付き合い始めてから、界人はやたらと過保護になったと琴は思う。悪い気はしないが、そこまで心配されるとかえって恥ずかしかった。

「小さい子供じゃないから。しんどかったらちゃんと言うから」

「うん。ほんまにそうして」


 界人との打ち合わせは講義で別れるまでずっと続いた。結局、神隠しのことも聞いてみる事にして、磁場との関連も尋ねてみようという話になった。


 夜、界人はバイトで琴が布団にくるまってゴロゴロしている時連絡が来た。

『明日、こないだの福袋のスカート着てきて』

「んん?」

 突然の要望に驚いて『なんで?』と返事するとすぐに返ってきて、

『大学には着てこないでしょ?俺も白透も1回見てるから、明日から良いかと思って』

 うーと琴は唸る。

 正直、箪笥の肥やしにするつもりだった。やはりああいった服はガラではないと思ってしまう。

 返信を渋っていると、

 『可愛いかったから大丈夫。着てきてよ?』

 後押しが来た。

「努力する」とだけ返信して、おやすみのスタンプを送った。

 琴はなんとも煮え切らない思いのまま就寝した。

 

 

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