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ヨリカカリ  作者: 栢瀬 柚花


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19/40

試着会


 3人はバスと電車を乗り継いで地元に戻り、琴の実家まで歩いた。道中は白透の買ったカメラの話で大いに盛り上がり、次の連休にカメラ撮影会をするとに決まった。

「ついでに黒羽神社も行ってみる?アポ取って、宮司さんから話を聞ければ一石二鳥じゃない?」

 琴のその提案に2人もと同意した。

「なら、俺がアポの電話しとく」

「俺、神社行っていいのかな?不干渉ってどこまでなんでじゃろ?」

「おばあさんに聞いてみる?」

「多分、あんまり詳しくないかも……」

 自信なさげに言うので、

「神社への参拝くらいはいいんじゃない?」

界人が助言した。

「俺たちがインタビューしてる間、境内とか周辺の写真を撮ってたらいいよ」

「そうじゃね。御神木の大杉があるから、いい被写体になると思う」

 以前訪問した琴が言うと、白透はうん、と頷いた。

 

 豆腐屋に着くと、店番をしている母が見えた。店舗には父の姿はなく、お客さんもいないようだった。

「ただいま」

「あら、おかえり。早いんね」

 母は後ろに控えている男子2人を見て、

「良かったら覗いてって。もう少し商品あるから」

笑って声を掛けた。

「はい」

 店舗に足を踏み入れる。4人が入るとすでに手狭だった。

 冷蔵庫に豆腐が数種類並び、がんもどきやおから、クッキー、豆腐ドーナツもある。

「2人とも、ここで商品見てて。服持って来るから」

 店舗をキョロキョロしている2人にそう言うと、

「あら?家に上がってもらわないの?」

 母が首を傾げた。その仕草は琴とよく似ていて、親子だなぁと界人は思う。

「だって、お父さんがうるさいでしょ?」

「今は配達でおらんよ。それと、服って?」

「この前の福袋。界人に妹さんがいるから、合うかなって話になって」

「あんた、着ないの?」

「趣味じゃないんだって」

「琴に似合わなかったら、界人の妹さんにあげるんでしょ?似合うなら琴が着ればいいよ」

 白透に訂正された。

「そうよ。一回くらいは袖を通したら?せっかく買ったのに」

 母からも言われ、はぁと嘆息すると、

「分かったよ。じゃ、2人とも上がって」

店舗の奥に消えてまう。

「どうぞ、上がって」

 母に促され、2人も琴に続いた。

 靴を脱いで廊下を歩くと、右手に工場がチラリと見えた。左手が居間で、すぐ隣が台所。階段を上がって行くと2部屋あり、奥が琴の部屋だった。

「あたしの部屋で待ってて。福袋、隣の部屋に置いてるからさ。着替えてくる」

 自室の部屋のドアを開けて2人を招き入れると、すぐに隣の部屋に行ってしまった。

 

 男2人、琴の部屋に残される。

 女子の部屋に入ったことがないので、座っていいのか悩んだあげく二人とも棒立ちになった。

 界人はドキドキした。琴の匂いで一杯の部屋は居るだけで落ち着かない。

 琴の部屋は一般的な女子らしさに欠けた。ベットカバーもカーテンも落ち着いた色合いで、ピンクやフリルのついたものは一切ない。私物は少なめで、変わりに本棚にズラリと堅苦しい題名のハードカバーの本が並ぶ。幼少期に読みそうな植物図鑑、辞書、あらゆるジャンルの小説も目についた。 

 ふと足元の学習机が目に留まる。プレゼントした使いさしのヘアオイルが目に入った。減っている所を見ると、ちゃんと使ってくれているんだと分かり嬉しくなる。

「俺、同級生の部屋も家も初めてきた」

 白透が打ち明ける。キョロキョロしてよいものか悩んだようで、結局界人を見ている。

「そっか。俺は女子の部屋が初めて。……どうすればいいのか分かんない……」

「界人も同じで少し安心した」

 苦笑いして、お互いに困った。好きな女子の部屋だ。落ち着かないのも当然だ。

「カメラの本があるね」

 本棚に目をやった白透の視線の先を見ると、確かに数冊の本が並んでいた。界人が近くに寄り、一冊手に取る。

 付箋が幾つも並び、表紙に折り目もついていた。繰り返し勉強した事が伺えて、琴らしいなと思った。

「その本、俺のカメラにも当てはまるやつ?」

 ペラペラとページをめくって確認する。

「うん。参考になると思う」

「琴から借りようかな」

 本を白透に手渡すと、目次を見始めた。

「それより、こっちの方が分かりやすいかも。初心者向けだから」

 背表紙を見て界人が別の一冊を指さした。

 そこにドアが開き、琴が入ってくる。

「お待たせ。あっ、本見てた?」

 本棚の前に立っている2人を見てそう声をかけたが、男子は返事が出来なかった。

 プリーツスカートに白のハイネックのセーターを着た琴はいつもとガラリと印象が変わっていた。膝上スカートは珍しく、黒タイツも見たことがなかった。足が細くてスラッとしている、と界人は思う。少し大人っぽく見えた。

 視線に気が付かない琴は界人が指さした本を見て、

「それ初級編のやつだから、白透に良いかもね」

界人の傍までやってきた。

「分かりやすく設定の事が書かれていたから、見やすかったよ。これ白透にいいよね?」

 界人とバチッと目が合う。

 琴の姿に目を奪われていた界人は話を全く聞いていなかった。

「……うん、似合ってる」

 思わず口に出てしまう。

 噛み合わない内容の返事に「は?」と琴が首を傾げた。

「初級編の本が似合うの?ちょっと日本語おかしくない?」

「違うよ、琴。その服が琴に似合ってるって意味」

 白透に訂正されると、一気に琴の顔が真っ赤になった。

「にっ、似合わないでしょ!こんなやつ!」

「いや、可愛いよ」

「かっ…わい……」

 朗らかに笑って白透に言われ、さらに赤くなった。

「ねぇ、界人?……何か言ったら?」

 トントンと肩を叩かれようやく琴から視線を外すと、界人と少し赤く染めた頬で、

「う、うん。似合ってる。そう言うカッコも合ってる」

改めて全身を見て感想を述べた。口がカラカラだった。

「いや、お世辞とかいいからねっ」

「お世辞じゃないよ。オフホワイトのセーターは黒髪によく似合ってし、スカートも清楚でいいよ」

 界人よりも冷静な白透がサラリと言う。イケメンからの褒め言葉に、手を捏ねて照れてしまう。

「それくらいの丈のスカート姿、初めて見た。ロングスカートもいいけど、そっちも合ってるよ」

 界人も普段の服装を思い出して感想を述べる。

「そ、そう……。ありがと……」

 小声で赤く染めた頬の琴はいつもと違って可愛らしく思え、界人は思わず触れたくなった。

「あと、髪型。纏めてるからより清楚感あるよ」

 顔の横に流している一房の髪にサラリと触れる。本当は頬に触れたかったが我慢した。

 琴はさらに縮こまると、俯いて喋らなくなってしまった。ひたすらに手を捏ねて下を見ている。

「あの……もう一着あるけど……。そっちは流石に似合わないと思う……」

「着替えてきなよ。この本見て待ってる」

 白透が本棚から取り出した初級編のカメラ本を見せながら言うと、コクリと頷いて部屋を出ていった。

 

 バタンとドアが閉まると、

「界人、平気?」

 白透が顔を覗き込んで言うと、息を大きく吐き出して、

「可愛かった……。息してなかったかも……」

 やや苦しそうに呼吸を繰り返した。

「まぁ、落ち着いて深呼吸して平常心取り戻して。2着目もあるからね」

 自分と違って落ち着いている白透が憎らしく、思わず、

「白透はヨユーそうじゃな……」

と溢した。少なくとも界人よりは顔が赤くない。

「そう見える?」

「見える」

「結構ドキッとしたよ。でも、界人よりは平常心かな。恋の当事者じゃなくなったからかも」

 その言葉に界人は思わず表情を変えた。自分事のようにやるせない思いを抱いてしまう。

「そんな顔せんでよ。俺は界人を応援するって決めたから」

 もう吹っ切れたのか、相手が界人だからなのか。

 苦しそうな表情も悔しそうな言葉もなかった。

 あまりにも潔い態度は、琴への未練など無いように感じさせた。かえってそれが無理をしているように思え、界人は白透が気がかりになる。

「白透、無理してない?」

 憂色を浮かべた友人に、白透は静かに笑った。

「そんなことない。やせ我慢なんてしてないよ。本当を言えばね、俺が引いた後、誰が琴に気持ちを寄せるのかばっかり気にしてた。俺の知らない奴だったら、こんな気持ちにはならなかったと思う。でも、相手が界人だから」

 さらに晴れやかに笑った。

「よく知ってる人だったから、応援したくなった。界人はいいヤツだし、琴の事を真剣に想ってるのが分かる。今も琴に魅力を感じてドキドキしてるのが微笑ましいよ?」

 まるで兄のような言い草に、また顔が赤くなった。

「さっきも思わず触れたくなって、髪に触ってたしね。ここは琴の部屋だし、分からなくはないけどさ」

 クスリと笑われて、決まりが悪そうに顔を背けた。

「……俺はここに白透が居てくれて良かったと思ってる。2人きりだったら……オーバーヒートしてたと思う……」

 想像しただけで心臓が跳ねた。堪らず、少女のように顔を覆ってしまう。 

 初恋ではないのに、どうしてこんなにも心動かされるのか。

 界人の中では、その答えがあった。 

 手が届きそうだからだ。

 これまでの片思い相手は、すでに恋人がいたり面識すらなかったりと、遠くで見ている事が多かった。到底届かないからこそ、切なく見ているだけで終わった。

 

 しかし琴は違う。

 あと何回か会えたら、何かが変わるかも。

 もう少し頑張れば、振り向いてくれる気がする。

 そう思えば思うほど、「諦められない恋」になっていく。

 

 そんな考えがなんとも女々しく思え、界人はパン!と頬を叩いた。活を入れる姿に、白透は

「元気出た?」

 もう一度顔を覗き込んだ。

 コクリと頷くと白透の色素の薄い目を見て、ハッキリと告げた。

「白透は凄い奴よな。それでいていいヤツ。おまけにイケメン」

 白透が琴に想いを告げれば、その気持ちはきっと琴に届くだろう。界人にはそう思えた。

 しかし白透はそれを望まない。望んではいけないと、自ら引いた。それがどれだけ心引き裂かれる事か、想像に難くない。

 

 だからこそ知りたい。白透の事情が。

 

 研究の事も神隠しの事も、界人の頭には無かった。

 純粋に白透の事が知りたかった。

 

「白透の『理由』を近いうちに教えて欲しい。黒羽神社に行った帰りでもええし、ゆっくりできる所で聞きたい」 

 野次馬的に面白半分で踏み入ろうとしていないと分かる界人の目に、白透は吸い寄せられた。その真っ黒い眼の光は真剣に白透の事を案じてくれていた。

「昼間も言ったけど、界人と琴には聞いてもらいたい。ばあ様はきっといい顔をしないだろうけど、そんな事関係ない。俺が2人に知って欲しいと思うんだ」

 白透の眼差しに宿る儚げな陰を、界人は確かに見た。深い理由がありそうだと踏んで、

「静かに話すなら、白透の家がいい?それともおばあさんに聞かれないよう別の場所?」

「ばあ様は来客中は覗いたりしてこんから、うちでいいよ」

「分かった。琴にもちゃんと伝えとこう」

 白透が頷いたタイミングでドアが開いた。

 

 今度は黒チェック柄のスカートに襟の大きなブラウス姿だ。先程とはまた違ってフェミニンで、落ち着いた印象だった。

 界人は自分の意志とは無関係に、まぶたが大きく開いて恍惚と眺め入ってしまう。大学で見かければ、琴と気が付かないかもしれないと思えた。

「うん。凄く似合ってるよ。ぐっと大人っぽい雰囲気になった」

 白透が感想を述べ、再び固まった界人の腕をつついた。

「ああ……、うん。フェミニンな印象でいつもの琴とは全然違う。似合ってる。可愛いよ」

「かっ……わ」

 琴はぶわっと赤面した。ぱっと顔を隠して背を向け、

「……恥ずかしすぎてどうしていいか分からん…」

と呟いた。

 めちゃくちゃに照れている姿は界人の心を鷲掴みにした。息苦しいほど甘美な気分に捉われ、じっと背中を見てしまう。

 しばらくは顔を上げられそうにないと踏んだ白透は、

「琴。火照りがおさまったらこっち向いてね」

 冷静に言うと、界人にも、

「息してる?」

と問いかけてきた。

 ハッとして我に返ると、また停止していた呼吸を再開させる。

「忘れてた……」

 琴は部屋の隅っこでパタパタと顔を仰ぎ、なんとか赤みを引かそうとしている。

「琴が平常心に戻るまで、本のことを教えて。これ以外にもオススメの本ある?」

「えっ……ああ……。本ね……。俺の家にも何冊かあるけど、見に来る?」

 界人は自分が言ってしまった言葉に動揺しつつも、まんざらでもなさそうな琴の反応が気になり不自然な動きになった。ギシギシと音がしそうだ。

「界人が選んでくれればいいよ」

「分かった。あんまり多くても時間かかるじゃろう?その本読み終わったら持って来る」

「了解」

 その時、ピコンと界人のスマホが鳴った。

「あっ、母さんだ……」

 文面を読んだ界人は、

「――ちょっとごめん、電話してくる」

 そそくさと部屋を出ると廊下で通話を始めた。

 

 まだパタパタしている琴を見て、

「平気?」

 と声を掛ける。

「……あんまり」

「凄く照れてたね」

「そりゃぁ……。流石に恥ずかしいよ……。2人のこと、まともに見れないかも……」

 反応からして界人への意識があると思った白透は、

「俺はともかく、界人とは照れずにちゃんと話してあげてよ?じゃないと界人傷つくよ」

それだけ言った。

「……傷つくの?」

「そりゃそうだよ。界人は繊細だよ?」

「繊細……。そうかな?」

 その部分には疑問があるようで、琴は首を傾げた。

 ガハガハと盛大に笑い、遠慮せず人の事情に踏み入っていくる豪快さとは正反対な気がした。

「好意を持ってる人からの反応には、誰だって繊細な心になるでしょ?」

 琴は一瞬ポカンとして

「好意……?」

「そう」

 意味を理解すると、だんだんと困惑した表情になった。

「ないでしょ?それは」

「なんで?」

「なんでって……」

 また指を捏ね始める。どうやら困惑した時のクセらしい。

「だって……こんなあたしだよ?化粧っ気もないしガサツだし……ファッションにも興味ないし……」

「琴の魅力は外見とは別だよ。最近は髪も綺麗になって見た目も変わったけどね」

「っ……!これは……男子2人から言われたから……ちょっとは気を遣おうかと思っただけで……」 

「俺からデートに誘われたじゃん。琴には魅力があるんだよ。ちゃんと自覚して」

 イケメンからの忠告には相当な説得力があった。またぶわっと赤面して、

「ううっ…。なんで今日はこんな話ばっかりなん?いつもの2人じゃない!」

さらに困惑した琴は思わず白透に食って掛かった。

「仕方ないよ。琴が無自覚過ぎるから。ちゃんと年頃の女子として自分を認めてよ」

 ここまで女扱いされたことがないので、どうしてよいのか分からなくなった。気恥ずかしさが極限に達して身悶えした末、壁にゴン!と頭をぶつけた。クリスマスプレゼントを貰って以来の悶絶だった。

「ムリムリムリっ……!」

 いっそのこと夢であって欲しいと思ったが、ヒリヒリする頭がこれは現実だと告げていた。

「兎に角、界人とは向き合ってあげてよ。間違っても無視とか、距離とったりしないであげて」

「……約束は出来かねます」

 壁に向かって返事をした。

 背中で白透がクスリと笑うのが分かった。決して琴の姿を面白がっているわけではないと分かる声音で、

「俺は界人を応援してるから。……琴も真剣に考えてあげて」

優しく言われた。琴は返事が出来ず、繰り返し頭を冷たい壁にぶつけ続けた。

 そこに界人が帰ってきて、壁に頭突きを繰り返す琴を見て、

「何してんの?」

 突っ込んだ。

 しかし界人の方を見ることはできず、

「お構いなく……」

 とだけ返した。

 界人は目を瞬かせたが、「そっとしておいてあげて」との白透の言葉に「……うん」と返事した。

「琴、本借りるね。週末には返すよ。あと、服は琴が着てね。さ、界人。もう御暇しよう」

 一応、当初の目的は果たした。白透に背中を押されて階段に誘われる界人は、仕方なくそれに従った。

 

 階段を下りる足音が聞こえたが、琴はその場を動けずにいた。

 どうにも顔の火照りがおさまらず、心臓がバクバクしてならなかった。


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