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ヨリカカリ  作者: 栢瀬 柚花
15/24

黒羽神社


 正月の2日、3日は両親と買い物へ行き、福袋や服、文房具など様々に買い込んだ。やはり値段が安くなるのは助かり、財布は大分軽くなったが気持ちはホクホクした。

 福袋にはプリーツスカートや白いほわほわしたハイネックのセーター、チェック柄のスカート、襟の大きなブラウスなど、おおよそ琴が購入したことがない服ばかり入っていた。思わず母に

「これあげる!」

と突出したが、

「流石に50代でこれは無理よ」

と断られた。

 仕方なく箪笥にしまったが、果たして出番は来るのだろうかと引き出しを閉めた。


 一方、烏山についてネットから情報を得られた。

 大学で調べたものと同じ天狗の逸話の他に、100年に一度ほどのペースで神隠しの話が書かれていた。しかしどれも抽象的で、はっきりとした内容はなかった。子供が連れ去られ、行ったことがないはずの日光の情景を話した、秘薬を分けてもらい母の病を治したなど。何日行方不明になり、どこで消えて発見されたのか。何も分からない。

「前よりは情報あったけど……」

 これでは情報不足なので、現地の場所を調べると黒羽神社という場所がある事が分かった。琴の家からもそう遠くはない。界人が戻ってくるのは5日。明日の4日なら行けそうだと思い、赴いてみることにした。思い立ったのが夕方だったので、白透には知らせなかった。流石に明日朝からのお出かけに誘うのは憚られる。


 翌朝、琴は徒歩で黒羽神社に向かった。

 徒歩であれば30分の距離。

 道通神社とは違う道を歩き、知らない場所を1人進んだ。

 閑静な住宅街を抜けて小学校を通り、そこを抜けるとさらに古い家が立ち並ぶ。どこも大きな家ばかりで、そこの家の屋根には天狗を形どった瓦が使われている。写真に収め、更に足を進めると立派な階段が見えた。上の方に石鳥居が見える。長く伸びる階段は写真に撮ると絵になるが、登るとなれば話が別だ。

 幾つかアングルを変えて鳥居と階段を撮ると、琴は意を決して登り始めた。 

 階段の左右には石灯籠があり、ロウソクがつけられている。朝なので火は灯されていなかった。

 参拝者も多く、同じように登る人、階段を下る人が何人もいた。

 

 50段ほどの階段を息を切らして登り切ると、街が美しく見渡せる。忘れずにその写真も撮ると、いよいよ境内に入った。

 神社がまず目に入ったが、一際境内で目立つのが御神木の大杉だった。神社本殿の屋根より余程高い。引きで撮らないとレンズに入らず、琴は暫く階段付近を右往左往していた。

 やっといい写真が撮れると、大杉の近くの立て看板を読んだ。

 どうやら、昔天狗が杉の先で羽根を休めていた伝承があるらしい。天狗は繰り返し街を天災から守り、地滑りや地震も予兆して街人に知らせるなどしたため、崇め奉られるようになったらしい。

 その内容を記憶にとどめると、本殿を参拝した。

 正月に入ったばかりの神社は人が多く、絵馬を描く人、おみくじを引く人て混雑してた。琴はさい銭を入れて参拝の報告だけすると、すぐに裏庭に回った。

 遊歩道をぐるりと一周したがこれといったものはなく、15分ほどで本殿に戻ってきた。

 境内の地図を見ても、これ以上行けそうな場所が無かったので帰る事にする。

 表の階段以外にも通路があり、今度はそこを歩いてみることにした。

 先程の遊歩道を再び入り、細い小道を見つけて足を進める。街へ向かう表の階段と違い、こちらはほとんど人がいない。どうやら道は歩き続けると、道通神社付近まで延びるらしい。そちらに向かう琴にとっては、この道の方が都合が良かった。

 

 山に沿って右手に街、左手に山の斜面という格好で土道が続く。

 どんぐりの木が多いのか、道には沢山の実が転がっている。昔、集めて部屋に置いていたら虫がたくさん出てきて、父に泣きついたのを思い出した。あれ以来、琴は植物を集めなくなった。

 おかしな思い出に浸っていると大分進み、そろそろ道通神社付近に出るのではないかと思われた。

 

 白透には初詣以来会っておらず、連絡もしていない。あれからお婆さんに叱られなかっただろうか、少し顔を見に行ってもいいだろうかと考えていると、前方に見覚えのある姿が目に入った。

 

 まさに、白透が立っていた。何やら街の方を呆然と見ている。最初に出会った時を思い出し、琴の頭で光景がデジャブした。

「おーい!」

 大声で話しかけるのも同じだと思い、少し笑えてきた。琴は近くまで駆けていく。

「どしたん?珍しいな、こんな所にいるなんて」

 琴はきょとんとする彼の顔を見て、

「何見とったん?街?ここ眺めいいもんな」

 街を見下ろした。

「今、黒羽神社行ってきた。やっぱり天狗に関連が深かったよ。あんまり詳しい逸話はなかったけど、宮司さんから話が聞けるならアポ取ってもいいかも。神隠しの事、何か聞けるかも」

「神隠し……?」

「天狗の逸話には、わりと付き物みたいじゃな。あたしも天狗に攫われたんかな?あはは、そんな訳ないか」

 冗談っぽく笑ったが、予想に反して白透は何も言わなかった。琴が彼を見あげると、不思議そうな顔で見返している。

「どしたん?」

 尋ねるが、何も言わない。ぱちくりと目を瞬かせているだけだ。

「神隠し……あの時の?」

「?」

 大きく目を見開くと、彼は独り言の様に呟いた。

「そうか……そうなんだ……君か……」

「どしたん?前に話たよな、あたしの神隠しの件。忘れた?」

 不思議な反応に琴が尋ねると、

「覚えてる。そんな事もあったね」

 と懐かしそうに目を細めた。

「7歳じゃもんね。大分昔の記憶よな。あたしは全然覚えてないんじゃけど」

「――覚えてないんだ……。そうか……そうよな……」

 少し残念そうに言われ、

「白透はあれからお婆さんに当時の事、何か聞いた?流石にあれ以上のことは知らんよね?」

 そう尋ねると、見開いていた目が陰った。すっと表情も沈み、

「……そうじゃね、何も知らん」

 と声のトーンも変わる。少し違和感を覚え、不機嫌にしてしまったかと慌てた。

「ごめん、しつこかった?おんなじ事聞いて」

 白透は静かに首を振った。

「いや」

 その声も固い気がして、もしかしたらお婆さんに叱られたのではないかと思い至った。初詣のあと、結局どうなったのか確かめていない。

「初詣の後、やっぱりお婆さんに叱られた?外出した事、よく思われんかったかな?」

 これには何も返事をしなかった。街の方を見ているだけだ。

 やはり、説教でも受けたのか。蔵にも上がり、クリスマスパーティーまでしてしまった。あれも良くなかったのかもしれない。

「家にも何回も行ったし、クリスマスパーティーもしたもんな……ごめん。しばらくは大人しくしてた方がいいかな?」

「そうじゃね。俺も反省した方がいいかも」

「……分かった。界人にも伝えとくな。あたしはしばらく黒羽神社を調べてみる。蔵の2階にある昔の道具については界人に教えておくけど、しばらくは行かないように伝えとく」

「そう」

 白透はもう琴を見てくれなかった。

 急に遠くへ行ってしまったような距離感を感じ、いたたまれなくなった。

 彼の袖に手を伸ばそうとしたが、やはりやためた。これ以上は迷惑かもしれない。

「……ごめん。電話はしてもいい?」

 尋ねたが、何も言われない。3人で会うのは楽しいと言ってくれていたのにと、心が痛んだ。

「分かった……。電話もやめとく……」

 無言の時間が辛くて、琴はここにいたくなかった。

 白透の顔を見るのが怖くて、そのまま帰ろうとした。空気が重かった。

 しばらく歩いても呼び止められず、琴が走り出そうとした時、

「琴。さよなら」

 と背中から声が飛んできた。しかし振り返る勇気がなく、

「さよなら」

 と言葉だけ残した。

 そこからはひたすらに走って家まで帰った。


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