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9 岩の組

慣れたと思った魚での移動も、ひと時の贅沢を過ごしたことで振り出しに戻り、生臭い匂いと独特な酔いに四人は悩まされていた。


魚には行きたい方角を元から教えており、目的地の〈岩の組〉へとひたすら泳ぎ進んでいる。


岩の組は〈フネ計画〉を信仰し賛同する島々に囲まれ敵対視されている島。未だ組織が踏み入っていない島でもある。


エマの言う組織に詳しい人がなぜ〈岩の組〉にいるのかは分からない。第一、あの閉鎖的な〈森の組〉の人間が外と繋がりを持っていること自体、少々違和感がある。

その正体と真相を求め、魚を泳がせている訳だが……鏡人間の島を出てどのくらい経ったのだろう?


それほど長い時間が経ったわけではないものの、食糧も底をつく直前であり、外も見ることが出来ないためひたすら時の流れに身を任せている。



「着いたか」


突然、オルンが勘づいたように呟いた次の瞬間、一気に魚が水面へと上昇していくのが分かった。あまりの勢いに四人は吹き飛ばされそうになりながらも魚の内部にナイフを突き刺してしがみつく。


ふわっ


今度は途端に動きが止まり、四人は宙に投げ出された。そのまま魚の口から一気に吐き出されると砂浜の上へ落ちた。


スナイェルは上手く着地ができず、砂の上でしばらくうつ伏せになっている。

巻き上がった砂埃を吸い込み咽せた。


「……身軽だなぁ」

他の三人は備蓄の入った袋を手に綺麗に着地している。


起き上がり周りを見渡すが島の人は誰もいない。海と砂浜と鬱蒼とした森。

「行くぞ」


オルンの声に三人は頷くと、森の奥へと足を進めた。

オルン達の故郷の森とも異なり、静かで厳かな雰囲気すらもある。

ちゃんと虫も飛んでいるのでスナイェルは三人の間に隠れながら歩いていた。


少し歩いたところに木で出来た小屋がある。掛けられた看板には

『ようこそ岩の組へ 街はこちら→』

と書いてある。

関所的な何かなのだろうか?


スナイェル達は小屋の前まで行くと出窓から中を覗いた。薄いカーテンの隙間から中がかろうじて見えるが、人がいなそうである。


「先に進もうか」


四人は小屋を後にすると、矢印のある方角へと進んで行った。森は一層生い繁り、聞いたことのない生き物の鳴き声が不気味に響いてくる。


「ほんとうにこっちなのか?」

スナイェルは不安そうにこぼす。


「看板をいじられていた可能性もあるよね」

アウルがため息混じりに答えた。


「なんかあるぞ」

パールが木々の隙間、奥の方を指差して言った。

三人が近づいて目を凝らすと……


壁である。

硬い岩の壁


推しても叩いてもびくともしない壁である。


「行き止まりか?」

「やっぱりあの看板は嘘かい!」


「いや、これ扉だよ」

スナイェルは岩の壁を触りながら言った。叩いてみると他の場所とは音の聞こえ方が違うので、割と薄い壁で、おそらくこの奥は空洞。音の聞こえが変わる境目を指でなぞると、微かに違和感のある凹凸がある。


だが扉は開かない。


「叩き割れば入れるかもよ」

パールがハンマーのようなモノを出し始めた。


「待っ……」

「やめとけ。他の島で暴れるな」

オルンはパールの手を下げて制した。


よく言うよと思いながら、

扉の開け方を考える。


「さっきの小屋に戻ってみない?二人ここで待って、僕ともう一人で戻ろうよ。今なら人いるかもしれないし、僕は小屋までの道を覚えているから」

アウルが口を開いた。

その方が手っ取り早いかもしれない。


「スナイェル。アウルと行ってくれ。俺はパールとここにいる」

スナイェルは頷くと、アウルと共に小屋の方へと歩いて行った。



虫から隠れながらだったので、壁に着くまでどれくらい歩いたかは分からない

……が、それにしてもなかなか小屋に着かない。


「……迷ってる?」

「いいや、合ってる。迷ってないよ」


半信半疑ではあるものの、道が分からないので何も言えない。

「鏡頭。びっくりしたよね。でもスナイェルのおかげで無事に収まった。すごいね君は」

「ぁ、そう……?」

「会ったことあるんだよね?ああいうの。今までに」


アウルの緑色の目がこちらを真っ直ぐ見ている。

スナイェルは目線を逸らした。そう言えば見たことあるって言ったんだった。


「うん……少し見ただけだよ!なんか頭が人の頭じゃないなって、いう感じ?」


アウルの目は泳がない。

「そうなんだね」


「もしかしてアウルも会ったことあったりする?……なんてね」

スナイェルは冗談のように、話を変えようと切り出した。


「ないよ。一度も」


スナイェルは逸らしていた目をアウルの方へ向けると、笑みを抑えるかのような、勝ち誇ったような顔をしたアウルがそこに居た。どこを見ているのだろう?

初めて見る彼の様子にゾッとし、一気に血の気が引き鳥肌が立った。


俺の嘘もバレたようだが、アウルも嘘をついている?


「えっと……小屋って、この方向で合ってる?」


アウルは元の顔に戻ると、何事もなかったかのようにスナイェルの手を取った。

「おいで」


青年のような、優しい手つきである。


『森の組の人間は信用しない方がいい』

クロウの言葉がスナイェルの頭の中を反芻している。



わざと違う道を行ったのでは?というほどに、その後はあっという間に小屋に着いた。

看板を確認するが、やはり先ほどのままである。

だが今度は、小屋の中から灯りが漏れている。


アウルは小屋の扉をノックして訪ねた。

少し間を置いて、小屋からギシギシと音がすると小屋が開いた。深い帽子を被っている。

「来訪者か……なんの用だ?」

威圧感のある大男。


「俺たち、紹介があってある人に会いに来たんですけど、扉から街の中へ入れなくて……」

「誰の紹介だ?誰に会いに来た?」

「エマだよ、森の組の。誰かは分からないから探すつもりだよ」

「あの胡散臭いやつか、お前らもあの島の出な訳だな」


森の組の人間が嫌いなのか、あからさまに不機嫌そうな態度をとって小屋の中へ戻って行った。

少しすると、また中から出て来てアウルに鍵を投げ渡した。


「扉の右下に鍵穴がある」

それだけ言うと勢いよく扉を閉められてしまった。


「ありがとおっちゃん!」

ニコニコと答えるアウルは、なかなかのメンタルであるなと思った。


二人は再び岩の壁へと足を進めた。今までで一番早く壁まで辿り着いた。オルンとパールが壁に寄り掛かっている。


「鍵もらったよ!」


アウルとスナイェルは扉の右下を探し、小さな鍵穴を見つけた。アウルが鍵を差し込むと、岩の壁がゆっくりと開き始めた。物凄い音である。


扉が開ききると、奥に続く廊下が現れ、その奥に灯りが見える。四人は廊下を進んで行く。

ふとスナイェルが後ろを振り返ると、先ほどの扉はいつの間にか閉まっていた。差し込んだ鍵は先ほどの大男が回収に来るのかもしれない。


暗い廊下抜け灯りの元へ出ると、鬱蒼とした森とは打って変わって、カラフルな世界が広がっている。


建物はおおよそ白いものの、屋根や人々は色とりどり、様々な色を纏っている。

屋台やら音楽やらで、祭りをしているかのようにぎやかである。


「なんか……眩しいな」


ドンッ


スナイェルが足元を見ると、子供がぶつかった衝撃で後ろに転んでいる。


「ほう……」


その子どもの頭は、本だ。


少し開いていているが中にはあまり文字が書いていないようである。その子供はスナイェルの方を見上げると固まってしまってた。

「すみません!ほら謝って!走ったらだめって言ったでしょ」


人間だ。人の頭である。その横にハードブックなみの厚さの、閉じられた本が首に乗った生き物がいる。

「大丈夫でしたか?うちの娘が、すみません」

三人は会釈をするとどこかへ去って行った。どうやら三人は家族のようだった。


この島では人間と異形が共存しているのか?


「なんか、慣れてきたな」

オルンが頭を掻きながら言った。


パールは何を思っているのか、先ほどの三人の後ろ姿をじっと見つめていた。


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