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5 画の頭

個人的にお気に入りの回です

木々の間。ところどころ月明かりが差し込み、少しだけ足元が見える。


今のところ獣にも遭遇していない。加えて虫にも出会っていない。

ただ、どの方向を目指せば良いのかもわからず、ひたすらに歩いている。

何度か同じような木を見るので、同じ場所を回っているのかもしれない。


月明かりに武器を照らすと鈍く光った。ペンチのような形をした、少し錆びた銀製の重いくるみ割りである。金色の石が間に挟まっている。


「石なんか割って何になるんだ……」


ガサ


「?!」


音が聞こえるものの何も見えない。スナイェルは辺りに手を伸ばす。草木が掠るだけである。


「こんな夜遅くに一人、出て歩くとは。悪い子がいるものですね」


背後を取られた。耳元に息がかかる。驚いたものの、人がいるとこに安心感を覚えた。

後ろを振り返ると人が立っている。


「よかっ……()?」


月明かりがぼんやり当たり、目が捉えた人。それは、人ではなかった。

自分よりもずっと背が高い。スーツを纏い、口から垂れる血はネクタイにまでベッたりと付いている。

いや、口なのか?頭部が金色の額縁に入った絵だ。横に少し長い、長方形の画の口にあたりそうな部分から不自然に血が流れているのである。


「おや。洒落ですか?」


そいつは上品に笑った。

額縁に入った絵は、アンティークの大きな鏡に脚をくくりつけられ、空を見上げる羽の折れたカラスが描かれている。


アウル達が言っていた獣とは、こいつのことか?

「獣って見た目じゃないだろう……」

こういうのは化け物って言うと思うぞ。


「彼らは我々のことをそう言いますね」

「他にもいるの?」

そいつは頷いた。


「そのぇ……顔って日替わりとかで描き変えたりするんですか?」


そいつは少し戸惑ったように頭部を傾げてから笑った。


「君は面白いですね。そんな質問を言う子は初めてですよ」

「本当に?気になるでしょ……その顔で来られたら」


そいつは静かに近づいて来ると、屈んで言った。

「君が新しい画を描いてくれてもいいんですよ」


近い……ちかいちかいちかい!顔?いや、絵が近い!


「おい、お前あんま他所の子をいじめるな」


そいつの後ろからまた別のやつがやってきたようである。

同じく背が高く、今度は縦長の楕円型の額縁である。生々しい心臓の絵の中心に、燃えて焼け落ちたような跡がある。

その穴の先には森が見えるので、貫通しているようであった。

気になる!


スナイェルは近づいていくと手を伸ばし、その穴に手を入れた。

「ん!なんてとこ触ってんだ!」

スナイェルの手を思いっきり払いのけると、大きく後ずさりした。焼け跡の穴を手でさすっている。

その様子はどうにも滑稽で、かわいらしく見えた。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。私は〈クロウ〉彼は〈クオーレ〉」

「スナイェルです。あなたちは……何者ですか?」

「この森に住む生き物ですよ。別段、おかしなところはありませんでしょう」

「でもこの島の住人とは仲が悪いのでは?」

「そうですね、あまり良好とはいえないかもしれませんね」

そう言うとクロウは口元の血をぬぐった。


「夜にしか出てこないの?」

「……そうですね。そういうことになっていますよ」

そう言うと少し頭部を傾げた。


「その感じだと、坊ちゃんは俺らの種族と会ったことねえのか?」

クオーレは近くに戻って来るとそう言った。


「我々はこの板星の各島の森に、それぞれ生息しているんですよ」

「俺のいた島の森には、いなかったと思うけど?」

「あそこの連中は、生きてんだか死んでんだかよくわからないよなあ。あっちは頭が小さめの祠だったか?」

「確かそうだね。いつも動かないから話したこともないですしね」


言われてみると、確かに森にはよく祠があったように思う。信仰の深い土地なのだと勝手に思ってはいたが……。

あれがすべて、クロウのような生き物だったというのか?!

そう思うと一気に鳥肌が立った。


というか……

「俺がよそ者って、なんで知ってるの?」

「そりゃ森に入ってきた時点で噂が広まるからな」


最初から見張られていたということか。

ぞっとするのと同時に、もはや驚きも薄くなってきていた。


「そういえばスナイェル。君はずいぶんな代物を持っていますね」

「ん?これのこと?」


クロウに目というものは見当たらないが、手に持っている武器を見ているようである。

「これが何かわかるの?」


「もちろん!何千年も前にこの板星にやってきた魔法使いからの贈り物だとわれています。その魔法使いは、石を割ることで特別な力を操っていたそうですよ!」


とても興奮しているように見受けられた。スナイェルは少し後ずさりをした。


「魔法使いはその石を素手で割っていたようですが、我々には到底出来なかった!だから簡単に割れるように、石を割る道具を我々の先祖が作ったのです!」

「クロウもその力を使って戦っているの?」

「いいえ。まさか」

途端に熱が冷めたように、場の空気が張り詰めた。


気が付くと、暗い森のあちらこちらに絵が浮かび上がっているように見える。どれも不気味な絵である。

囲まれたか。

おしゃべりが過ぎたようである。


「すいません。そろそろ戻らないといけないので……また、今度は昼間にでも!お話しましょう……」


「それを置いていけ」


クオーレは武器を指さした。


「使わないのなら、いらないのでは?」

「元あるべきところに、我々が返さねばならないのですよ」

「なぜ?」

「フネ計画もご存じない?この星の端を行けば、別の世界へ行くことが出来ると!あの魔法使いのもとへ、すべての石を返しに行くのですよ我々は」

「そうしないと何かまずい理由でもあるの?」

「年々、あの石の持つ威力が強くなっている。あの魔法使いは、この星を、長い年月かけて破滅に追いこむためにやってきた悪魔だったんだ」

「ですからそのような石は回収いたしたいのですよ」

「そんなたいそうな石にも見えないけど。なんだか……俄然、興味が沸いてきた!」


スナイェルはくるりと背を向けると全速力で走り出した。

暗闇から迫るいくつもの絵を搔い潜り、木々の根に躓きながら駆ける。


徐々に木々の隙間から日が差し込んでくる。

もう朝なのか?


少し立ち止まった瞬間、背中を大きく抉られるような痛みが走った。

痛みに声を上げ、膝をついた。


「おや。内臓には届きませんでしたか」


クロウの低い声が腹にまで響く。


「すがすがしい朝ですよ」

クロウは手を大きく広げると深呼吸をして、こちらにゆっくりと向いた。


なんだろう?思うように体が動かせない。痛みなのか、眠気なのか。

スナイェルは手にある武器を見た。正直この武器の性能も何も、信用できるところはない。

だが、使うしかないようである。

割る。

割ればいいのだろう?


重いそのペンチのようなくるみ割りを思い切り握った。


鈍くグシャりと音を立て、石は粉々になった。


クロウが何か言いながらこちらへ迫ってくるのが見えたが、粉々になった石の破片から発せられる轟音にかき消され何も聞こえない。


次の瞬間、辺りが真っ白な光に包み込まれた。あまりの眩しさに目を閉じると、間もなくして再び轟音が鳴る。

雷である。

恐る恐る目を開けると、森のあちこちに絶え間なく雷が落ちている。

その間を縫って、雷の落ちていない一本道が見える。


スナイェルは迷うことなくその道を駆けた。

雷を食らい、頭を抱えて絶叫しているクロウとその仲間たちを横目にひたすらに駆ける。


朝日にだんだんと近づくように、その一本道は続いていた。



どれほど走ったのだろう?

森を出た途端、雷の轟音がぴたりと消えた。耳がおかしくなるようなの中で、どこか心地よさをも感じていた。


くるみ割りを握りしめた手を見ると「ほっと」力が抜けてスナイェルはその場に倒れこんだ。



「どんだけ寝てるの?」


穏やかな風が頬にあたると、日のひかりが急に眩しく思えた。迷惑そうな顔をしてエディが窓に腰を掛けている。病室のようなところであった。スナイェルは真っ白なベットに横たわっている。


「……あれ?ここは……」

「治療室だ。お前、森を出たところで気絶してたぞ」


「そう、だったか……痛っ!」

背中に猛烈な痛みが走った。


「クマに襲われたみたいだな。よく逃げおおせたな」

エディはゲラゲラと笑っている。

手が血だらけである。枕元には包帯やハサミなどが何個も転がっていた。


「エディが手当てしてくれたの?」


「……オルンに頼まれただけだ」


「ありがとう」


エディはきまり悪そうにそっぽを向いた。


「大丈夫か?」

ガラガラと扉を開けオルン、パールも部屋に入ってきた。


「ったく。オルンまで先に行くから」

「悪い。でもやっぱりあの森を一人で抜けられたな」

「武器、役に立ったみたいで良かったよ」

安堵したように二人は笑みをこぼした。


「そういえばエディ。クマって言ってたけど、クマじゃないよ」


ふと場が静まった。


「え?じゃあ何に襲われたわけ?」

「クロウとか言う、頭が絵の……変わったやつらに」


「何を言ってるの?」

「頭でも打ったのか?」

「武器も返り血すごかったし、クマと戦ったんでしょ?」


「?」


三人とも不思議そうに、変わったモノを見るようにこちらを見てくる。本当に知らないのか?隠している?


「俺もクマに指喰われたんだ」

こちらを窺うように、パールは左手を出した。

巻かれた包帯には血が滲んでいる。小指と薬指がない。

……そういえばクロウの口元に血がついてたよな。


パールは反対の手でくるみ割りを出した。スナイェルがクロウたちから逃れるときに石を割って使ったものだ。

くるみ割りは血まみれである。

石を割った痕跡は特に何もない。


どういうことだ?


「雷の音とかしなかった?」

「いや全く。咆哮はすごい聞こえたけど」


あの石の効果を知らない?


知らないのにあの武器を渡してきた?


ここの誰もクロウたちのことを知らない?


寝ぼけていたのか?夢?


訳が分からないまま眩暈がすると、また深い眠りへと落ちていった。


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