3 獣の棲家
「ちょうど今授業時間なので、色々見られると思います」
「あ、ありがとうございます……」
校舎をしばらくまわっているが、スナイェルの知る校舎とは少し構造が違うようだ。
外から見るとガラス張りであったように見えていたが、廊下は清潔感ある真っ白な空間であった。
静まり返る廊下の所々に木の扉が違和感満載で付いている。誰が考えたんだこの建物の構造と思うスナイェルであった。
「はぐれないように着いてきてくださいね」
「後、ここの生徒と間違われないようにな」
意味深すぎるオルンの言いように、スナイェルは戸惑った。
マリーが扉を開けると……外だった。深い緑に陽の光。生徒はどこにも見えない。
「生徒達が二チームに分かれて戦う実戦形式の授業です。みなさんバレないようにしていますね……少し探してみましょうか」
「オルンもこういうのやってたの?」
「ん。実戦系は得意だったな」
「オルンは首席を狙ってましたものね。よく彼に負けて二位でしたけど」
「あー1位ではなかったんだね」
「おい」
少しスナイェルは笑った。久しぶりに頬が動いた気がする。
「ちなみに争ってたその子、今は?」
「俺が島出る時はブラックゴールドに昇格してたな。アウルは元気ですか?」
「元気有り余って騒がしいですよ相変わらず。あの子連れ出してくれたら少しは島が静かになりますね、きっと」
「どんなこ……っ」
スナイェルの耳を弾丸が掠める。スナイェルは素早く戦闘態勢に入り身構えるが、オルンは大丈夫だと言った。
「あれ?オルンじゃん!久しぶり!」
「どこ居るんだ?撃ってくるなんて礼儀悪いぞ、アウル」
やっぱ大丈夫じゃないやとオルンは呟いた。アウルの姿は見えず、森に響く声だけが聞こえる。
「オルン!鼻血出てる!」
ふとオルンを見ると血が垂れている。オルンは銃を準備するといつでも撃てる態勢になった。
マリーは……近くに生える白詰草を摘んでは編みだしている。花冠ってどうやって作るんだっけ?と1人でモゴモゴ喋っている。
オルンは鋭い目つきで木々に目をやる。
一瞬、微かに葉が揺れたように感じたと同時。
銃声
オルンは六発撃ち込む。
「ぁぶね!」
五人の生徒が木から落ちてきた。鈍い音をして落ちる子もいれば、軽やかに着地する子もいる。
「あーあ、今授業中だよぉ!みんな!一旦集合!」
スナイェルの背中にふらりと寄り掛かると、アウルは森によく響く声で叫んだ。慌てて避けて構えるも、アウルは無邪気に笑ってスナイェルの銃をクルクル回している。
深い緑色の目に柔らかそうな赤茶色の髪、そばかすが少し。犬歯が尖っている。背丈は少しだけオルンより高く華奢。白と金の服は着崩されている。
「初めましてスナイェル!アウルです」
深々とお辞儀をすると明るく言った。異様に首が柔らかいようで、フクロウのように頭を動かしている。
「危ないだろ」
オルンはアウルの頭を少し叩いた。
「ごめんごめん。挨拶みたいなもんじゃんかあ」
「それはこの島の人間にだけやってくれ」
「先生!授業はどうなりますか!」
ゾロゾロ森から出てきた生徒達が集まってくる。まだスナイェル達よりは小さい子どもである。皆何かしらの武器を手に持っている。
「先生なんて柄じゃないだろ」
「エマに直々にお願いされちゃった!」
「学長と呼びなさいアウル」
マリーの頭の上には少し形の崩れた花冠が乗っている。
──お茶目か
集まってきた生徒達はスナイェルをまじまじと見ている。
「どこから来たの?」
「お名前は?」
と、しばらくスナイェルは質問攻めにあった。
「他の授業はもう見てきた?」
「いや、まだだ」
「じゃあ見ておいでよ!まあ面白いものは特にないと思うけど!そんで、後で話そう!」
話す分には普通な人かもとスナイェルは思った。
やんちゃな少年に見えたかと思えば、落ち着きのある穏やかな青年にも見える。
アウルが授業に戻った後、続くようにマリーは他クラスに用事があると言いその場を後にした。
「他の授業も覗くか」
オルンはスナイェルの方に向くと付いてくるよう手で招いた。
いくつ回ったのかは覚えていないが、どの授業もスナイェルの知るものとは大きくかけ離れていた。
言語や計算などを扱う座学が基本だった港の組とは異なり、どれも戦いを見据えた実習だった。
戦闘訓練をしているクラスがほとんどで、たまに武器を作ったり修理をしたりしているクラスがあった。
〈森の組〉の人は皆、子どもの頃から鍛えているから強い。
エマの言っていたことは、そういう意味だったのだろうか?
夕刻に染まる空はまだ明るい。




