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10 生きる物語

「で、俺たちが会う人って誰なの?」


しばらく無言だった四人だが、最初に口を開いたのはパールだった。


三人は顔を見合わせる。

「エマさんから何も言われてないの?」


「言われてないな」

「んーあの人、肝心なこと言わないで楽しんでるタイプだよね」


「これじゃ人間かどうかも分からないな」

街を見渡す限り人間と異形が混在している。


「ここにも学校があるんだよね?そこに行ってみるのは?」

「エマがあまり快く思われていない可能性があるから、うかつに島の主力に声を掛けるわけにはいかないかな」


そうか、森の組の人間は歓迎されていないようだった。そのうえ、あのフネ計画の組織が立ち入っていない島であり、戦闘能力に長けた人々の居る島である。下手したらただでは済まない気がする。


その割にはにぎやかで、穏やかにも見える。


「とりあえず……服変えるか」

島の人々のカラフルな服装に混じると、四人はかなり浮いていた。

オルンは備蓄入れの袋からお金を取り出すと三人にそれぞれ渡した。

すごい量のお金……。


四人は街の中を回りながら服屋を探した。なかなか高価なお店が多い中で一軒、年季の入った服屋を見つけて入った。

古着屋のようで様々な服が雑多に掛けてあり、四人はその中から選ぶ。


早速着て鏡を見ると、今まで白か黒色の服しか着てこなかった彼らは華やかな自分の姿に驚いていた。

「似合うじゃん」

スナイェルはオルンに向かって言った。


「なんか足が寒いな、これ」

「スカートにしたのか、下になんか履いておきなよ」

オルンはなるほどと言うと、もともと履いていた短パンをスカート下に履いた。


「どうどう?似合ってる?」

華やかなデザインの服を着たアウルがくるくると回りながら言った。

「いいと思うよ。似合ってる」


パールは変わった形の服を店員に着せてもらっていた。どこかの民族衣装らしい。お似合いですよと散々褒められて、嬉しそうである。


「ねぇ、これお金大丈夫なの?」

「エマから貰ってるから足りるはずだ」


レジにて……すごい金額。

ちゃんと足りた。

あといくらもらっているんだか。


四人は街に溶け込めるほど彩り豊かな格好になった。

街はやはりお祭り模様で、あちらこちらの屋台から美味しそうな香りがする。街の中心部では少し高い建物に石が祀られ、その周りに人と本が頭の異形がランプを持って歩いている。


「やぐらだね、あれが」

建物を指さしてアウルが言った。

「知ってるの?」

「前に姉貴が教えてくれたんだよね」


アウルに姉がいたのか。

「お姉さん、森の組にいた?」

「いや、ずいぶん前から島を出てる。今どこにいるか分からないんだよね。自由人すぎて」

「仲良いの?」

「あんまりかなぁ」

「ねぇ、あの輪の中に行ってもいいと思う?」

パールがやぐらの周りを踊りながら歩く人の流れを、うらやましそうに見て言った。


「オルンと行っておいでよ」

オルンもこの珍しい光景にまんざらでもなさそうな顔をして、仕方ないなと呟きながら人混みの中に入って行った。

「スナイェルはいいの?」

「俺は遠くから見てる方がいいや」

「じゃあ屋台行かない?」

二人は顔を見合わせると、街のあちらこちらから香る食べ物につられて歩き始めた。



お祭りの中心部に迷い込んだ二人は、慣れない雰囲気にあたふたしている。


「こういうにぎやかなところ、好きだったか?」

「え?……あー割と」


オルンは楽しそうにしているパールを不思議そうに覗き込んでいる。

パールは鼻で笑っている。

「浮かれた人間を見るのは愉快だからね」

「そうか……」


やぐらの周りは、二人と同じ年頃の子供たちが多くなっていた。軽快な音楽とともに子供たちが踊って回る。

もちろん二人は踊りを知らないので見様見真似である。


「ここの子じゃない?お祭りはじめて?」


二人が後ろを振り返ると、閉じた本が頭の小柄な子がこちらを見ているようである。

「あ、いや……久しぶりというか」

外から来ていることがバレては良くないんだったか?


「この街は毎日お祭りしてるのに?」


「……」


「ごめんごめん!意地悪しちゃったね。あんまり踊りがふにゃふにゃしてたから、つい」

その子はクスクスと笑って言った。


「ミレアって呼んで!二人は?」

「パール。こっちはオルン」

あっさり名前を言うパールにオルンは戸惑った。


「この街にはいつ来たの?」

「ついさっき」

「それなら私が街、案内するよ!」


ミレアは祭りの中心地から遠ざかるように歩き出した。オルンが戸惑っている横をすんなりとパールが行く。


――割と行動派だが、そんなに簡単についていくような奴だったか?

やはり前と少し違う気が……

オルンはパールの様子に違和感を覚えながら、パールとミレアを追った。


ミレアは明るい少女であった。人としゃべることが苦手なオルンとも丁寧に会話をし、ネガティブな発言を繰り返すパールには前向きな言葉で笑いを誘った。

街を回りながら屋台や店、路地裏の花まで教えた。


「そう!あのやぐらに祀られている石は、昔この島に落ちてきた神様からの贈り物なの!あの石を少しずつ削って使うんだよ」

「無くならないのか?」

「あれ以外にも大量にあるし、今でもたまに降ってくるからなくならないと思う!」


「あの石は何が特別なの?」

パールが不思議そうに聞く。

確かに。そもそも隕石になんの効能があるのかオルンにも分からなかった。


「あれは石を操る魔法使いの住む星からの『贈り物』って言われてるんだよ!」


「だいぶ……メルヘンだな」

「まぁ、本当のところは分からないんだけどね。でもあの石は砕くことで力を発揮することが出来る優れ物なの」

「どんなことが出来るの?」

「雷落とせたり、電気の光線出せるの!すごいよね!」


「ほんとに魔法みたいだな……ところで、ここは?」


気づくと人気(ひとけ)のない路地の一角にある家の前に立っている。

「私の家だよ!ついて来て!」



二人はミレアに続いて中へ入った。

扉を閉める際、ミレアが外を厳重に見渡しているのをオルンは見逃さなかった。


その家には必要最低限のものしか置いておらず、綺麗に掃除が行き届いている。

部屋の中を見渡していると、ミレアは棚を触りながら言った。

「こっちだよ!」


地下への階段が現れている。

隠し階段的なものか。


暗い階段を下ったところには絨毯が敷かれ、ランプがいくつか置いてあった。

適当に座ってと促されるままに二人は床に腰をついた。


ミレアも床に座ると、空気を変えて話し始めた。


「もうじき組織が来るから、その船に乗って島を出るといいよ」


「組織が来る?なぜ分かる?」

「組織が訪れる島の順番を知っているからだよ。次はこの島」

「なぜ知っている?」


「私からは言えないな」


これは答えなそうだな

オルンは話を戻すことにした。


「船に乗って島を出るというのは」


「岩の組はフネ計画に元から賛同していないの。で、まあ君たちが島に来たことはみんな知っているわけだけど……その後に組織が来たわけだから、島の人たちは何か裏があると思って、君たちを捕まえようとしてるってわけ。もうすぐ街の外の門番がホラを鳴らすと思うよ。島に侵入する人がいると門番が街に知らせるためにホラを吹いて教えてくれるの!」

この島の人々は団結力があるようだ。


「なんで俺たちが来た時、門番はホラを鳴らさなかった?」


「それは門番が、いつでも仕留められると判断したからだろうね」


「なめられたもんだ」


ミレアは少し笑いながら続けた。


「ここからが重要!岩の組の住人は組織と全面的に戦うつもりなの。街は混乱状態になる、ここにいても巻き込まれるだけで危ない。

かといって、組織に賛同した風に円満に船に乗らせてもらおうとするのもうまくいかない……だから組織の人間に変装して、船に乗ってこの島を出て!」


ミレアは頭の本をパタパタとさせながらしゃべり迫った。興奮しているようである。

本の中には文字がぎっしり詰まっている。何が書いてあるのだろう?


それはともかく、


なぜここまで俺たちを島から出したいんだ?

初対面だよな?それともエマの言っていた人物なのか?


というか、組織と直接会えるのは好都合じゃないか?


オルンはなんと切り出そうか悩んでいると、先にパールが口を開いた。


「エマって知ってる?」


単刀直入すぎるな。

まあ、それは知りたいが。


「知ってるよ。オルンはエマさんと同じ、森の組の子だよね?」

ミレアはオルンに手を向けて言った。


「……俺も、なんだけど」

パールは自分を指さしながら言った。


「君は……いつからか知らないけど、その顔の人に成りすましているだけでしょう?」


場が凍るようだった。

やはりそうなのか?オルンは不審そうにパールを見る。


「私が人間と違うからかなあ……なんだろう、同じ匂いがするよ」



地下の部屋も震えるほどのホラの音が鳴り始めた。


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