1 港の組
「速く!港へ!」
「走れ!」
銃声響く黄昏時。
淡い空には血飛沫が馴染む。
港の近くに建つ旧校舎は混沌を極めていた。オルン、スナイェル、ぺルナは他生徒に混じり港へ向かう。オルンは四肢で移動し、獣のように身軽に駆けていく。その後ろをスナイェルが走り、ぺルナもそれを追う。
「スナイェル、ぺルナ平気か!?」
「……何とか!」
「待って!……2人とも!」
ぺルナにはあまり体力はなく、足はもつれ、他生徒に押し除けられながら2人を追いかけていた。
銃声と共に何人もの生徒が倒れ、怖がり痛がる悲鳴が聞こえる。容赦のない大人達である。
オルンはひと足先に人混みを抜け、旧校舎を出た中庭にある港の隅の花壇に身を隠し、スナイェルも後に続いた。
だがぺルナが来ない。
「ぺルナ!」
轟音に紛れてオルン達の声はペルナには届かない。
子どもの中でも小柄な少年ぺルナは、隙間を縫って港へ向かっていた。
立ち止まったところ、すぐ真横で泣き崩れていた生徒が後ろから撃たれた。急所を外れたのか、声もなくもがき始めている。それを横目に青ざめた顔で、ぺルナは再び走り出し港へ向かった。
旧校舎、港のすぐ側に背の高い建物と言ったらこの学校のことである。この島は内向的な傾向にあり、とある信仰とは無縁であった。その信仰とは〈フネ計画〉と言うものだ。
〈フネ計画〉とは
この平らな〈板星〉の両端である〈際果て〉をとある〈フネ〉で超えることで救われると言うもの。〈板星〉にはいくつかの大小様々な島があり、それぞれを〈組〉と読んだ。
計画に賛同しない〈組〉はその〈組〉ごと潰されていく。
だがなぜそんな信仰が生まれたのだろう。それは、〈板星〉の形状の変化が関係する。年々、原因は不明だが、際果て付近にある島々がどんどん端へ落ちて消失してしまっていた。人々は自分のいる〈組〉が消失することを恐れ、〈板星〉の中心部へ移住をし始めていた。それに伴い〈組〉内での混乱に事件、デモの多発。〈組〉同士の争いが勃発していた。
そんな混沌極める中、ある組織が生まれた。その組織は〈フネ計画〉を信仰することで、〈際果て〉に消えていった〈組〉が辿り着いたであろう【向かいの世界】に行くことが約束されると言い出したのである。
当然、信じ難いのではあるが、いつ死ぬかも知れぬ混沌の時勢の中で、急に縋るものが現れたのである。八割の人間は信仰し始めた。残りの二割は信仰しなかった。
その組織はその二割を消すことにした。もちろん信仰する人間にはデマを流した。「信仰しなかったことで争いが激化し、あの〈組〉は自滅してしまった」と。
そんな組織であるが、一体何者なのか?何の目的があるのか?などは謎に包まれており、最も誰もそれ以上調べようとしなかったのである。
〈フネ計画〉の組織は次第に勢力を広げ、増やした多くの信仰者を船に乗せ、〈板星〉を横断しては〈際果て〉に向かっていった。
彼ら三人のいるこの〈組〉の旧校舎にはこの島の子どもが一人残らず通っていた。少し前までは、組織の手が届かず平穏であったものの、校長が失踪。生徒達だけで組織に対抗を試みた。しかしながら未熟な子どもが武器を持つ大人に勝てるわけがない。
あっさり蹂躙されている最中である。
ぺルナはようやく旧校舎を抜け、港に隣接する中庭へ出た。学校には似合わぬ満開の花を添えた花壇の隅に二人を見つけた。ハンドサインが花の隙間に見える。
すぐさま2人の元へ走り出そうとする。
「下にも居るぞ!」
組織の連中である。明らかにぺルナを狙う狙撃手がいる。
このまま二人のところに走ったら、巻き込むのでは?
急かす二人のハンドサインに銃声がパニックを引き起こす。
一瞬、固まる。
ぺルナは二人のいるところとは真反対へ走り出した。狙撃手は走り出すぺルナに向かって撃ち始める。
音の方向が変わったことに違和感を覚えた二人は、花壇の隅からそっと覗いた。ぺルナが反対方向へ走っている。
「ぺルナ!何やってる!そっちじゃない!」
スナイェルはそう叫ぼうとしたが、オルンがその口を塞いだ。
「離せよ!ぺルナが!やられる!」
「……逃げるぞ」
「何言ってるの?ぺルナが殺される!」
オルンはスナイェルとの口論の隙、ぺルナのハンドサインを見た。
『行け』
あの寂しがり屋なぺルナが。
格好つけてる場合じゃねぇぞ……
オルンはスナイェルを無理やり引っ張って行くと、臨時の水上ボートにスナイェルを放り投げた。
すぐさまその様子を見つけた組織の人間がこちらに向かってくる。オルンは持っていた拳銃で対抗しながらボートを発進させた。泣き喚くスナイェルは役に立たない。だが無理もない。
遠くにこちらを振り向くペルナが見えた。表情は見えない。その一瞬。顔面を殴られるのが見えた。
銃声が何度か響く。
—港の組が遠くの方に小さくなっていく
オルンは組織をあっさり撒くと、追っ手が来ないことを確認した。
オルンは泣き崩れるスナイェルを横目にボートを動かした。目指すはオルンの故郷、森の組である。
気味悪いほどに静かな夕暮れ時の海は、ボートの音を溶け込ませていった。




