第10話 本当のすがた(1)
年下弟子さん好きに愛を込めて!
この世界では、魔法は人だけが使えるものではなく、種別によって使い方や方法は異なる。
人が魔法で生活を便利にするように、森は魔力を蓄え、そこを住処とする者に恵みを与える。魔獣は、その魔力を糧とし、自らを強くし、生存率を高める。
マリィは、考えた。
獣人であるルークは、人型を保つために、日常的に多くの魔力を使っている状態なのではないか。
本来の姿で獣人の魔法の適正に近い方法で試せば、もっと魔法の制御がしやすいのではないか。
マリィが弟子にしてあげられることなんて、たかがしれている。
それならば、マリィの前で本来の姿をさらしてもよいと思えるようになって、その上で、獣人としての魔力のコントロールを目指してみてはどうかと思ったのだ。
「…僕が怖い?」
ルークのかすれた声がした。
青い瞳が不安で小さく揺れていた。
「そんなわけないわ。私の可愛い弟子だもの」
マリィは、ルークの頭を優しく撫でる。ルークの髪の毛は、銀色の混じった深い灰色で、何度撫でてもピンピンと先が立ってしまう。
「あのね、ルーク。毎日、木の実をプレゼントしてくれてありがとう。」
ルークは、何も答えない。
蜂から襲われないように防御を使って蜂の巣から蜂蜜を採ったり、初めての森でも木の実や貴重な植物を検索できたり、魔力で攻撃し獲物を狩ることは、森の獣人の自然の営みだ。
「ルークは森の中では、自然と魔法を使っているのに、どうして街の中ではこんなに不自由なのか、いつも不思議だったわ」
本来のルークなら、マリィに悟られずに宝箱のペンダントを持ち去ることも出来るだろうし、人間の魔法の力をやすやすと体にまとわせたりしないだろう。
「ルークのありのままを見せてくれる?」
ルークは今度こそ困惑したような泣きそうな顔をした。
「そんなことをしたら、ここには居られなくなる」
俯いて口ごもるルークに、マリィは大丈夫、とニッコリと微笑んだ。
「弟子と師匠の絆は絶対よ。何があっても、あなたを守るし、どんな姿でもあなたが大好きよ」
ルークは、決心したように手のひらを、自分の胸に当てた。重ねた手のひらが、先ほどマリィの手の中で感じた、大きな指と鋭い爪にみるみる変化する。
銀色の混じった深い灰色の髪の毛が、長く伸びていく。寝癖のようにピンピンとはねていたあの毛束は、全身を覆い始めた。
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