揺らぎの片鱗
「はぁ……まさかカウンターを食らう羽目になるとは……」
肩を落とすケイに、アキはニヤつきながら返す。
「いやぁ、そりゃあの人に前と同じ手段使おうとしたらああなるだろ。確かに以前うまくいったことを繰り返すのは定石ではあるけど、それが通用する相手かは俺たちが一番よくわかってるところだろ?」
得意げに言い放つアキに、ケイは苦い顔で答える。
「そりゃわかってはいたけどね……。それでも無策だったわけじゃなかったし、行けると思ったんだけど……まさかあんな証言があるとは……」
「案外詰めが甘いよな、ケイは。ピンチをチャンスに変えるなら、もうちょっとうまくやらんとね。」
そんな調子に乗るアキに対し、ケイは口をとがらせながら、
「僕だって色々考えた結果だったんだよ……。あの魔術の開発だって楽じゃなかったんだよ。それなのにあんな欠陥が見つかって……。そこをうまく使えそうな状態まで持って行っただけでも褒めてほしいくらいだよ……。そもそも!先攻はどうしたって不利なんだし、ずるいよ、アキは。」
「その辺の日頃の行動も含めて甘いってことさ。悔しかったら口調まで変わっちまうような派手な酒癖、何とかするんだな。」
腹立たしいアキの態度に、ケイはまだ不満げだ。
しかし、アキの言い分は正論で、言い返す言葉も思いつかず、
「……そういうの、他人には嫌われるからね。」
と悪態とも言えないような返事で終わった。
アキはそんなケイの様子を分かった上で、
「わーってるよ。」
とニヤニヤとした表情は変えず、適当な返事をする。
そんなアキに、悔しさが募るケイだが、大きく一つため息をついて気持ちを切り替えると、まだ少しゆがみを感じる笑顔を作る。
そして、先ほどの謁見で気になった部分に切り込む。
「なぁ、アキ。今日これから時間あるかな。王様の最後の話、ちょっと気になっててさ。昨日のお金も返したいし――どうかな?」
その提案で、先ほどまでのアキの表情が消える。
やはりこの話題に対し、アキは何か思うことがあるようだ。
そう考えたケイは、逃げられないようさらに説得を試みる。
が、その前にアキが手を前に出して止める。
「――わかってる。俺、変だよな。俺も、お前に相談したいと思ってる。今日、書庫に本を返しに行かなきゃいけなくてさ。それだけ終わったら部屋に行くから、相談させてくれないか?」
願ってもない提案に、ケイは目を輝かせ、
「ああ、もちろんさ!」
と二つ返事でOKする。
アキは、その返事に満足そうに頷くと、笑顔で手を振りながら自分の部屋の方へ走っていった。
ケイは、その後ろ姿を同じく笑顔で手を振りながら見送る。
(……?)
何か心の奥に謎のモヤを抱えながら――