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夢の旅  作者: 秋川 味鳥
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玉座にて 3

 王はその様子を見て軽く頷くと、さて、と一言おいて本題へと移り始めた。


「お前たちをここに呼んだ理由について話をしよう。

 話は二点ある。

 まず一つ、大したことではない方から話そう。

 就任式の準備についての確認だ。

 特に魔導士団、模擬戦の際にはお前たちの張る結界が重要だ。

 問題ないだろうな?」


 王の問いに対し、ケイはゆっくりと顔を上げて答える。


「問題ありません。順調に鍛錬を重ね、すでに私一人の力では破れない結界の構築ができております。あとはできればアキに協力してもらい、予行として軽く手合わせできれば十分かと思います。」


 そう言ってケイはアキの方を見る。

 王も、アキの方へ目をやり、


「と、言うことだ。今週の予定だと……明後日の夜に時間があるか。問題なければその時間に頼みたいが……どうだ?」


「問題ありません。」


 アキがそう答えると、王は軽く頷いて答える。


「では決まりだ、よろしく頼むぞ。で、剣士団の方はどうだ?警備の方は順調か?」


「はい、当日の配置もすでに伝達、確認が済んでおります。あとは前日に最終確認さえできれば問題ないかと思います。」


 アキの言葉を受けて、王は再び頷く。


「うむ、任せたぞ。こちらも各国に式典出欠の連絡を終えている。すでに何ヶ国か返事も届いている。まだお前たちの就任式である旨は伝えていないが、当日お披露目と同時に新たな我が軍の実力を示すこととなる。信頼はしているが、下手なことはせんでくれよ。」


 王は冗談めかして笑いながら、二人に伝える。

 二人は頭を深く下げて返事をする。

 その姿を見て満足そうに微笑むと、


「さて、ここからが大事な話だ。」


 そう言うと、王の顔から笑みが消える。


「最近、不法に国外逃亡をする民が増えている。他の団体の代表にも通知するが、今後は団員により気を配ってくれ。」


 突然の話に、ケイとアキは二人で顔を見合わせる。

 ここ最近忙しく、他の団体の噂等をほとんど聞かなかったたこともあるが、自分たちの団にはそのような問題が一切起こっておらず、話も一切聞かなかった。


「原因は?わかっているのですか?」


 アキは思いのままに食い気味に質問する。

 王は少し驚いた表情を見せる。


「お前たち……二人ともこの話自体初耳か?まぁ、ここ数ヶ月式典のことにかかりっきりだったからな、そんな暇もなかったか。

 原因は調査中なのでな、はっきりしたことは言えないが――」


 王は言葉を止めて大臣をちらりと見る。

 大臣はしばらく黙って目を瞑っていたが、ゆっくりと王へ向き直ると小さく頷いた。


「国外逃亡した民には一つ共通点があった。

 逃亡する直前、周囲に自分の職に対する不満を口にしていたという共通点が、な。」


「それ……は……」


 その言葉を最後に、皆が押し黙った。

 当然だ。

 アキにも、ケイにも、当然思うことはある。

 だが、職業選定の儀はこの世界のルール。

 下手なことを口にすれば、国際問題になりかねない。

 その状況を見て、王は一つため息をついて口を開く。


「まぁ、気持ちはわからんでもないがな。」


「国王様!」


 大臣が即座に口をはさむ。

 しかし、王は悪びれる様子もなく大臣の方を向く。


「大丈夫だ、わかっているとも。

 だからここだけの話だ。

 信頼できる者のみの状況だからこそ、中途半端に隠すことなく心をさらけ出して話したいのさ。」


 大臣は何かを言いたげに顔を歪ませるが、少しの間黙った後、目を瞑って正面を向きなおす。


「いろいろとすまんな、大臣。」


 王は静かにそう呟くと、改めて二人に向き直る。


「私も、幼少期に夢見ていた職と今の職は全く違う。

 職が決まった当時に感じた不満は、時間が解決してくれるものだけではない。

 お前たちがどんなことを感じているかを聞くつもりはない。

 だが、こういう人間もいる、ということを理解しておいてくれ。

 そして、話を聞いてやってほしい。

 話しにくいことだからこそ、信頼できる者が聞いてやるしかないからな。」


 先ほどまでの軽い雰囲気からは想像もできない王の姿と想像もしていなかった話の内容に、二人は少しの間呆然とする。

 ケイはすぐに冷静に戻り、


「ハッ!かしこまりました。」


 と、返事をする。

 一方、アキは一向に動きを見せない。

 下を向いて何かを考え込んでいるようだ。

 ケイはそんなアキの様子にいち早く気付くと、魔術でアキの首後ろに小さな氷を作り出し、そのまま落下させる。


「つッ!」


 急に感じる冷たさに我に返るアキ。

 状況の変化に一瞬困惑を見せるが、これまでの経験からケイの行動の意図と状況を理解し、


「かしこまりました。」


 と王に返事をする。

 王は、そんなアキの様子に少し怪訝な顔をしつつも、二人への伝えられたことに満足し、


「よし、これで話は以上だ。任せたぞ、二人とも。」


 そう言って、今回の謁見は終了となった。


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