逃走後
「はぁっ……!はぁっ…………!」
息を切らせながらアキ、ケイ両名は貧民街を走り続ける。
店を飛び出してから10分近く、ほぼ休みなしで走り続けたまま。
追手が無いことは随分前から確認ができている。
にも関わらず、二人がずっと走り続けているのには、ある目的があった。
(み、水………………っ!!!)
そう、彼らは水を求めて走っていた。
理由は二つ。
一つは単純に酒を抜くため。
酒を飲んですぐにアルコールを抜こうとするのは勿体無い事この上ないが、さっき店であった事を考えればそんな事を言っている場合ではない。
むしろ、この状況で酒を入れようとしていた過去の自分達がどれほど軽率であったか。
そして、二つ目の理由はーー
「うぷっ………………!」
アキの後ろを走る男が今にも吐きそうであるからだ。
机いっぱいに空きのグラスを並べた状態であれだけ派手に飛び回ったのだ、この結果は当然と言える。
だが、ただ吐くだけなら、自業自得で終わる話だが、今はタイミングが悪い。
処理するような時間がないし、何よりこんな町中で吐いたら目立つ。
現状において、最悪の症状と言える。
そんなこんなで、必死になって水を探す二人。
だが、問題は二人にこの周辺の土地勘が無い事だ。
(この国に来て、わざわざこっちの通りに来る理由なんて無かったからな……。
とはいえ、見知った向こうの通りで水を得ようと思えば、店に入るしかない。
こっちなら井戸水とかがどっかにあるんじゃないかと踏んでたんだが……。)
裏道を散々走り回ってきたが、それらしいものは見当たらない。
ケイももう限界が近いというのに……。
「ーー仕方ないっ……!」
アキは裏道からバッと店のあった通りに飛び出す。
急いで辺りを見渡して、一人の老人に目をつける。
首をカクカクと振り、今にも寝てしまいそうな老人に、アキは話しかける。
「おっちゃん!おっちゃん!!」
「………………んお?」
老人はのんびりとした動きで寝ぼけ眼でアキを見る。
「あーーー……?兄ちゃん、どっかで見た顔だねぇ………………?」
「悪い、おっちゃん!連れが限界そうで急いでてな、コイツで情報を売って欲しい。
この辺でタダで水を飲めるとこはあるかい?
水を買う余裕すら無くてな。」
アキは焦った様子で小さなコインを老人に差し出してそう言う。
老人は、のんびりとした動きで、コインとアキを何度か交互に見る。
そうして少しの間眺めた後、ようやく老人は状況が掴めたようで、ゆっくりとアキたちがこれまで走ってきた方向を指差す。
それを見て、アキは老人にコインを渡す。
「……この店から3軒隣の店の横から裏に入ってな、突き当たりを左に曲がってしばらく道なりに進んで行くと、少し開けた場所に出る。
そこに井戸があるぞ。
水も飲めねぇ程貧しい奴なんざこの通りでも珍しいから、ほとんど誰も寄り付きやしねぇがな。」
アキはその情報を聞くと、もう一枚同じコインを老人に渡し、
「ありがとな!おっちゃん!」
と、だけ伝えて急いで裏道に置いてきたケイを拾い、老人から聞いた井戸を目指す。
(リスクはあったが、それに見合う価値はあったな……!
そんなところ、見つけられる訳がない。)
できればもう少し見つかりにくい裏道での行き方を知りたいところだったが、自分たちの状況をあまり詮索される訳にもいかないし、渡したコインもあの額ではそれこそ水も買えやしない。
贅沢は言えない。
二人は、若干周囲に目立ちつつも、通りを全力で駆け抜けて言われた通りの店横から裏道へ。
突き当たりまで進み左へ。
(人一人がやっと通れそうな道、情報が無きゃこんな道、通ろうとも思わねぇな。)
「ーーうぅ…………。」
体調不良の中散々走り回されて、ケイも流石にもう限界そうだ。
ギリギリだったが、何とか間に合いそうでよかった。
もう目の前に開けた場所が見えてきている。
全速力そのままに、道から飛び出そうとしてーー
「………………ッ!!?」
全力で、止まる。
井戸の前に、誰かが、いる。




