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夢の旅  作者: 秋川 味鳥
ラズムの国
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一幕後の店内

 アキたちが店を飛び出してから数秒後、ようやく混乱の中フリーズしていた店内が動き出す。

 着ぐるみの効果で客の声は一切聞こえないが、店舗スタッフ達がザワザワとし始める。

 また、


「…………ハッ!ーークソッ!あいつらッ!!!」


 隊員の中にも逃げた二人を急いで追おうとする者。


「…………貴様ぁ……!」


 邪魔をした赤髪のスタッフの首を掴んで持ち上げ、報復しようとする者など、再び混沌とし始める。


「鎮まれぇぇぇぇぇぇぇぇいッ!!!!」


 軍隊長の一喝。

 それと同時に、全ての軍隊員が一斉に敬礼をする。

 赤髪の女性もその瞬間に解放され、少し咳き込みながら倒れ込む。

 その他一般人も、その迫力の中で雑談が続けられる者などおらず、店内は再び静寂に包まれる。

 軍隊長は店内の隊員達の様子を一通り見渡すと、一番に二人を追いかけようとした隊員に話しかける。


「今奴らを追う必要はない。」


「ーーなっ!?何故ッーー!?」


「落ち着け、本来の我々の目的を見失うな。

 我々はここに密入国者2名を探しにきたのだ。」


「だ、だからこそ奴らを……!!」


「そこで冷静になれと言っているのだ。

 奴らは我々に無礼を働きこそしたが、密入国者であるという証拠はない。

 つまり、密入国者はこの店内にまだ残っている可能性がある、ということだ。」


 隊員はようやく黙り込み、落ち着いて話を聞く体勢に入る。

 隊長はそれを確認すると軽く頷き、指示を続ける。


「まずはこの国から出られないよう城壁周辺の警戒を強化する。

 身分が確認できない者は決してこの国から出すな。

 それからーー」


 隊長は倒れ込み、咳き込んでいる赤髪の女性の元へ行き、しゃがんで目線を合わせる。


「この店について、君の意見は十分に理解した。

 そして、これ以上先程のような面倒ごとを増やすのはごめんだ。

 というわけで、我々はこの店から撤退する。」


 この発言に、隊員たちが一瞬ざわめく。

 店内の客の中にも、動きだけで喜んでいるのがわかる者もちらほら。

 だが、その状況は次の発言でひっくり返る。


「ただし、この店から出たら別だ。

 この店から半径50メートル以内に近づかないことは約束しよう。

 だが、そこから一歩でも出た者は逃しはしない。

 どこまでも追いかけ、身分が確認できるまで隅々まで調べさせてもらう。

 店外での事なら流石に許可してもらえるね、レディ?」


 一気に静まり返る店内。

 赤髪の女性も苦々しい顔で黙り込む。


「…………沈黙は肯定と受け取らせてもらおう。

 ーーではお前たち!撤退だ!

 その後は今の話の通り、この店から50メートル離れたところで警戒網を張れ!

 この店から出る者を一人たりとも見逃すな!」


「「「ハッ!!!!!」」」


「それとマイス!

 お前は随分走りたそうだったからな。

 伝令役を与えてやる。

 本隊に戻り、副軍隊長に状況を伝えろ。

 そのままお前は外壁の警戒の任に就け。」


「ハ、ハッ!!!」


 逃げた二人を真っ先に追いかけようとしていた隊員、マイスは指示を聞いて誰よりも先に店を飛び出していく。

 そして、彼が出て行ったのを皮切りに、軍隊員たちが次々と店を出て行った。

 だが、その中で動こうとしない隊員が一人。


「……キンゴ、何をしている。指示を聞いていなかったのか?」


 ケイと戦っていた二人組の一人、先ほどまで赤髪の女性に掴みかかっていた隊員だ。


「…………すみません、隊長。指示は理解してますし、すぐに行きます。ただ、この女の始末だけはつけさせてください。」


 キンゴはそう言って赤髪の女性を睨みつける。

 女性もまた、首を抑えて咳き込みながらもキンゴを睨み返す。


「……ダメだ。」


「何故ですっ!!!!」


 今なお反抗的な態度を取り続ける、赤髪の女性に対して極限まで高まった怒りが言葉に現れる。

 軍隊長はそんな彼の怒りに対し、全く感情を動かさずに応じる。


「お前が冷静では無いからだ。

 お前は一般人である彼女に何をするつもりなんだ?

 説教などの生優しいもので終わるとも思えん。

 今のお前は信用に値しない。

 勝手を許す訳にはいかん。」


 冷静にそう言い放たれて、キンゴは思わずウッと気圧される。

 それでもキンゴは引かない。


「た、確かに俺は冷静になれてないかもしれません……。

 でも、こういう態度だけならともかく仲間に危害を加えられてるんですよ!?

 ここまでされて何も無しとはいかないでしょう!??」


 キンゴは勢いのままに隊長に食い下がる。

 隊長はしばらくキンゴの目をじっと見ていたが、やがてため息をつく。


「……はぁ。

 まぁ、お前の言い分ももっともだ。

 確かにこのまま黙ったままというのは我々の沽券にも関わる。」


 その言葉に思わずニヤリと笑みを浮かべ、赤髪の女性を見るキンゴ。

 だが、


「ーーでは、私が話をつけよう。

 今後の対応含めて、我々の在り方、というものについてしっかりレクチャーさせてもらう。

 もちろん、私のやり方で、ね。」


 その一言で、目を丸くする。

 その言葉の意味するところ、それは即ち自分には手の届かない所で対応が行われるという事。

 仲間を、友を傷つけられてそれを自分の手の届かない所で解決されようとしているなど、彼には耐えられなかった。


「……ッ!!では、せめて後学のため自分も一緒に着いて行かせてください!!」


「不要だ。

 君が側にいては話が円滑に進まない。

 我々も忙しい身。

 不要な感情のぶつけ合いで時間を無駄にしたくは無い。」


 冷たく言い放つ軍隊長。

 キンゴは、


「ーーしかしっ……!!!」


 と食い下がろうとするが、


「くどいッ!!

 そういう自らの未熟さを自覚できていないところが問題だと言っているのが分からんのかッ!!

 今の貴様にこの後の対応を見せる意味はない。

 それよりもまずやるべき事が山ほどある。


 今は彼女のことは忘れて、とにかくまずお前の友を助けてやれ。

 大した傷ではないだろうとはいえ、それすらできていないお前に、今の私が教えてやることなどない。」


 キンゴはそう言われてようやく倒れた友、アイクを見る。

 気を失っているだけで大きな外傷はなさそうだが、確かに本当に彼を思っての行動であるなら、まずは彼の身を案じることからすべきだ。

 キンゴは目を伏せたまま、小さく

「はい…………。」と返事をすると、アイクを抱えて急いで店から出て行った。


 隊で唯一店内に残った隊長は、周囲を見回すと深々と一つ頭を下げ、


「大変お騒がせをして申し訳ない。

 捜査ももちろんの事、まさか我々の未熟な所まで披露することとなるとはお恥ずかしい限りです。

 これにて私も失礼いたしますので、どうかご容赦を。

 では、最後に。

 ーー店長!話の通り、彼女を少し借りていきますよ!!」


 軍隊長は、厨房の奥に向かって声を響かせる。

 返事はない、が、それ即ち


「肯定、と受け取ります。

 ーーでは、行きましょうか?レディ。」


 そう言って赤髪の女性の手を取る。

 女性も、流石に諦めたのか特に抵抗することもなくそのまま軍隊長についていく。


 そうして軍隊長は、出て行く直前に、


「おっと、いけない。」


 と呟くと、剣を取り、先ほど戦闘があった辺りに向かって剣を一振り。

 すると、倒れた木製の机があっという間に壁や床の板に変化していき、余った木材がそのまま店の新しい机に変化していった。

 そうして元通りになった店内をにっこりと笑顔で眺めると、


「では、失礼っ!」


 と言って、女性の手を引きながら店外へと消えていった。

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