表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の旅  作者: 秋川 味鳥
ラズムの国
50/52

お仕置き

 ケイの奇行によって、店中の軍隊員が一斉に臨戦体勢となり、こちらに視線が集中する。

 逃げる、という手を取るためにはこれ以上なく最悪な状況だ。

 ケイはふらつきながらも剣を取って構える。

 このベロベロの状態で咄嗟に取った武器が剣であるというのは、何とも胸が熱くなる話だ。


 そこまで考えたところで、アキは我に帰る。


(あまりに衝撃的な事ばかり起きて思考停止しちまってた……!)


 状況は最悪にはなったが、まだ全てを諦めるには早い。

 これからの事の成り行きをしっかり見て、何とかこの場を切り抜けなければ。


 ひとまず、ケイの近くには隊員が二人。

 実力差やケイの体調を一切考慮しなければ、すぐに対処できる距離にはいる。

 この二人をまずは突破できなければ先はない。


(何か奇跡でも起きなきゃキツイな……。

 シラフでもこの状況での勝算はほぼないってのに……。)


 現状の二人の実力では、才能ある熟練者を相手に真正面から戦えば当然敗北する。

 さらに泥酔状態というデバフ。

 改めて考えても絶望的。

 ーーと、ここでアキに電流が走る。


(戦闘があるタイプの創作で、泥酔状態の戦士が出てくる場合にありがちな展開……予測不可能な動きで翻弄して敵を倒す!

 確か読んだ本では……酔拳、とかって呼ばれてた……!

 あれは素手での近接戦闘だったけど、剣でならもしかして……!!)


 ケイが剣を振りかぶる。

 攻撃相手に狙いを定めたようだ。

 ケイはフラフラと不規則ながらも素早く相手との距離を詰めていく。

 そして、大きく振りかぶったその一撃が放たれる。

 当たれば確実に相手を頭から真っ二つにしているであろうその一撃は。


 狙った相手の1メートルほど左に着弾した。


 狙われた隊員は、ハァ……と呆れたようにため息をつくと、地面から抜けなくなった剣を必死に引き抜こうとしているケイを横から軽く蹴飛ばす。


「ウェッ!!」


 何とも情けない声を上げながら、ケイはそのまま転がっていく。


(……そんな上手い話、あるわけないよなぁ。)


 そもそも創作物においても、その道の熟達者が技の一つとして使用するもの。

 素人に毛が生えたレベルの剣士が奇跡や偶然でやれるものではない、という事か。


 ーーと、そんな事をのんびり考えている場合ではなさそうだ。

 先ほど狙われた隊員が、転んだままのケイの前に立ち、剣を立てる。


「…………死ね。」


 その短い言葉と共に、迷いなく剣先がケイの喉元へと向かっていく。


(嘘だろ……!!!!)


 アキは、念の為事前に店に張り巡らせていた魔力を急いで操り、ケイを狙う隊員の足元の板を思い切り浮かす。


「うぉっ!!!」


 隊員はバランスを崩す。

 流石軍隊員という身体能力で転ぶようなことはなかったものの、ケイに向かっていた剣先はケイの顔の10センチほど左に突き立った。


 アキは、ケイが無事である事を確認するとすぐに魔力を回収する。

 そして、なるべく身体を動かさないよう意識しながら、


「ケイ!!早くその場から離れろ!!!」


 と、叫ぶ。

 距離が離れた状況、着ぐるみの魔術の効力が働いているかも賭けであったが、何とかケイだけに言葉が届いたようだ。

 後は、ベロベロ状態でうまく離脱ができるかだが。

 ケイは、先ほどまでのフラフラからは考えられないような身のこなしでその場から離脱する。

 その辺りは身体に染み付いているようだ。


(ーー何とか最低限の立て直しはできたが……コイツは想定よりも相当マズいぞ……!)


 まさかケイの命を直接狙うとは予想外だった。

 捜査、という名目である以上、最低限ケイが密入国者の一人である、という確証が得られるまでは殺されるまではいかないだろうと考えていたのだが……。

 加えて、


「……やっぱり仲間が居るのか。おい!キンゴ!魔力探知は!?」


「……無理だな。もう痕跡はない。事前に仕掛けられていたんじゃ流石に気づきようが無いな。……だが、魔術を使うことがわかった以上、次は無い。」


 ラズムの国の魔導騎士軍。

 その名の通り、魔術と剣術両方の技量が求められる軍隊。

 その分人によって才能の大きさに差はあるものの、アキ程度の魔術であれば不意打ちでもなければすぐに対処される。

 そして、その不意打ちをもう使ってしまった。


(クソッ……!動きようがなかったとはいえ、様子見をしてたらさっきよりもさらに最悪な状況に……!)


 張り巡らせた魔力も全て回収した。

 実力も相手が上。

 こうなってしまってはーー


「もういっそ……俺も堂々と喧嘩売って2対2の状況に持ち込んだ方がまだ……!」


 わずかな勝機を求めて、アキが杖を手に取ろうとした、その時だった。


 パァァンッ!!!


 激しい音と共に、先ほどケイに剣を突き立てた隊員が店の壁へと吹っ飛んでいく。

 隊員は衝撃で気絶してしまったようで、ピクリとも動かない。

 これほどに強烈な一撃を放った人物。

 それは、赤髪のスタッフだった。

 いつの間に軍隊長の側から離れていたのか、なぜこんな破壊力を持った攻撃ができるのかなど、疑問と困惑で店中が時が止まったように静まり返る。


「ーーチャンスだ!ケイッ!!!」


 呼びかけと同時に出口に向かって全力で走りだすアキ。

 と、同時に残った隊員に魔力操作で机を投げつける。

 机は隊員に当たる直前で真っ二つになって吹っ飛ぶ。


 軍隊長だ。

 彼女が剣を抜き、いとも容易く机を切り裂いた。

 かなりしっかりとした作りの机だったというのにそれを即座に切り裂くとは恐ろしい。


 だが、これはむしろアキたちにとってはラッキーだ。


(まさか隊員一人のためにわざわざ出張ってくるとはな。机一個であの厄介な軍隊長の意識を一瞬でも俺たちから逸らせるなら最高の結果だろ……!)


 ケイも何とかそれなりの速度で付いて来る。

 何とか手が届きそうな距離になったところで手を掴む。

 致命的になりそうな条件を全て排除し、そのまま出口へ。


「ーーッ!?」


 最後に一瞬、着ぐるみが解けかけたアキと軍隊長の目が合った気がしたが、気にする余裕はない。

 二人はそのまま出口から全力で飛び出していった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ