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夢の旅  作者: 秋川 味鳥
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玉座にて 1

 玉座の前。

 アキともう一人、呼び出されたケイが頭を垂れて国王の言葉を待っていた。

 ――正確には、国王が現れるのを、だが。

 呼び出されてこの部屋に着いてから約十五分。

 時間的には大したことないが、ずっと同じ姿勢で、それも黙って居続けるのはキツイものがある。

 流石に状況確認でもさせてほしいと大臣に声を掛けようとしたその時、


「いやー、ごめんごめん。丁度ご飯時でね。」


 まだ口をもごもごさせながら、中年の男性・国王が部屋に入ってきた。

 口ではごめんと言いつつ、目線は手元の書類に行っており、大して反省はしていないように見える。

 王は玉座の前まで来ると、口から少し飛び出していたパスタをチュルッと吸い込み、大臣に手元の大量の書類の内二冊子を向け、


「この二つはもう十分だろう。サインしたからこの通り進めるよう伝えてくれ。残りのものはまだいくつか確認したいところがある。今日中に質問状をまとめておくから、話す場と日程の調整を頼む。」


 そう言って書類をすべて渡すと、ふぅと一息ついて玉座に座り、そこでようやく二人に視線を向けた。


「すまんね、遅刻してしまった。まぁ、私もなかなか忙しいもんでね。申し訳ないとは思いつつ、やっぱり外からの客人でもなければ気が抜けてしまうな。気を許せる君たち内部の人間にくらいはこんな調子でも許してほしいという気持ちを理解してもらえると嬉しい。代わりと言っては何だが、本題の前に何か要望があれば聞こう。面白い話であれば検討しよう。あぁただし、もちろんそれぞれの団の予算アップだとか聞き飽きた要望は勘弁だぞ?それはまだ検討中だとしか答えられん。」


 いつものことが始まった。

 王は人を呼びつける際、必ず何かと理由をつけて要望や不満を聞く。

 表では、部下の声を聞き、常に向上心と反省の心を持つためだと言っているが、ただの暇つぶしであることは誰もが知ったところだ。

 その証拠と言わんばかりに、王はニヤニヤしながら二人の発言を待つ。

 二人は顔を見合わせ互いの反応を見る。

 互いに手札はあるようだ。

 アキは様子を見たいと思い、お先にとジェスチャーするが、考えは同じのようで、完全に動きがシンクロしてしまう。

 そこでアキは、ケイの記憶を信じ、指で円を作ってジェスチャーを投げる。

 ケイはそれを見ると、苦い顔をしながら手を挙げる。

 賭けはアキの勝ちだったようだ。


「それでは先に私から。最近、書庫で虫食いが問題となっております。幸い、結界の効果もあってか別館の魔導書庫ではまだ被害が出ておりませんが、万が一も考えられます。対策に我々魔導士団も携わらせていただきたいのです。我々の詰所は書庫に近い位置なので作業もしやすいでしょう。」


 これはむしろ願ってもない話ではないだろうか。

 現状、司書官は様々手を考えているようだが今一つ有効な手段が見つかっていないようだ。

 魔術という選択肢や魔導士団の人員が増えれば取れる手段は多くなるだろう。

 更に、魔導士団には魔導書庫にも利用されている結界術がある。

 今後虫が入らないようにするアフターケアもばっちりだ。

 王は顎に手を当て、しばらく黙っていたが、つまらなそうにフッと笑うと

 、

「なるほどな、それは確かにお前たちに頼まねばならないな。」


 それを聞いてケイはニヤリとする。

 が、


「あぁ、予算は変えんぞ。今回はお前たちが無償で司書官に奉仕しろ。」


 その言葉で、ケイの表情が一転する。

 しかし、困惑した表情を見せたのは一瞬。

 すぐに冷静さを取り戻す。


「……理由をお聞かせ願えますでしょうか。」


 王はそう問われるが、もはやケイに興味は無いようだ。

 手の爪を見ながらあくびをしている。

 しかし、聞かれたことに答える気はあるようで、こちらを見ずに話を始める。


「虫の発生は聞いているし調査も進んでいる。これまでにない事件だ、早急に対応しなければならない。

 現時点でわかっていることは二つ。


 発生時期はおよそ一か月前であること。


 そして、魔導士団の詰所の隣にある書庫のみが被害に遭っているということだ。」


 ここで、王は自身の爪から視線を外し、ケイへと向ける。


「一か月前、魔導士団、この二つで私は一つのことを思い出してな。

 その頃に新たな魔術開発の許可を出したことがあった。確か……より長時間明かりを灯し続けられる魔術だったか。その魔術の副次的な作用である可能性が考えられないかと思ったわけだ。で、そのあたりを中心に調査してもらったところ、虫の出所が詰所の方である可能性が高くなってきた。」


 王は大臣に先ほど渡した紙の束から一枚を取り出すと、紙に書かれた内容を読み上げる。


「給仕が掃除をしていた際の証言だ。あのあたりで初めて虫を確認したのは三か月ほど前のことだそうだ。お前たちが開発の申請を出してきた時期と一致するな。その際、虫はまっすぐ魔導士団の詰所へと向かっており、部屋からは明かりが漏れていたそうだ。」


 ケイは苦い顔をする。

 なるほど、状況は絶望的だ。

 こうなれば、魔導士団としては実際に魔術を使用し、虫が寄ってくるような副作用がないことを証明するしかない。

 もちろん、完全な無実の場合だが。


「……承知いたしました。我々で対応をさせていただきます。」


 それだけ言って、ケイは下を向いて黙る。

 どうやら、今日のところはケイの完全敗北のようだ。


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