エピローグ -残された者達 魔導士団-
ヴェインとは別の部屋。
全身包帯で巻かれた少女が、部屋の天井を無表情で眺めながらベッドの上で寝ていた。
「……そんなところに居ないで、入ってきたらどうです?」
少女、サロメは顔を動かさず、扉の裏に隠れるように立っている男、ヴァンに声をかける。
「い、いや、私は……。」
ヴァンは声を震わせて答える。
そんなヴァンの態度に、サロメはため息をつく。
「ふぅ……まだ、女性が嫌いなんですか?」
「い、いや!嫌いという訳ではない!恋愛対象は女性だし、その意味で言えば、むしろ好きだとも……!」
モゴモゴと聞いてもいないことをペラペラ喋るヴァン。
そんなヴァンに、サロメはさらに大きなため息をつく。
「はぁ…………なら、むっつりスケベってヤツですね。
私みたいな子供にまでそんな状態とは……犯罪だけはしないようにお願いしますね?」
「バッ…!!バカモノッ!!そんなことするはずなかろう!!」
扉の裏で思わず叫ぶヴァン。
サロメはそんなヴァンの様子にクスクスと笑う。
「そんなことわかっていますよ。
ヴァンさんはそんな人じゃないし、そんな度胸もないって。
たまにはこういう事言って、気分を変えてみるのも良いかなって思っただけです、すみません。」
ヴァンはそれを聞いて一つため息をつく。
そうして、ヴァンもまた軽く笑うと、
「ーーそうか、気分転換にはなったか?」
と、サロメに問う。
「うーん、それなりに、ですかねぇ。
ヴァンさんじゃあ足りないかなー?
なんて、ふふっ、悪ふざけはこの辺でやめておきます。」
サロメはそう言うと、包帯が巻かれている片目に触れる。
「大袈裟に巻かれてますけど、視力自体は問題ないそうです。
キズはどうしても残るみたいですけど、まぁ兵士である私には勲章のようなものです。
完全に回復するまではまだ1ヶ月以上かかるそうですけど、身体を動かせるようになるまでならあと2〜3日程度だろうって聞いてます。
少し時間はかかってしまいますが……必ず早期に復帰します。今度は絶対に負けないように。」
負けない。
その言葉を聞くと同時に、ヴァンは背中が何となく冷たく感じた。
ヴァンはスッと壁から背を離すと、
「……お前の気持ちは十分伝わった。
今はゆっくり休め。
お前を必ず、強くしてやる。
絶対負けないように、な。」
そう言って、ヴァンはゆっくりとその場を去っていった。
ヴァンが去っていく足音を聞きながら、サロメは静かに目を閉じる。
「……ケイさん。」
幼少期、孤児院にいた頃から、ケイは自分と一緒にいてくれた。
アキは活発な性格だったためにあまり自分とは合わず、関わることが多くなかったが、大人しい性格であったケイはよく一緒に遊んでくれた。
その頃から兄のように慕っていた彼が、ひと足先に魔導士団に入ってからの五年間は、彼女にとって地獄のような日々だった。
誰と過ごしても何をしても孤独を感じる日々。
寂しくて寂しくてたまらない。
何をしても満たされない日々。
ケイと同じ魔導士団に入ることになって、ようやく安息の日々が戻ってきたところだったのに。
「……必ず、ワタシの側に戻ってきてもらいますから、ね。」
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ヴァンはサロメの病室からしばらく離れたところで、壁に手をつく。
その呼吸は荒く、額からは滝のように汗が流れていた。
「ハァッ……!ハァッ……!本当に、恐ろし、かった……!」
この恐怖は当然、サロメの素肌のせいではない。
最後の言葉に感じた冷たさのためだ。
「……ケイ、必ず戻ってきてもらうぞ。
悪いが、私にアイツは……。」
最後の言葉を飲み込んで、ヴァンはゆっくりと自室へと向かう。
治ったはずの傷が、何故かズキズキと痛んでいた。




