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夢の旅  作者: 秋川 味鳥
旅の始まり
43/52

エピローグ -残された者達 魔導士団-

 ヴェインとは別の部屋。

 全身包帯で巻かれた少女が、部屋の天井を無表情で眺めながらベッドの上で寝ていた。


「……そんなところに居ないで、入ってきたらどうです?」


 少女、サロメは顔を動かさず、扉の裏に隠れるように立っている男、ヴァンに声をかける。


「い、いや、私は……。」


 ヴァンは声を震わせて答える。

 そんなヴァンの態度に、サロメはため息をつく。


「ふぅ……まだ、女性が嫌いなんですか?」


「い、いや!嫌いという訳ではない!恋愛対象は女性だし、その意味で言えば、むしろ好きだとも……!」


 モゴモゴと聞いてもいないことをペラペラ喋るヴァン。

 そんなヴァンに、サロメはさらに大きなため息をつく。


「はぁ…………なら、むっつりスケベってヤツですね。

 私みたいな子供にまでそんな状態とは……犯罪だけはしないようにお願いしますね?」


「バッ…!!バカモノッ!!そんなことするはずなかろう!!」


 扉の裏で思わず叫ぶヴァン。

 サロメはそんなヴァンの様子にクスクスと笑う。


「そんなことわかっていますよ。

 ヴァンさんはそんな人じゃないし、そんな度胸もないって。

 たまにはこういう事言って、気分を変えてみるのも良いかなって思っただけです、すみません。」


 ヴァンはそれを聞いて一つため息をつく。

 そうして、ヴァンもまた軽く笑うと、


「ーーそうか、気分転換にはなったか?」


 と、サロメに問う。


「うーん、それなりに、ですかねぇ。

 ヴァンさんじゃあ足りないかなー?

 なんて、ふふっ、悪ふざけはこの辺でやめておきます。」


 サロメはそう言うと、包帯が巻かれている片目に触れる。


「大袈裟に巻かれてますけど、視力自体は問題ないそうです。

 キズはどうしても残るみたいですけど、まぁ兵士である私には勲章のようなものです。

 完全に回復するまではまだ1ヶ月以上かかるそうですけど、身体を動かせるようになるまでならあと2〜3日程度だろうって聞いてます。

 少し時間はかかってしまいますが……必ず早期に復帰します。今度は絶対に負けないように。」


 負けない。

 その言葉を聞くと同時に、ヴァンは背中が何となく冷たく感じた。

 ヴァンはスッと壁から背を離すと、


「……お前の気持ちは十分伝わった。

 今はゆっくり休め。

 お前を必ず、強くしてやる。

 絶対負けないように、な。」


 そう言って、ヴァンはゆっくりとその場を去っていった。

 ヴァンが去っていく足音を聞きながら、サロメは静かに目を閉じる。


「……ケイさん。」


 幼少期、孤児院にいた頃から、ケイは自分と一緒にいてくれた。

 アキは活発な性格だったためにあまり自分とは合わず、関わることが多くなかったが、大人しい性格であったケイはよく一緒に遊んでくれた。

 その頃から兄のように慕っていた彼が、ひと足先に魔導士団に入ってからの五年間は、彼女にとって地獄のような日々だった。

 誰と過ごしても何をしても孤独を感じる日々。

 寂しくて寂しくてたまらない。

 何をしても満たされない日々。

 ケイと同じ魔導士団に入ることになって、ようやく安息の日々が戻ってきたところだったのに。


「……必ず、ワタシの側に戻ってきてもらいますから、ね。」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ヴァンはサロメの病室からしばらく離れたところで、壁に手をつく。

 その呼吸は荒く、額からは滝のように汗が流れていた。


「ハァッ……!ハァッ……!本当に、恐ろし、かった……!」


 この恐怖は当然、サロメの素肌のせいではない。

 最後の言葉に感じた冷たさのためだ。


「……ケイ、必ず戻ってきてもらうぞ。

 悪いが、私にアイツは……。」


 最後の言葉を飲み込んで、ヴァンはゆっくりと自室へと向かう。

 治ったはずの傷が、何故かズキズキと痛んでいた。

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