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夢の旅  作者: 秋川 味鳥
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剣士団

「やああぁぁぁ!!!」


 部屋中に響く大声と同時に、剣撃が飛ぶ。

 首、足、手。

 戦闘中に受ければ致命的になる箇所を的確に狙ってくる。

 そんな猛攻に対し、アキは一撃一撃を軽々と受け流していく。

 まるでそういう練習であるかのように、太刀筋が美しい曲線を描いてアキの横を過ぎていく。

 表情を見ても、微笑んでいるほど余裕を見せるアキ。

 そんな姿を見て、当然相手は面白くない。

 一撃ごとに明らかに力強く、鋭くなっていく。

 それでもアキは一切変わらない。

 そんなアキの様子に、ついに相手にも限界が来る。


「――ッアアアアアアアァァア!!!!」


 と、悲鳴にも似た叫びと共に、力の限り剣を振りぬく。

 ――が、次の瞬間には彼は天井を眺めており、首元に剣が当てられていた。

『そこまで!』

 その言葉と同時に、二人の下にガタイの良い男が駆け寄ってくる。

 男は敗北した少年に手を差し伸べると、


「感情的に振り回してたら勝てねぇだろ、リュウ。」


 と笑いながら声を掛ける。

 敗北した少年・リュウは、口をとがらせながらその手を取り、


「そりゃどの道アキさんに勝てるとは思ってないっすよ、副剣士長。」


 と文句を言う。

 副剣士長・ヴェインは、その見た目に違わず、ハッハッハと豪快な笑い声をあげる。


「まぁそりゃあそうだろうがな、感情的になってたら訓練にもならん。あんな隙だらけの一撃が通用するのなんざ、剣士団入りたての坊ちゃんくらいのもんだ。戦場であんなことしてたら死ぬだけだぞ?」


 そう言ってリュウを優しく諭す。

 アキも、


「そうだな、この二年で身体も出来上がってきたし、せっかくいい感じに剣を振れてたのに、あれ一個で全部台無しになっちまうのは勿体ないよ。こりゃメンタルの方の修業が必要かねぇ?」


 などと、冗談を交えつつヴェインに同調する。

 リュウは、アキに褒められて、一瞬嬉しそうな笑顔を見せるが、すぐにアキの方をキッと向き直ると、


「でも!アキさん全然本気見せてくれないじゃないですか!ずっと余裕で微笑まれてるのもムカつきますけど……、何よりいつまでもアキさんの余裕を崩せない自分自身が悔しくてしょうがないんですよ‼こんなんじゃいつまで経ってもアキさんに追いつけない……!」


 アキは、そう言って唇をかむリュウを見て、フッと笑うと、彼の頭に手を乗せる。


「大丈夫だよ。お前は俺なんかあっさり飛び越えて強くなれる。俺が保証するよ。」


 そう言って優しく微笑むアキ。

 リュウはそれでも何か言いたげに口を開こうとするが――


「アキさん!国王様がお呼びだそうです!」


 と、剣士団員がアキを呼ぶ。

 アキは一言返事をすると、


「悪い、リュウ。また今度な。ヴェイン、後は頼む。」


 そう言って足早に訓練場を出て行ってしまった。

 ヴェインはアキが出ていくのを見送った後、


「あんなに突っかかるなんて珍しいじゃねーか。なんかあったのか?」


 とリュウに問う。

 リュウは少しの間、下を向いて黙っていたが、黙っていても仕方がないと判断したのか、一つため息をついて話し始めた。


「だって俺……まだアキさんの本気一度も見たことないんですよ。他の同期の奴らは二年前の隣国との小競り合いの時に見てるのに……。」


 そう聞いて、二年前のことを思い出す。

 確かに二年前、隣国と小規模の戦いが起こった。

 隣国とは昔から因縁があり、定期的に軽い戦が起こっている。

 話によると二百年ほど昔から現在に至るまでずっと戦争の状態であるらしい。

 二年前の戦いもその一環であった。


「あぁーなんとなく思い出してきたぞ。確かあの時、お前が一人突っ切っていって早々に負傷して離脱したんだったか。」


 二年前、隣国の剣士団に攻め込まれた際、当時天才少年ともてはやされて調子に乗っていたリュウは、先陣を切った。

 雑兵こそ減らしたものの、相手の実力者に一方的に敗北。

 間一髪のところをヴェインに助けられ、戦線離脱していた。


「俺が離脱してすぐ、アキさんが出陣。隣国の主力級を悉く蹴散らした後に、隣国の剣士長と睨みあいになって休戦に入りました。あれから皆、目の色が変わった。どんどん力をつけていった。一方の俺は徐々に下の奴らに実力を抜かれていっちまった……。」


 その日から二年、天才と言われたリュウの実力は団の同期の中で四番目。

 変わらず日々鍛錬を続けている中で、どんどん周りに差をつけられていく。

 リュウにとって耐えがたい屈辱だった。


「なるほどなぁ。それで俺たちに稽古をつけてほしいって言ってきたわけか。まぁ、焦る気持ちはわかるな。下にいる奴に次々抜かれていく気分は決していいもんじゃねぇ。でもって、自分が燻ってる理由に心当たりがあるってんなら心穏やかじゃいられねぇよな。でもよ、それならあいつに直接言えばいいんじゃねぇか?本気を見せてくれって」


 ヴェインは確信を突いたつもりで指摘するが、


「どこまで本気になってくれるかわかんないじゃないですか。人に言われてやる本気なんてどこまでかわかったもんじゃないっすよ。それに、俺は他の奴らと差をつけたいんですよ。だから、体感したいんす。アキさんの本気を。だから本気を出させられない自分が情けなくて悔しくて……。」


 その一連の話を聞いて、ヴェインはなるほど、と感じる。

 それと同時に、抜け駆けしてでも高みを目指そうとするリュウの傲慢さに吹き出してしまった。

 そうして、再び部屋中に響く笑い声をひとしきり飛ばし切り、満足した表情を浮かべると、


「ハァ……だが、そうなると今度、お前の夢が一つ叶うことになるな」


 リュウは、そう言われて少し考え込んだ後、ハッと思い出す。


「あぁ、就任式の催しで、アキさんと新しい魔導士長で試合をするってやつの事っすか?」


「あぁ、この国の昔からのしきたりってやつだ。剣士団、魔導士団はそれぞれ五年周期で長を決め、その就任式の催しで試合をする。流石にあの大舞台で手を抜くことはしねぇだろ。」


 過去に就任式の試合で明らかに手を抜いたものは不敬罪として逮捕されたこともある。

 時代が流れ、かなり王族の考え方も丸くなったが、それでも手を抜けば何かしらのペナルティは避けられないだろう。


「でも、魔導士長の方は大丈夫なんすかぁ?よく知らないっすけど、アキさんが本気出す前にやられちゃうんじゃ……」


 リュウが茶化すように笑いながら言う。

 リュウとしては先ほどのように大きな笑い声と肯定の返事が返ってくる想定で伝えたが、ヴェインは軽く笑った後、


「いや、むしろ本気じゃないと死ぬぞ。アキでもな……」


 そう語るヴェインの表情には、いつもの明るさはかけらもなかった。


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