始まり
アキは馬を落ち着け、鞍を調節する。
「とりあえず……この国紋は外しとかないと不味いよな……。」
四人が乗ってきた馬はアザの国のもの。
当然、国の紋章が鞍に描かれている。
だが、これから二人は多くの国に行かなければならない。
どこまでこの馬が使えるかはわからないが、少なくともこの紋章は外しておかなければならない。
「……さて、あとやっとく必要があるのは--」
考えを巡らせたところで、背後に気配を感じる。
アキはフッと笑って後ろを向く。
「随分苦戦したみたいだな、ケイ。」
身体はボロボロ、剣を杖代わりにしてなんとかたどり着いた、といった様子のケイに、アキは笑顔で軽口を叩く。
「もう、その軽口の相手する元気も残ってない、よ。」
その言葉を最後に、ケイは糸が切れたように倒れ込む。
ベシャッと顔から勢いよく倒れ込んだ様子に流石にアキも心配して駆け寄る。
「お、おいおい、大丈夫か?ケイ。」
アキは急いでケイを起こす。
顔を見る限り、とりあえず命に関わる事はなさそうだが、体力は限界そうだ。
「……ったく、せっかく二人分馬を用意したってのに、これじゃあ乗れねぇじゃねぇか……。」
「君が分かりにくい雑なアドバイスを寄越したのが悪い……。」
こんな状態でも、相変わらずケイはケイだった。
「お?元気そうじゃん。分かりやすい云々以前に適当なアドバイス寄越した奴がよく言うぜ……。
そんなに元気なら、そのまま馬に乗ってもらえませんかねぇ。」
そう言ってアキは、支えているケイの方を見る。
「……………………。」
が、もうケイの意識は無かった。
息をしているのは感じるので生きているのは間違いない。
だが、揺らしても声をかけても目を覚ます気配はない。
本気で意識を失っているのか、狸寝入りなのかは判断はつかないが……
「……とりあえず、これ以上どうしようもない、かぁ……。」
さっきまでの様子で体力、気力ともに限界だったのは明らか。
流石のアキも、この状態のケイを無理やり叩き起こして馬に乗せようとは思わない。
「んじゃ、とりあえず一旦ケイを寝かしといて……荷物はもう既に準備してあるからヨシ……ケイの分の馬は……まぁ、一応貰っていっとくか。」
というわけで、ヴェインたちが乗ってきた四頭の馬のうち、二頭を連れて行くことが決まった。
アキは、乗っていく馬と、もう一頭を紐で繋ぐ。
「あの四人も、残り二頭いれば何とか城まで帰れるだろ。
ケイの戦闘はわからんが、少なくともヴェインには申し訳ないことをしちまった……無事、帰ってくれるといいが……。」
ヴェイン、そしてケイの戦闘で深手を負ったサロメは、命に関わる傷ではない(ヴェインはアキがそうなるように調節した)。
が、そうは言ってもあの傷での帰り道、どんな事故にあってもおかしくはない。
彼らに命を落として欲しいと思っている訳ではないので心配は尽きない。
そこまで考えて、アキは頭を振る。
そんなことを考えている余裕はないし、何より、その傷を負わせた張本人である自分たちがそのようなことを言う資格などない。
だからこそ、
「死ぬなよ、お前ら。」
誰に聞こえる訳でもない、そんな独り言を呟いて、ケイと共に馬に乗り込む。
出発。
その二文字が浮かんで、改めて自分の姿を見る。
城を出てすぐは整っていた服も、髪や顔もボロボロ。
背中にはもっとボロボロで、倒れているケイ。
盗んだ上、どこのものかわからないよう雑に偽装した馬。
「……まるで山賊、だな。」
自嘲気味に笑うと同時に思い出す。
子どもの頃、ケイと約束を交わした時も、こんなズタボロな格好だった。
「一周回って、あの頃に戻った、のかもな。」
改めて、あの日のことを思い返す。
思い返して、何だか少し、心がスッとする。
でも、今度は何だか恥ずかしくもなってきて、
ヒヒーーーーンッ!!!!
甲高い馬の嘶きと共に出発する。
朝までとは全く違う速度で、目まぐるしく変わる景色。
あっという間に見慣れない景色へと移り変わっていく。
「…………恥ずかしくなるようなこと言いやがって。」
「うわっ!!ケイ!起きてんなら起きてるって言え!!」
不意に背後から声が聞こえて思わず大声を出す。
その大声で驚いて、馬が暴れ出す。
「うおっ!!お、落ち着けぇ!!」
「まったく……馬に乗ってる間に大声を出すなよ。常識だろ?」
「お前もビビらせるようなことするんじゃねぇ……!」
面倒臭くて、ドタバタコンビなこの二人。
そんな二人の、純粋な夢を叶えるための旅が今、始まった。




