見習い剣士 その3
「痛っ……、っぅ……!」
大きめの岩を背にして座り込むケイ。
全身痛くて、這って動くしかなかった先ほどから比べれば大分回復した方だ。
だが、ケイも色々手を尽くしたとはいえ、あの近距離で大爆発の影響をまともに受けたのだ。
しばらくは立って歩くのがやっとというところだろう。
「て言っても、この短時間でここまで回復できるのも異常なんだけどね。さすが僕。
……なんて言ってる場合じゃあないね。
機動力を奪われた素人剣士、なんて笑える状況じゃない。」
ケイは冷静に敵の分析をする。
ヴァンはあの爆風を目の前で防いで見せた上、破裂猪を倒したところも見ている。
五体満足の状態な上にあの強さ、あまりにも厄介だ。
サロメは……油断はできないがむしろこちらが心配する側だろう。
自分と同じか、それ以上に近い位置であの爆風を受けていた。
サロメの実力を知っている身からすれば、命に関わるような事はないだろうと思えるが、一方でケイ自身もこの様。
この場は戦闘不能、くらいであればむしろありがたいがーー
「でも、相手の心配ができるほどの余裕は今の僕にはない。
せめて無事を祈ってるよ、サロメ。」
さて、そうなれば結局今一番問題なのはヴァンだ。
「どうしたものかな……。」
ヴァンの最大の武器はあの炎だ。
サイズ拡張の速度や炎の操り方の多彩さ、撃ち出す速度。
どれを取っても魔導師団最強。
仮に炎縛りでヴァンとケイが本気で戦ったとして、ケイには勝てるビジョンは浮かばない。
対するケイは手負いでまともに動けない。
加えて素人に毛が生えた程度の剣術が武器。
どう考えても、ケイに勝ち目などない。
「ーーでも、さっきのやり取りの中で、アキの言葉の意味は掴めた。
突破口は、生まれた。」
ケイは大きく溜息をつく。
正直、気持ちとしては”生まれてしまった”という感じだ。
このまま気付かず、潔く魔術での突破に切り替えれば楽だったろうに。
だが、気づいてしまった。
勝つビジョンが、ほんの少しだけでも浮かんでしまった。
「浮かんでしまった。
なら、やるしかないよねぇ……。」
正直凄く嫌だ。
顔にもそれが出てるし、身体も気怠い。
でも、
「ここで逃げたら、アキと来た意味ないもんね。」
そう呟いて笑う。
覚悟は決まった。
後は、やるだけだ。
「問題はヴァンにどうやって攻撃を喰らわせるか、だ。」
魔術をどうにかする方法はわかった。
だが、それはあくまで一発ならの話。
当然、ヴァンは大量の炎を操る術を持っている。
そう、正に今ケイが隠れている岩の真横を通り過ぎていった火の玉のように、小粒の炎を大量に撃ち出して攻撃してくるのだ。
「ーーん?……っ!ヤベッ!!!」
咄嗟に顔を手でガード。
と、ほぼ同時に炎が破裂。
辺りに火の粉が飛び散っていく。
(アツッ!!!アッチャ!!!クッソ……!!
ヴァンのやつ、もう……!!)
そう思って聞き耳を立てる。
と、同時。
「ケイィッ!!!どこだあぁぁ!!!この辺りにいることはわかっているぞぉ!!!」
耳に突き刺さる大声。
キーンと鼓膜に突き刺さる音に、思わず倒れ込みそうになるケイ。
だがまぁ、流石に今下手に物音を立てる訳にはいかないと、紙一重で何とか踏みとどまる。
(くそぅ…………タイミングが何もかも悪い……。)
昔からそうだ。
自分ではそんなつもりないのに、その場の雰囲気や流れに巻き込まれて、こういうドタバタした戦闘になることがままある。
何でこんな目に遭うんだ。
こんな状況でどう戦えばいいんだ。
こういう状況になる度に考えさせられた。
「わかっているだろう!?どの道長く隠れていることなど出来はしないぞ!!!」
ヴァンが叫ぶ。
その言葉の意味を、ケイはすぐに理解する。
先ほど破裂した火の玉。
そこから飛び散った火の粉が草木を燃やし始めている。
(これぞ、炙り出し……ってね。なんて、くだらない事考えてる場合ではないけど。)
軽く辺りを見渡せば、色々なところに火が回り始めている。
もちろん、ランダムにばら撒かれた火の粉であるため、火のないところはある。
が、そんなものは当然罠だ。
そこに向かって逃げれば、即座に炎を操作されて焼き尽くされる。
(どうするかな……。アキの手を使わせてもらっても良いんだけど……。)
アキがよく使う地面に潜る魔術。
あれを使えばこの場から逃げる事は難しくない。
だが、あの術には問題もある。
(潜っている間、何も見えないんだよね。
だから、魔力探知で相手の位置を探るしか場所を知る術はないんだけど……。)
当然、そんな事をすれば相手に探知している事を気付かれてしまう。
一時撤退する、という手もなくは無いが……
(今は流れが悪い。雑に出たところがさっきみたいに魔獣の棲家だったり、アキの戦闘に巻き込まれたり、あるいはサロメの目の前に出る、なんて事も容易に想像がつく。)
こんな状況を何度も経験してきたからこその予測。
と、なれば取れる手段はただ一つ。
(ここでヴァンを叩く……!!)
幸いにも、今目の前に広がる火は魔術の火。
これへの対抗手段はもうわかっている。
身体の傷は当然癒えてはいないが、覚悟さえ決まっていればどうとでもできる。
唯一にして最大の問題は、どうやってヴァンに一撃を与えられるほど近づくかだが……
(………………やりたくは無いけど、やるしかないか。)
これで、決まった。
じゃあ、行こうか。
大きく息を吸って、全身に力を入れる。
その肉体状態を魔力で固定。
痛みが消える訳ではないし、これが終わったら数日はまともに動けないだろう。
ケイはスッと立ち上がり、ふぅ……と一つ息を吐く。
手の感覚や足の動き、剣の重さを確認。
ひとまず、行けそうだ。
「…………よし、行くか。」
そう呟くと同時、地面を蹴って岩陰から飛び出す。
まず向かった先はすぐ真横に燃え盛っている炎。
試し切りとしてはちょうど良い。
(さっきのヴァンと破裂猪の戦闘中、ヴァンの火球が猪の牙に突き刺さっていた。
普通の魔術と物体の衝突であればあり得ない現象だ。
では、あの場面であった差とは?)
ヴァンの火球におかしなところは無かった。
そもそも、ヴァン側であんな事をする意味がない。
つまりは猪の牙に秘密があるという事。
破裂猪の牙にある特徴、と言えば、
(魔力!ヤツの牙には魔力が纏われていた。
すなわち、それが魔術を剣で斬る術!
“魔術を利用しろ”という言葉の意味!!)
ケイは魔力を剣へと流す。
そのまま、自身の魔力が剣に混ざらないよう、剣の周りへと纏わせていく。
(よし、できた!!)
この程度の操作、ケイには造作もない。
すぐに準備完了。
その勢いのまま、ケイは炎に向けて剣を一気に振り抜く。
炎は綺麗に真っ二つに分かれる。
が、本番はここから。
魔術で操作された炎は二つに斬られても魔力がくっついて元の形に戻る。
「……………………無事、成功。」
炎は二つに分かれたまま、やがて形を保っていられなくなり消え去った。
ケイはゆっくりとヴァンの方を向く。
「……行くぞ、ヴァン。」
「ケイィィィィィィィ!!!!!」
その掛け合いと共に、戦いの火蓋が切って落とされた。




