熟練剣士ペア VS 見習い魔導士 その3
「ぐああぁぁぁああ!!!」
叫び声。
血の匂い。
そして、ヴェインから力が抜けていく。
リュウは咄嗟にヴェインを受け止めると、
「ヴェインさん!ヴェインさん!!大丈夫ですか!?」
と、声をかける。
返事はない。
「クソッ……!!」
リュウは急いでヴェインを寝かせ、傷を確認しようとする、が。
チュンッ!!!
と、”何か”が頬を掠めていく。
リュウはすぐにヴェインごと身体を伏せる。
それと同時に先ほどまで自分たちが立っていたあたりをニ、三何かが通り過ぎていく。
ここで、ようやくリュウは事態を正確に把握する。
誰か、あるいは何かから狙撃されているのだ。
そのまましばらく様子を見て、追撃がない事を確認してから少し頭を上げてヴェインの容態を見る。
見える範囲では、鎧に穴が三つ。
今も血が流れている。
呼吸は荒いが確認はできるので、すぐに死に至ることはないだろう。
もちろん、急がなければいけないのは当然だが。
クソッ、一体敵は何者だ?
「単純に考えればアキさんだけど……。考えたくはないな。」
可能性としては他にもある。
物体を射出する攻撃を行う魔獣や植物は、この世界では普通に存在する。
また、可能性だけの話をすれば、この戦いに全く関係のない第三者が何らかの理由で攻撃してきていることも考えられる。
「いや、今のこの状況で考えるべきは本当にそれか……!?」
任務の達成。
ヴェインの治療。
現状の打開。
敵の把握。
考えることが多すぎる。
これを、経験の浅い者だけで考えなくてはならない、というのはあまりにも無謀だ。
加えて、そもそもリュウは考えることが得意ではない。
「どうする……!?どうすれば良い……!?何を考えれば良い!?いや、そもそも俺が考えたって……。」
焦り。
不安。
恐怖。
考えてはいけないと、頭ではわかっていることが、ぐるぐると頭の中で回る。
何をしたら良いのか。
何をするのが正解なのか。
答えが欲しい。
指針が欲しい。
「はぁっ……!はっ……!はっ……!」
呼吸が乱れる。
思考がまとまらない。
疲れを感じるほど動いていないのに、身体が重い。
いつの間にか、リュウからは滝のような汗が流れていた。
姿勢は伏せた時のまま全く動けない。
そんな状態がしばらく続けば、リュウの頭から徐々に思考が失われていく。
もう、良いのではないか。
色々持ち上げられて自分でも調子に乗っていたが、所詮は経験の浅いガキ。
指示役がいなければこんなものだ。
いっそこのまま動かずにいれば、動けるようになる頃には、全て終わっているだろうかーー
「……リュウ!!!何諦めてんだ!!ヴェインが倒れた今、お前が立ち上がらなくてどうする!!」
突如、響く声。
リュウは思わず周囲を見回す。
それは、とても聞きなじみのある声。
今、リュウが最も必要としたい人物の声。
「……アキさん?一体どこに……?幻聴、か……?」
冷静に考えれば、アキにとって今リュウは敵なのだ。
ヴェインを攻撃した相手がアキではない、未知の敵勢力だったとして、アキにリュウを支援する必要などない。
「幻聴じゃない!!まったく……俺だって思うさ、なんで今は敵のお前に塩を送るような真似するのかって。
でもな、考えが変わっちまっても、俺はまだお前の上司気分が抜けないらしい。
この状況を抜けるまでは手伝ってやる。
もちろん、自分で何とかできるって言うならそれはお前を尊重するけどな?」
リュウは涙が溢れる。
もちろん、悔しさや情けなさはある。
だが、それ以上に感じる温かさ。
安心感。
力強く、それでいて強引ではない。
手厳しい言葉をたくさんもらうが、それ以上の優しさをくれる。
誰よりも、頼れる男。
「お゛ねがい゛じまず……!だずげでぐだざい゛ぃ……!!」
涙でベシャベシャになった顔で、必死に頼み込む。
プライドなどこの状況で何の価値もない。
とにかく、まだ死にたくない。
死なせたく、ない。
「……よし、わかった。」
顔は見えず、声だけが聞こえている状態。
にも関わらず、リュウは何だかアキが笑ったように感じた。




