熟練剣士ペア VS 見習い魔導士 その2
「あの、ヴェインさん。」
森の中でアキを探す最中、リュウがヴェインに声をかける。
ヴェインは周囲の気配に気を配りつつ、目だけをリュウに向け、話をするよう促す。
「結局、アキさんは何がしたいんですか?」
思わぬ方向からの質問に、思わずズッコケるヴェイン。
「お前……あれだけ戦っておいて、何も分かってなかったのか?」
呆れたように問うヴェインに、リュウは頭を掻いて笑いながら、「すみません……。」と呟く。
頭が少し足りない奴だとわかってはいたが、まさかここまでとは……。
そう思って頭を抱えるヴェインだが、よくよく思い返せば確かに先ほど混乱しきっていたのを見てから一度もリュウと現状確認をしていない。
「……ふむ、俺にも落ち度はある、か。」
ヴェインはそう呟くと、剣を抜いた。
それから辺りを見渡すと、隣り合った二本の木をポンッと叩く。
「うむ、コイツがいい。」
そう言うとヴェインは剣を思い切り振りかぶる。
そして、
「ふんっ!!!」
と一気に剣を振り抜く。
一瞬のうちに、二本の木は綺麗な切り株となる。
が、それだけでは終わらない。
ヴェインはそのまま剣を自身を中心に一回転分振り抜く。
ブァァァ!!
と、激しく巻き起こる風。
その風は周囲の砂を巻き上げ、ヴェインの姿を隠していく。
その状態が数分続き、その後風が止むとそこには綺麗に草木が刈られたスペースと、その中心にある二つの切り株の片方にどかっと座るヴェインの姿があった。
ヴェインは、事前に遠く離れていたリュウの方に顔を向けると、
「こっち来て座れぃ!腰を据えてゆっくり教えてやる!」
と、叫んでリュウを呼ぶ。
リュウは近づいていきつつも、少し困惑した顔をヴェインに向ける。
「俺のせいとはいえ、こんなに派手なことして大丈夫なんすか……?確実にアキさんに場所がバレたろうし、不意打ちとかされたら……。」
そう言って不安そうに周囲を見回すリュウ。
だが、ヴェインは派手に笑って、
「ハッハッハ!!!普通の戦場なら絶対にしないが、相手がアキなら別よ。後輩の指導をしようってのにそれに水を差すような事をするような奴じゃない。
たとえ、立場が変わったとしてもな!」
そう言って、改めてリュウを席へと促す。
リュウはそんなヴェインの姿勢に安心したのか、笑みを浮かべて席につく。
と、同時。
「ーーまぁ、万が一そこまで落ちぶれたってことがありゃあ、俺も対応を変えるだけよ。」
そう呟くと、先ほどまで豪快な笑みを浮かべていたヴェインの表情が一気に冷たくなる。
これまで見た事がないほどのその冷たい表情に、リュウは寒気を覚える。
それと、同時に覚える高揚。
(この人を尊敬して良かった……!)
一振りで竜巻を起こす剣技。
どんな困難も笑い飛ばす豪胆さ。
そして、この圧倒的な威圧感。
もちろん比べてしまうと、実力や歳の近さからアキの方が憧れる気持ちは強いが、それでも間違いなくヴェインもまた尊敬するべき人間だ。
「……おっと、今はお前の相手をしないとな。」
ヴェインはサッといつもの柔和な表情に戻す。
そして、両手を合わせてパンッと手を叩くと、
「さぁ!聞こうか?何がわからん?」
そう言って、ヴェインはニッと笑顔を向ける。
リュウは少し考えるそぶりを見せたのち、こちらもニッと笑って、
「わかりません!」
と、元気一杯に答えた。
ヴェイン、本日二度目のズッコケ。
その様子を見て、流石のリュウも申し訳なさそうに笑う。
「すいません。でも何がわからないのかわかんなくなっちゃって……。」
ヴェインは一つ溜息をつくが、それでも今度は笑顔のままに、優しい口調で続ける。
「ふむ……、じゃあ逆を聞こう。
何を理解してる?
今回の任務の目的は理解できているか?」
「さ、流石にそれは大丈夫っす!アキさんとケイさんを説得して国に連れ帰る事。説得が叶わない場合は実力行使ででもとにかく国に連れ帰る事、です、よね……?」
あまりに初歩的すぎて流石のリュウも焦りを見せる。
これが答えられなければ剣士団の人間として一からやり直さなくてはならないレベルだ。
ヴェインも表情にこそ出してはいないが、内心ビクビクしていた。
「ふむ、流石にこれは問題ない、か。
だとすれば……アキの考えがわからんか?」
ヴェインはしっかりとリュウの顔を見据える。
リュウは明らかに目を泳がせ、しばらくの間「え、っと……」とか「んー……」とか考え込んでいたが、結局諦めたようで脱力し、
「わかりません……。」
と答えた。
「なるほどな。
まぁ、わからんでもない。
アイツの考え方はこの世界では異端だからな。
普通は考え付かん。」
「この世界での異端……?」
ヴェインはコクリと頷くと、一呼吸置く。
そして、
「アキはな、剣士を辞めて魔導士になろうとしてるんだ。」
誰にでもわかるように、直球の言葉でアキの目的を告げた。
「……は?え、?……んん?」
リュウは混乱する。
だが、当然だ。
これがこの世界での正常な反応なのだ。
「いや……だって、確かにガキの頃は色々やりましたけど……。
周りの奴ら含めて皆、自分が得意だった職に選ばれてた……。
そもそも、俺みたいな頭の悪い奴は職に好き嫌いとかなかったし、賢い奴の中には確かに職に不満を持ってそうな奴も中には居ましたけど……。
でも、一週間もすれば楽しそうに仕事してた。
俺だって別の職になりたいと思った事ないし、なりたいって言ってる奴を見たこともない。
ましてや、剣士長になろうって人がまさか、そんな……。」
動揺が隠せないリュウ。
無理もない。
状況が把握できていなかった彼にとって、今この瞬間が自分の最大の憧れが崩れた時なのだから。
だが。
リュウは耳元でパンッと鳴った破裂音?と両肩への痛みでハッとする。
前を向けば、真剣なヴェインの表情とリュウの両肩に伸びるヴェインの腕。
「目が覚めたか?」
それは、どっちの意味だろうか。
リュウは生まれて初めて余計な事を考える。
これまで一度も、言葉の意味を深く考えたことなど無かったのに。
リュウは何だか自分が大人に近づいたような気がして、フッと力が抜ける。
そうしてゆっくりとヴェインを見つめて、
「大丈夫っす。もう、大丈夫っす。」
そう、答える。
何だか少しだけ変わったその顔つきに、ヴェインも成長を感じて大きく頷く。
「よし、それじゃあ俺たちの今の目的もわかったな?」
リュウは今度こそしっかりと頷く。
「アキさんに勝って、国に連れ戻すこと。
そして、夢を諦めさせること、っすね?」
その答えに、ヴェインはニッコリと笑って頷く。
「よしよし!しっかりと現状の把握ができたな?
うん、うん!良い成長だ!」
そう声高らかに叫ぶと、ヴェインは勢いよく立ち上がり、
「さぁ!リュウ!任務を果たしに行くぞ!!」
そう言ってリュウに手を差し出す。
リュウもその宣言に力強く頷くと、その手をしっかりと掴んで立ち上がる。
(アキさん、俺もーー)
そして、リュウもまた、気持ち新たに思いを宣言しようと息を吸う。
その時だった。
「リュウ!!!伏せろ!!!」
そう叫ぶ声が聞こえたと同時、リュウの視界はヴェインの身体で完全に塞がれる。
状況判断をする間もなく動いていく状況。
そんなリュウにかろうじて入ってくる情報は、
「ぐああぁぁぁああ!!!!」
というかつてないほど激しいヴェインの叫び声と、かすかに感じる血の匂いだけだった。




