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夢の旅  作者: 秋川 味鳥
旅の始まり
33/52

見習い剣士 その2

 ヴァンとサロメは完全にケイを見失っていた。


「クソ……魔術使ってこないからと思っていたが……、結局ケイはケイだな……。

 魔導士として、気配の消し方が上手すぎる。

 こりゃあこっちから探し出すのは骨が折れるぞ……。」


 ヴァンはそんな風にボヤキながらも魔力を伸ばして懸命に探知を続ける。

 一方、サロメはというと、


「………………。」


 戦闘を開始してからずっとこの調子だ。

 下を向いて黙ったまま。

 かといって、戦闘で精彩を欠いているわけではない。

 先ほど一瞬ケイとぶつかった際にも、逃げられたとはいえサロメの戦闘内容に落ち度はなかった。

 魔力探知もこう見えてきちんとヴァンがカバーしきれない部分を補っている。

 そのため、問題はないと言えばないのだが……。


「……サロメ。お前の気持ちはわかる。

 自分が信じていた人が、あんな無茶苦茶なことを言い出したらショックだろう。

 俺だって、それなりに奴のことを信用していたし、認めていたから驚いているくらいだ。

 お前の衝撃はそれ以上だろう。

 だがな、俺たちはまだ終わってない。

 アイツをひっぱたいて無理やりにでも連れ戻して、そうしたらまたみんなで一緒に――」


 ヴァンはそこで思わず言葉が止まる。

 ヴァンが見たのはサロメの顔。

 恐ろしいまでの闇を感じる顔。

 思わず背筋がゾッとするようなその表情に、ヴァンも完全に動きが止まる。

 が、ほんの少し経つとその表情は消え、


「……そう、ですね。

 絶対、また一緒になりましょう。」


 そう言ってサロメはヴァンに笑いかける。

 だが、そのサロメの目は、ヴァンのことを一切見てはいなかった。

 ヴァンは、何か恐ろしいものを感じ、何とか軌道修正をしようとさらに話そうとする、がその時、


 ドォォォォン‼


 激しい爆発音。

 ケイの策略を疑い、二人はすぐに先頭態勢に入る。

 が、ヴァンはすぐに気づく。


「サロメ!違う、これはーーッ!!」


 ヴァンがそう叫ぶとほぼ同時、草むらから何かが勢いよく飛び出してくる。


「ーーケイ!?」


「あぁクソッ!最悪だ……!」


 ヴァンは急な状況に対応できず、動けない。

 その隙にケイは、二人には目もくれず間をすり抜けようとする。

 が、


「そううまくはいかないよな……。」


 そう呟くケイの動きが止まる。

 その足元を見ると、土が絡み付いている。

 土は今も動き続けており、足からどんどんと上に登ってきている。

 ケイは剣を取り出すと、土に向かって突き立てようとする。

 だが、


「甘いです。」


 瞬時に周りの地面が一斉にケイに向かって取り付いていく。

 当然ケイも何とか対応しようと試みるが、魔術の使えないケイではこの速度に対抗できない。

 抵抗虚しく、あっという間に土の像が出来上がることとなった。

 さらに、それだけでは終わらない。

 サロメは知っている。

 ケイという男は、この程度で諦めて大人しく運ばれるような事はないと。

 サロメは懐から杖を取り出すと、思い切り振りかぶる。

 魔導士にとって、生物以外の物体は全て起爆物。

 杖は魔導士にとっての相棒であり、普段から持ち歩く近距離用武器でもある。

 サロメはそのまま杖を思い切り振り下ろす。

 ケイは当然動かない。


(こんな……簡単に…………。)


 一瞬、ほんの一瞬だけ表情を歪めるサロメ。

 だが、すぐに力を入れ直す。

 もう一度あの日々を取り戻すために。

 もう一度ーー


「ダメだ!サロメ!!離れろォ!!!」


 その声にハッとするサロメだが、もう遅かった。


 ブオォォォォ!!!!


 いつの間にか狭くなっていた視界の端に、突如巨大な猪が現れる。


「くっ……!」


 サロメはすぐに杖を起爆させる。

 サロメの華奢な身体は、その爆風によって吹っ飛び、猪の進行方向から外れることに成功する。

 だが、猪の進行方向は当然ケイ。

 猪は目の前で動いたサロメのことなど目もくれず、真っ直ぐ土の像と化したケイに向かっていき、衝突。


 そして、爆発。


 ドオオォォォォォォォォン!!!!


 という激しい爆発音と共に周囲一体が吹き飛ばされる。


「グッ…………!!」


 ヴァンだけは経験と状況判断によりすぐに風を操作して壁を作ることに成功するが、


「キャーーッ!!」


「ーーーー!!」


 直撃こそ避けたものの近くにいたサロメ。

 そして、土の像として直撃を受けたケイがこれを防ぐ術などあるはずもない。

 二人はそれぞれなす術もなく吹き飛ばされていく。


「ーーあぁ、運がいいな。」


 ヴァンの背後から突然聞こえる声。

 未だ続く爆風から身を守るために必死に壁を維持しながら、何とか後ろを振り向く。


「ーーケイ……!?」


 そこにいたのはケイだった。

 運がいい、という発言から考えるに、爆風で吹き飛ばされた先がここだったということだろうか。

 確かにこの位置ならばヴァンのおかげで爆風の影響を全く受けない。

 そして、それ以上に――


(完全に背後を取られている……!この爆風が終わったら……!)


 瞬時に後ろから攻撃されるだろう。

 そして、この距離では流石にどう反応しようもない。

 ヴァンは今、この爆風を防ぐのに手一杯でそれ以上のことが出来ない。

 何の準備もなく、至近距離で剣士を相手にする。

 その状況では、相手がどれほど素人であろうと魔導士に勝ち目はない。

 ヴァンはせめて少しでも状況を好転させようと様々思考を巡らせつつケイの出方を窺う。

 が、ここで気付く。


「……まさかお前……動けないのか?」


 ケイは先ほどから寝転んだ姿勢のまま全く動いていない。

 いくら近距離では剣の方が速いとはいえ、構えていないどころか立ってすらいない今のケイの状態ではどうとでもなる。


(冷静に考えれば、猪の突進をもろに受け、さらにその爆発を受けた状態で今そこに転がっているということだ。

 土の壁の分、多少流せたダメージはあるだろうが、もし魔術等をほとんど使わず受けたとすれば……それはまともに動ける状態ではない……、だが……。)


 そんな隙を見せるのか。

 あの、ケイが。

 これまでのケイの実績が、見せつけられてきた活躍が、ヴァンの頭の中で警鐘を鳴らし続ける。

 そうしているうちに、爆風が治まってくる。

 少し余裕が出てきて、ヴァンは様々探りを入れる。

 周囲への魔力の有無。

 剣の位置。

 ケイの身体状態。

 できうる限りの情報を調べていく。


(……何もない。周囲に罠はなく、剣も腰に仕舞われたまま。身体はもちろん、魔術もピクリとも動いていない。これは……。)


 ヴァンは壁を解除してケイの方へ歩く。

 そのまま歩いていき、目の前に立ってケイを見下ろす。

 ケイは動かない。

 ヴァンは少しの間黙って見下ろした後、ケイの腹部を踏みつける。


「グアアアァッ…………!!」


 ケイは苦しそうに呻き声が響く。

 ヴァンは、これまで見たことのないほど余裕のないケイの姿にニヤリと笑みを浮かべる。


「運が良かったのはさっきまでだったようだな、ケイ。

 まぁ、運というのは良いことがあった後は大抵悪いことがあるものだ。

 観念しろ。」


「…………。」


 ケイは答えない。

 ただ、その目はまだ死んでいない。

 そんな目に、ヴァンもまた表情を変え、強い真っすぐな目で返す。


「もうまともに動けないのはわかってる。

 策も立てられないほどなんだろう?

 サロメも、少なくとも死んではいないだろう。

 三人で帰ろう。

 今ならまだ、戻れる。

 我らが王なら、お前も納得できる生き方を探してくれるはずだ。

 ここで命を散らしてどうする……!

 アキ殿だけじゃなく、俺たちのことを、サロメのことをもっとよく見てやってくれ……!!」


 そんなヴァンの訴えに、ケイは驚いた表情を見せる。

 王への忠誠だけで動いていた印象を持っていたこの男が、後輩や自分にここまでの想いを見せるとは。

 ケイは、苦しそうな顔をしつつ、柔らかい笑顔をヴァンに見せる。

 その顔に、ヴァンはパッと喜びの顔を向ける。

 が、


「大丈夫、だ。

 お前たちなら。

 僕は、この生き方じゃなければ納得できない。

 死ぬなら、この生き方の中がいいと思うほどに。

 だから、サロメも、皆も、お前が見てやってくれ。

 それできっと、大丈夫だ。」


 そう言って、満足そうに笑うケイ。


「……ふざ、けるなぁ!」


 ヴァンは完全にブチギレ、再度ケイを踏みつける。


(何を勘違いしているのか知らんがそうではない、そうではないのだ、サロメは……!!)


 ヴァンはもういい、と言わんばかりにケイに掴みかかる。

 そして、そのままケイを持ち上げ、首を締め上げる。


「このまま気絶させて連れ帰る、それで終わりだ!」


 ケイは当然抵抗を見せるが、力が入っていない。

 罠がないのは確認済み。

 これで、終わり。

 そのはずなのに、それでもなお、ケイはニッと笑って見せた。


「……へへっ。

 一個訂正。

 やっぱり今日の僕は運がいい。」


 その発言で、ハッとする。

 ケイの視線の方向。

 そうだ、さっきの爆発の元。

 破裂猪は、今どうしているのか。


 ブオォォォォ!!!!


 すぐ後ろから、猪の声が響いてくる。

 ヴァンはすぐにケイを投げ捨て、背後を向く。

 その距離およそ十メートル。

 先ほどのサロメよりはマシとはいえ、かなり近い。

 ヴァンは懐からマッチを取り出して着火。

 そしてサイズ変化。

 周囲の木々を丸ごと飲み込めるほどの火球を作り出す。

 猪と比較しても、軽く一回りはデカい火球を、そのまま思い切り猪に向けて投げる。

 普通の獣であれば、当然これを受けて生き残ることなどできはしない。

 だが、それは普通の獣であればの話。

 破裂猪はその火球を見ると、全身を真っ赤に光らせ、火球へと勢いよく突っ込んでいく。

 そのまま衝突。

 インパクトの瞬間、猪の牙によって火球がぐにゃりと曲がる。

 そうして火球に牙が突き刺さった状態でしばらく走った後、火球が形を保ち切れずに霧散する。

 ヴァンは憎らしそうに舌打ちをする。

 が、それは彼にとって計算内。


「ハァ……何とか、これで終わりだ。」


 そう呟くと、腕を組んでそのまま棒立ちする。

 当然、猪はそのまま突っ込んでくる、が。

 突然、猪の動きが鈍る。

 猪は必死に身体を動かしているが、全く進まない。

 更に、よく見れば猪の身体が徐々に沈んでいく。


「破裂猪の弱点は、足に毛が生えていないことだ。だから、足だけに枷をつけられたら逃げる方法がない。

 そして、所詮は獣の知恵。

 目の前にわかりやすい攻撃を見せた上で、足下に沼でも作ってやれば簡単にかかってくれる。」


 ヴァンは足がある程度沈み込んだのを確認して地面を固く変化させる。

 毛が一本でも地面に付けば、爆発を利用して抜けられてしまう。


「うん、流石私。完璧だな。」


 ヴァンは満足そうに自分の仕事を見届ける。

 そして、


「さて、どうしてやるかな、ケイ――」


 と、ケイを先ほど放り投げた方向を見る。

 が、当然というべきか、もう既にケイの姿は無くなっていた。

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