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夢の旅  作者: 秋川 味鳥
旅の始まり
32/52

見習い剣士 その1

 一方のケイも、魔導士二人からなんとか逃げ切っていた。

 今は偶然見つけた洞窟に身を隠している。


「はぁ、はぁ……。何とか逃げ切れた……けど。」


 ケイはそこで一呼吸置く、と、


「魔術多い!!

 魔術切れない!!

 てかそもそも剣が重い!!

 はぁぁぁぁ……十分覚悟してきたつもりだったんだがなぁ。」


 ケイも熟練の魔導士である以上、魔術がどういうものかというのは十分理解しているし、対応方法も知っている。

 だが、それは当然こちらも魔術が使える状態での話。

 魔術が使えなければ何もできない、という状態は流石に問題があるため、多少は魔術なしでの魔術対策もあるが、それはあくまで一時しのぎ。

 魔術なしで相手に勝つことまでは想定されていない。

 その上、一国の魔導士団で副団長を務める男の魔術となれば、未熟な剣士が対応できるわけがない。

 そして、今のケイは十年間毎日一時間だけ剣を振り続けていただけの人間。

 剣士と呼んで良いかも怪しい人間だ。

 急に実践で剣を振り回そうと思っても、練習と感じる重さも、何もかも違うのは当然だ。


「せめて、魔術の切り方だけでも分かれば……。」


 普通であれば、そもそも魔術を剣で切ることが出来るのか、という疑問が出るところだが、これに関してはケイは自信を持って出来る、と言える。

 というのも、実際自分の魔術を切られたことがあるためだ。


「そこを重点的に聞いておくべきだったな……。

 アキとかがあまりに当然のように切るから、普通に振りぬけば切れるものだと思ってしまった……。

 っていうか!!そこを教えてくれよアキ!!」


 会敵直前、アキから聞いたアドバイスを思い出し、ケイは憤慨する。


「“魔術を利用しろ”って!誘っておいて今はまだ無理だから諦めろってこと!?

 あんのクソ野郎!このまま寝返ってやろうか!?」


 ハァハァと息を切らしながら、思いの丈を一息に吐き出す。

 ケイは、大きく深呼吸をして息を整えると、今度は冷静に、真剣に思考を巡らせる。


(四人が近づいてきたことに焦ってからずっと、全く冷静に慣れていない……。

 落ち着け、冷静に考えろ。

 あのアキが、一時的な話とはいえ人の夢を簡単に諦めろと言うとは思えない。)


 落ち着いて、もう一度考える。

 ヴァンとサロメから無事に逃げ出す方法。

 魔術を切る方法。

 アキの言葉の意味。

 先ほどまでの思考を一度全て否定し、多角的に考えていく。


「二人から逃げ切るためには、兎にも角にも魔術を何とかしなければならない。

 僕自身が魔術を使うのであれば、二人から逃げることは大して難しいことじゃない、が、剣で戦ったら死ぬからと魔術に逃げる程度の覚悟でここにはいない。

 なら、どうするか。

 剣で魔術に対抗するしかない。

 そのために必要なのは、剣で魔術を切る技術。

 あの状況で冷静だったアキなら、そこまで考えてくれているだろうと仮定する。

 だとしたら、“魔術を利用しろ”は魔術を切るためのヒントの可能性が……?

 だがどうやって……

――ッ!!」


 魔力探知に反応。

 流石に敵の接近に気付くのに必要と割り切って使用していた魔力探知だったが、どうやら役に立ったようだ。

 だが、


「反応先が洞窟の中……!?」


 偶々見つけた洞窟。

 ケイも知らなかったものであるため、内側から敵が来ることはないと思ってしまっていた。

 そういった油断を心の中で反省しつつ、急いで剣を構えて戦闘態勢に入る。

 まだ考えが纏まっていないというのに……!

 などと苦い顔をしながらも、とにかくこの状況を切り抜けようと思考を巡らせる、が。


「…………?」


 本当にあの二人か?

 魔力探知で分かることは、自身の魔力を探知する対象が多く摂取してくれなければそこまで多くない。

 分かりやすく言えば、相手が近くに来てくれなければ詳細な情報はわからない、ということだ。

 ケイが感じ取ったのは、魔力探知範囲の端に大きな生物、人間で言うと大体二人分ほどのサイズの生物が触れたため、二人が居ってきたのだと思った。

 しかし、


「……おかしい。

 こちらに向かってこないのもそうだけど、そもそもその場から全く動こうとしていない。」


 相手が熟練の魔導士である場合、魔力探知に引っかかったことは基本的には気付く。

 そうなった際の行動は大体二パターン。

 急いでその場から離れるか、そのまま突っ込んで攻撃してくるか。

 だが、今範囲内にいるその生物(達?)はその場から一向に動こうとしない。


「これは……、ッ……!!」


 そう思っていると、突如ソイツが動き出した。

 動いている方向はケイに向かって真っすぐ。

 しかもとてつもなく速い。


「……これは、マズい!!」


 ケイは洞窟の入り口を目指して走り出す。

 奥にいたのはヴァンとサロメではない。

 明らかにサイズがデカいし、そもそも一体だ。

 そうであればむしろ、脇目も振らずに洞窟を飛び出していくのは危険である。

 が、ケイの予想が正しければそれどころではない。

 ケイは勢いよく洞窟を飛び出す。

 それと同時に、


 ドンッ!!バァン!!!


 と激しい爆発音が洞窟から鳴り響く。


「クソッ!!嫌な予想はこうやってよく当たるんだから……!!」


 文句を言いながらも足は止めない。

 とにかく早くこの場から離れなければ……。

 と、


 ドンッ!ゴゴゴゴゴ……!!!


 ケイの背後から先ほどの洞窟が崩れる音が聞こえる。

 ガラガラと轟音を響かせながら、崩れ行く、その瞬間。

 巨大な生物が洞窟から飛び出してくる。


「ブオォォォォォォォオオオ!!!!」


 逆立つ毛。

 巨大で鋭い牙。


「……ッ!破裂猪……!!」


 走りながら背後を少し確認する。

 デカい。

 一般的なサイズの破裂猪を見たことがあるが、軽くその倍はありそうな体格だ。

 魔術を使うとしても、一人では流石に骨が折れそうな体躯。

 剣士見習いに太刀打ちできる獲物ではない。

 とはいえ、目を付けられさえしなければ問題はない。

 このまま全力でこの場を離れて、あわよくばあの二人にダメージを負わせたりしてくれれば……。

 そんな甘い考えを鼻で笑うかの如く、


「ブオォォ!!」


 と、短く鼻を鳴らすと、猪は物凄い勢いでケイに向かって一直線に走り出す。


「……なんで……?」


 よく見ればこの猪、かなりブチギレているように見える。

 生き物が怒る理由として定番なのは、攻撃された、縄張りに入られた、食事を邪魔されたなどが考えられる。

 ケイはあくまで魔力探知で見つけただけなので、この状況では想像することしかできないが、魔力に敏感な破裂猪だ。

 ケイの方に向かってくる前にしばらくその場から動かなかったことから、食事中にケイの魔力に触れられ、気が散って仕方がなかった中でケイがいつまでも魔力探知をし続けていた、それが原因ではないかと考えられる。

 だが、逃げ続けているケイに、そのようなことを冷静に考えている余裕は当然ない。


「こういう不幸な役回りって……僕のキャラじゃないのにーぃ!!!!」


 そんな泣き言を言いつつ、ケイはひたすらに逃げ回るのだった……。


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