熟練剣士ペア VS 見習い魔導士 その1
「はぁ……はぁ……。
やっぱり、キツイな……。」
森の中、一本の木を背にして、茂みの中に隠れるアキ。
開戦直後、ケイに目配せし、同時に地面を攻撃して土埃を起こし、そのまま相手を誘導。
二対一の状況に持ち込めたまでは良かったが……。
「魔導士見習いが歴戦の剣士相手にして楽なわけはないわな……。
わかってはいたんだが……クソっまだまだ考えが甘いな、俺は……!」
アキはわき腹を抑える。
抑えている箇所には血がにじんでいる。
この傷をつけたのはリュウだ。
油断をしていたつもりはない。
……いや、その考えこそが油断だったのかもしれない。
森の中であれば障害物が多いから戦いやすいだろうと、そちらに誘い出すために姿を見せたその一瞬を狙われた。
それ自体は予測していたし、剣であれば確実に対応できる攻撃だった。
「……魔術でも対応できる、つもりだったんだけどなぁ……。」
いざ剣を前にすると、全く対応が間に合わない。
土壁、氷塊、受ける方法はいくつも浮かぶが、思考して実行する間に刃はすでに腹部に当たっていた。
「入り込まれたら終わり、だな……。
さて、どうしたものか……。」
アキは先ほど四人と出会う前に、ケイとした会話を思い出す。
――
「アキ、確認しておくよ。
これから戦闘が起こるわけだけど、この戦闘における僕たちの目的は何?」
馬の足音がどんどん近づいてくる中、茂みに隠れながらケイがアキに問う。
アキは一瞬考えた後、
「……無事に逃げ切ること、だな。
理想は奴らの馬を奪いたい。」
そう答える。
アキの回答に、ケイもこくりと頷く。
「うん、問題ないね。
足音からして恐らく追手は四人。
普通に考えるなら、それぞれの団から二人ずつだろう。
そこでまず、二手に分かれる。
どっちを相手にするにしても、今の僕たちの練度では苦戦は必至。
だったらまだ、良く知っている相手と戦り合った方がいい。
そして、今回の戦闘は勝利することが目的ではない。
隙を見て逃げること、僕たちの追跡手段を失くすこと、この二点が最優先事項だ。」
ケイは淡々と作戦を伝える。
アキも異論はない。
即座に頷いて作戦に同意する。
ケイも、それを確認して頷き返す。
そして、
「さて、それじゃあお互いにアドバイスを送り合うとしようか。」
「……え?」
アキはポカンとしてケイの顔を見る。
一方のケイも、何か?といった表情でアキを見ている。
「いや、旅の出発前に言ってただろ?お互いがお互いの先生になるって。
急展開ではあるけど、今まさに一言アドバイスでも欲しいタイミングじゃないか。
何かアドバイスくれよ、魔導士対策。」
アキは困った表情で考え込む。
ケイの意見は理解できる。
確かにお互い教え合おうという話をしたのは自分だし、この状況、自分もアドバイスが欲しいところではある。
とはいえ、
「う、うーん……。
悪ぃ!
この状況でパッと出てくるアドバイスが無ぇ!
先にお前からアドバイスくれないか?
その間に考えるからさ!」
そう言ってアキは笑顔でケイに話を返す。
……が、ケイもそのまま黙り込んでしまう。
「……まさか、お前も?」
アキが問うがケイは黙ったままだ。
何だか随分デカい態度をしていたので自分はきちんと考えているものだと思っていたが……。
そう思ったアキは何か一言言ってやろうとする――が、
ガガッ!ガッ‼
「……クソッ‼もうすぐそこまで来てるっ……‼」
迫る馬の足音に、二人とも焦って余計に頭が回らない。
(自信あるように見せたくてデカい態度をとってしまった手前、何とかひねり出したいのに……焦って何も考えがまとまらない……!)
すっかり目を回してしまったケイ。
このままでは何もなく戦闘に入ることになってしまう。
昨夜魔術でケイとバチバチに戦り合ったアキはともかく、ケイは剣での実践が幼少期以来の状態。
このままでは流石にマズい。
最悪の想像をして逆にその状態での勝ち方を考え始めていたケイだった、が。
アキがガッと両肩を掴む。
そして、
「一言だ。
相手に言いたいことでもアドバイスでもなんでもいい、今から十秒後にお互い一斉に言い合おう!
その言葉をどう受け取るかは戦いの中で考える!
どうだ?」
ケイは一瞬呆気に取られるが、すぐに頭を切り替えて頷く。
それと同時にケイは再びアキへの一言に頭を巡らせる。
アキもまた、指で秒数のカウントをしながら目を閉じ、思考を巡らせる。
あっという間に過ぎる十秒。
お互い何を考えたのかはわからない。
それでも、お互いがお互いを信じて。
「いっせーの!」
アキの合図で言葉を伝える――
「――で、伝えられた言葉が“感じろ”、ねぇ。
アイツ相当テンパってたし、あんま参考にできねぇか……?」
それでも、考えてみる価値はある。
一時的にでも相手の視界から逃れられている今、何か策を考えていかなければそのままやられるだけ。
その策を考えていくための取っ掛かりとしては十分だ。
「“感じろ”。
何を感じればいいんだ?
剣筋?殺気?
いや、それじゃあ剣士としての思考に寄り過ぎだな……。」
アキは頭を振り、思考を変える。
自分はもう剣士ではない。
魔導士だ、と。
「魔導士として……何を感じる?
パッと思いつくのは魔力だが……魔術を使わない奴の魔力を感じてどうするっていうんだ……?」
そう考えたところでハッとする。
「ヤバい……‼魔力探知をしてな――‼」
ザンッ‼
直後、アキのすぐ右を刃が通る。
アキがそちらに目を向けると、そこにいたのはヴェイン。
「終わりだ、アキ。」
流石は熟練者ヴェイン。
アキが目を向けた時にはもう、剣が振りかぶられている。
この状況が正しく、先ほど作ってはいけないと考えていた懐に入られた状況だ。
しかも、相手はベテラン剣士のヴェイン。
早くもアキの夢の旅が終わってしまう――
とは、当然いかない。
アキは座った姿勢から沈み込んで仰向けに寝転んだ状態になると、そのまま背もたれとしていた木を手で思い切り押す。
当然、アキの身体は滑っていく。
が、ヴェインの剣速を超えるほどの速度ではない。
このままでは切られてしまうところだが……。
「……ッ‼」
何故かヴェインは剣を止める。
(アイツの目的は俺を生きて国に連れ帰ること。
だからこそアイツが狙っていたのは俺の足だった。
だったら、アイツが狙っている位置に頭や首を持っていったら?
そりゃあ剣を止めざるを得ないよなぁ?)
アキは滑り終えるとすぐさま立ち上がり、勝ち誇った顔で杖をヴェインに向ける。
が、
「――甘いっすよ。」
背後から声。
アキは足への攻撃を警戒してすぐにその場でジャンプする。
しかし、
ゴッ‼
アキが感じたのは頭部への鈍い痛み。
「剣も、刃の部分を使わなければ鈍器にできるんすよ?
まぁ、アキさんの教えですけどね。」
そのままリュウはすぐさま剣を構え直し、アキの自由を奪おうとする。
が、
ドンッ‼
というすさまじい音と共に近くの茂みが爆発。
今度はアキが、リュウが剣を構え直している一瞬の隙を突いて、先ほどほんの少しだけ伸ばせていた魔力の糸を近くの茂みに付けて爆破。
爆風に巻き込まれるリュウと爆風で目が眩まされるヴェイン。
二人が何とか態勢を立て直し時には、もう既にアキの姿は無くなっていたのだった。




