この世界
この国、というよりこの世界にはとあるルールがある。
子どもが十歳になった時、とある儀式を行う。
それは職業選定の儀。
町の真ん中にある建物。
十歳になったその時にしか入ることが許されないその中には、手のひらサイズの小さな光る玉がある。
その玉に手をかざすと、自身の様々な能力が数値として表示され、その情報を基に最適な職業が決まる。
「あの日は二人そろって大泣きだったよなぁ、ハハッ!アキは魔導士希望だったのに剣士になって、俺は剣士希望だったのに魔導士になっちまって…。でも二人とも、あの日に誓った夢だけは忘れなかったからなぁ。」
顔を真っ赤にして、すっかり出来上がった様子のケイは、そんな調子で昔話を進める。
ちなみにこれで三週目だ。
「儀式の日の夜に、二人で絶対トップ取ろうぜ、って言ったあれだろ?何回聞かれたってちゃんと覚えてるよ。」
一方のアキは酔ってはいるもののしっかりしている。
酒が弱いのに潰れるまで飲むケイを、酒に強く、量も考えて飲むアキがフォローする。
いつものパターンで、アキはすっかりケイの扱いに慣れていた。
こうなったらもうお開きである。
アキは店員を呼び、身分を示す腕輪を見せると、
「いつものを頼む。」
と伝える。
店員は鉄仮面(のようにこちらからは見える)をピクリとも動かすことなく、
「かしこまりました。ではまた五分ほどお待ちください。」
と、男とも女ともつかない無機質な声でそう言うと、店の奥へと消えていく。
アキは完全に机に突っ伏してしまったケイを尻目に、懐からカード型の魔道具を取り出すと、机の画面にかざした。
少しの間待つと、画面に支払い完了の文字が浮かび上がる。
「おーい、ケイ。金払っといたから、また今度返せよ。」
ケイは聞こえてるのか聞こえてないのか、気の抜けた
「ふぇーい」
という返事をする。
こんな状態でもきちんと覚えている時もあるのだから不思議なものだ。
そんなケイの生態に若干あきれつつアキは、一つ大きく息をつくと、ケイを持ち上げる。
「こういうのはむしろ、魔術でチョイッとやってほしいもんだがなっ……と!」
そうしてそのまま店の入り口まで持っていく。
外に出ると、先ほど店に依頼していた、要人用の車が待っていた。
アキは、いつの間にかいびきをかいているケイを無理やり車に押し込んだ後、ギリギリ空いているスペースに座り込んだ。
それと同時に車は城を目指して走り始める。
流石に要人用だけあって、静かで揺れも少ない。
「ほんと、いい生活できるようになったもんだ……。」
アキはそう呟くと、幼き日に思いを馳せる。
捨て子だったアキとケイ。
その貧しく苦しい日々。
「今思えば孤児院があっただけマシだったが…。ろくでもない日々からよくもまあここまで出世したもんだ。……っと、俺も酒が回ったかね。昔のことばかり思い出しちまうなんて。」
先ほどまでのケイと似たような状態になっている自分に対し、軽く苦笑した後、ケイの様子を見る。
快適な車内で、気持ちよさそうに眠っている。
先ほどまで三周も同じ話をしてはしゃいでいた人物とは思えないほど穏やかに眠っている。
「約束……か……。」
そう呟いて、窓の外を見る。
「約束って言ったら、俺にとっちゃあ儀式の日当日よりも、その前の――」
そこまで言いかけて、口をつぐむ。
「……やっぱ、飲み過ぎだな」
アキは自嘲気味に笑うと、夜の空を眺め始めた。
この日の空はやたら曇って見えた。