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夢の旅  作者: 秋川 味鳥
旅の始まり
29/52

会敵

 馬を走らせる四人。

 先頭はヴァン。

 その後ろにリュウとサロメ。

 最後尾をヴェインが走る隊列だ。

 先頭のヴァンは手に筒のようなものを持っている。

 その筒の中には毛のようなものが入っており、その毛は彼らの進行方向に向かって倒れている。

 いや、正確には、先ほどからヴァンが時折筒の中を確認し、その毛が倒れている方向へと進んでいる。

 馬を走らせながら、リュウがヴァンに問う。


「あの……すいません。その筒って何なんすか?」


 そう問われて、ヴァンは驚いて背後を向く。


「お前、破裂猪の毛を知らんのか?最近は割と一般的になってきたように思ったんだが……。」


「あぁ!それが破裂猪の毛だったんすか!失せ物探しに便利だって有名な奴!俺初めて見たっす!」


 破裂猪の毛。

 突然変異で魔力を操作する力を持った獣である魔獣。

 その中でも最も古くに発生したものの一種であり、長い間危険度の高い魔獣として知られていたのが破裂猪だ。

 敵と認識したものに対し、大きい個体で五百キロにもなる巨体で突進を繰り返す。

 ここまでであれば、普通の獣と大差ないが、当然これだけではない。

 この魔獣は物体に衝突した途端、爆発する。

 その爆発の威力は、猪の二倍のサイズの岩を難なく破壊するほどだ。

 そんな爆発の要因は当然魔力。

 破裂猪は、自身の魔力を毛にまとわせ、衝突の瞬間に魔力をその物体に送り込むのだ。

 当然、猪も爆発に巻き込まれるが、強靭な皮膚がそのダメージを通さない。

 そんな凶悪な魔獣を何とか有効利用しようとした結果が毛の利用だ。

 研究の結果、破裂猪の毛は帯魔力性が非常に高いことが分かった。

 そんな毛の性質と魔力の元に戻ろうとする性質を利用して、毛に物体の魔力を帯びさせておくことでその物体の位置を探し出すという優れモノである。

 その汎用性の高さから、一般家庭でも流通しており、もっと言えば軍や城内での使用は一般よりも早く行われていたはずだが……。


「リュウお前……、剣士団でも使ったことあるだろう……。本当にこういうところは……。」


「い、いやぁ……ほんとに剣以外は興味持ってないもんで。世間知らずですんません……。」


 ヴェインにも呆れられる中、そう言って笑ってこの話を終えようとするリュウだったが、


「……すみません、ヴァンさん。私の記憶が正しければ、破裂猪の毛は生物の魔力を纏わせることはできなかったように思うのですが……。」


 サロメが話に割って入ってくる。

 その質問を聞くと、ヴァンは満足そうに頷く。


「流石だな、サロメ。

 確かに、一般的に流通している破裂猪の毛は生物に使用することはできない。」


 破裂猪は先ほどから説明しているように猪。

 つまり生物だ。

 生物に生物の魔力を流すことはできない。

 それは、その生物の死後でも同じことだ。

 だが、


「今現在、この毛を広く流通させるために畜産が行われているわけだが――

 二十年ほど前、突然変異の個体が生まれた。

 その個体は一トンの巨体を持っていてな。

 流石に危険だということで当時の魔導士団、剣士団によって早々に処分されることとなった。

 ……だが、この個体について研究すると面白いことが分かってな。

 この変異種の毛は生物の魔力をも帯びることが出来たのだ。

 とはいえ、あくまで突然変異。

 処分してしまったし、この個体を量産するのは現実的でないとして、この事実を公表することはなかった。

 だが、この毛を全く利用しないのも勿体ない。

 そこで当時の王は、自身と自身が決めた数名の要人の魔力をこの毛に帯びさせ、その人物が何かしらの要因で姿を消した際にすぐに探し出せるようにしたんだ。」


 ヴァンはそこで手を挙げて一度馬を止める。

 目の前には三つに分かれた道。

 ヴァンは再び筒を確認する。


「……こっちか。」


 毛の倒れた方向を確認し、再び一行は走り出す。


「……それで、今の王がケイさんの魔力を帯びさせておいたのがそれってことですか?」


 サロメが先ほどの続きを問う。

 ヴァンは、今度は後ろを振り向かずに答える。


「うむ、その通りだ。

 特に、その頃は戦争もまだまだ激しかったからな。

 あまり言いたくはないが……まぁ、きちんと弔ってやりたいという気持ちもあったのだよ。

 もちろん、軍人だけを登録していたわけではないがな。

 まぁ、それ自体は非常に便利なものだ。

 現王も大層気に入られてな。

 今回はケイのものとアキ殿のものをお借りしたのだ。

 ……おぉ!そうだ、お前たち!」


 ヴァンはそう言って馬を止める。

 そうして若者二人の方へと近づくと、筒を見せる。


「せっかくだ、こいつの使い方を覚えておくといい。

 ケイもまだ年数が浅い分、毛を使用した経験はないはずだ。

 将来大きく成長していく上で学んでおくのは悪くない。」


 そう言ってヴァンは、筒の裏側を見せる。

 筒の裏には穴が開いており、そこから中の毛が少し飛び出している。


「ここから出ている毛に魔力を触れさせることで、毛に魔力を帯びさせることが出来る。

 一度帯びさせたら間違っても触るんじゃないぞ?

 ちょっとでも触れたら、すぐに上書きされてしまう。

 魔力を帯び続けられる期間は約一年。

 誰の魔力を帯びさせているのか、いつ魔力を取っているのか、何人分保持しているのかなどの詳細は王以外知らない。

 そもそも、こういう任務に就かなければこの毛の存在を知ることもない。

 俺やヴェインは変異種の討伐作戦に同行していたから、話だけは聞いていたがな。

 」


 そこまで話し終えると、今度は筒を縦にして正面側を見せる。

 正面は透明なケースとなっていて、中の毛は道の端にある森の方向を示している。

 また、毛はぼんやりと赤く発光している。

 話を聞く二人の様子はといえば、サロメは真剣な顔で話に耳を傾けている。

 一方、リュウは興味がないのか、はたまた話が理解できないのかはわからないが、話に集中はできていなさそうだ。

 そんな二人の様子を対して気にする様子もなく、ヴァンは話を続ける。


「筒の上部はガラス張りになっている。

 理由は単純。

 毛に触れないように、毛の動きを見なくてはならないからだ。

 ガラスだからな、扱うときは決して落とすなよ。

 で、毛の動きをどう見るかというと、だ。

 基本は簡単だ。

 毛が倒れる方向に探し物がある。

 だから、毛が倒れている方向へと進んでいけば探し物が見つかる。

 そしてもう一つ、重要なことが――」


 と、そこまで話したところで、


「あの……すいません、ヴァンさん。教えていただけるのは大変ありがたいんすけど……、今はお二人を急いで追う方が大事じゃないっすか?」


 リュウが話を遮ってヴァンに進言する。

 リュウの思惑としては単純に長い話を聞きたくない、程度の者だろうが、状況としてはもっともでもある。

 アキ、ケイを急いで追いかけなければならないこの状況でのんびり授業をしている場合ではない。

 が、


「……重要なのはここからだ。」


 ヴァンはリュウの進言を完全に無視して話を続ける。

 いくらリュウがあまり真面目に話を聞いていなかったり、魔導士団副長という立場からサロメの方に贔屓目がありそうだからといって、流石にそれはあんまりだ。

 そんな思いからリュウは、一言言ってやろうとする。


「ちょっ――‼」


 が、すぐにサロメに止められる。

 文句を言おうにも、口を塞がれ身体を拘束されで何もできない。

 何故かヴェインも黙って腕を組んで立っている。

 そんな状況にもかかわらず、ヴァンは何事もないかのように話を続ける。


「この毛、今の話までだと探し物がある方向が分かったところで具体的にどこにあるのかが分かりにくい。

 だが、コイツはその辺りも優秀でな。

 目標に近づくとサインが出る。

 出始めるのは五百メートル付近からだ。

 毛が青く光る。

 更に近づき、百メートルまで近づくと、毛の光の色が黄色に変わる。

 そして今、この赤く発光している状態。

 これがどういう状態か、というと――」


 そこまで言ったところで、ヴァンは二人から視線を外し、とある方向を見つめる。

 それは、先ほどから毛が示している森の方向。


「――五メートル以内、だ。」


 ヴァンがそう言うとほぼ同時。

 茂みから何かが一気に距離を詰めてくる。

 狙われるは、急なことで全く準備が間に合っていない若手二人。

 その何者かの剣先が、二人に届こうとするその時、


 キンッ‼


 という金属音が響く。

 ヴェインだ。

 瞬時に二人の前に立ち、敵の剣を防ぐ。

 そのまま力比べか、と思ったが、敵は防がれたと分かるとすぐさま剣を引いてその場から飛び退く。

 あまりにあっさりとした引き際に、一瞬戸惑うヴェインだが、すぐにその意味を理解する。

 敵がいた方向。

 その先には、無数の氷塊が浮かんでいた。


「氷弾」


 聞きなじみのある声で呟かれたその言葉を合図に、氷塊が一斉にヴェインに襲い掛かる。

 ヴェインは咄嗟に腕で顔をガードし、守りの態勢を取る。

 が、氷弾がヴェインに届くことはない。

 今度はヴァンだ。


「風壁」


 ヴァンが眼鏡をチャッと動かしながら前に出る。

 そして、ふぅ……と一息つくと、


「……まずは話を聞きたいんですがね。

 ケイ、アキ殿。」


 茂みの中から姿を見せた二人に、そう伝えた。


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