上司と部下
「信じられないっすよ……。アキさんがそんなことするなんて……。」
剣士団詰所で出発の準備をしながら、リュウとヴェインは会話をする。
二人とも、表情からショックが隠しきれずにいた。
「……ああ。様子がおかしいことは分かっていたが、まさか国抜けまでするとは……。」
ヴェインは思わず準備の手を止め、頭を抱える。
「……俺たちがもっと話を聞いておけば……‼」
唇をかんで悔しさをにじませるヴェインに、リュウはポンッと肩に手を置いて、
「ヴェインさん、まだ悔しがるのは早いっすよ。
まだ何もしてないじゃないっすか。
アキさんとっ捕まえて、ちゃんと話聞いて、ちゃんと俺たちも支えていけるよう頑張るって改めて伝えて。
そしたら絶対帰ってきてくれますよ!
俺もまだまだアキさんに教わりたいことたくさんあります。
絶対諦めないっす!」
そう言って、ニッと笑顔を向けてくる。
そんなリュウの姿に、ヴェインは一瞬顔を曇らせるが、すぐに頭を振って笑顔を向ける。
「あぁ、そうだな。まったく、ダメな先輩だ!俺は!後輩に励まされちまうとはな!」
そう言って笑うヴェインの顔に、もう先ほどのような曇りはない。
二人は急いで準備を進めると、出発のために馬小屋の方へと向かった。
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一方、魔導士組。
ヴァンもまた、己の行いを悔いていた。
(まさか王の前であのような失態を犯してしまうとは……。情けないことこの上ない……。)
……ケイの件ではなさそうだが。
とはいえ、ヴァンもケイのことを全く考えていないわけではない。
(それにしてもケイの奴……この国への裏切りだと……!?何たる不敬!!
王は寛大な心をお持ちだから許すとおっしゃっていたが……私は許さんぞ、ケイ……!!)
……とまぁ、怒りに燃えていたヴァンだが、流石に圧うなりすぎたと心を落ち着けるために一つ深呼吸。
「ふぅ……ん?」
何か目の端に違和感を感じてそちらを見る。
と、
「サロメ!?何をしているっ!?」
視界の端にいたのはサロメ。
うつろな目で、今まさに着替えを始めようとしているが、ここは男性用更衣室だ。
「サロメッ!?サロメ!!!」
ヴァンは何度も声を掛けるが、サロメには届かない。
とうとうサロメはシャツのボタンに手をかけて外していき、下着が露わになりかける――と、
「うおぉぉぉぉお!!?」
とてつもない叫び声と共に、ヴァンは大げさなほどに全力でサロメから目を背ける。
そして、魔力線を伸ばすと、サロメの肩付近に向けて伸ばす。
そのあたりにある物体に引っかかったことを確認すると、
「サ、サロメ!!話を聞けぇ!!」
と叫びながら彼女の身体をブンブンと揺らす。
そこまで派手に動かされれば、流石のサロメも意識を戻す。
「っ……!……あれ?わたし……?」
サロメは混乱した状態で状況確認を行う。
だが、それが動く前に、
「サロメ!?目が覚めたか!!?は、早く出て行ってくれ!ここは男子更衣室だ!!!」
と、情報が飛んでくる。
サロメは一瞬固まったものの、すぐさま情報を飲み込む。
と、同時に顔を真っ赤にすると、
「すっ、すみませんっ……!」
それだけ言って、大きく開いた胸元を急いで隠し、扉へと走り出す。
ヴァンは心臓をバクバクさせながら、決して後ろを見ないように思考を巡らせる。
(クソっ……!普段は優秀だというのに相変わらずこういう時は……!)
というのも、サロメがこのようなポカをやらかすのは決して今回が初めてではない。
入団初日や試験の日、初めての戦争前など(戦争前は仕方ないとは思うが)精神に重度のストレスがかかった場合にこのようなポカをやらかした前科がある。
先ほどのように、ボーっとして人の話が一切耳に入らない。
これまでも同じように男子更衣室になぜか居たり、訓練中にすでに戦闘不能の相手に追撃をしかけたり等々やってきてはいるが――
(しかし、今回は何が彼女をそこまで――)
そこまで考えたところで、先ほど一瞬だけ見えたサロメの姿を思い出す。
その頬に見えた一粒の雫を。
「……サロメ!」
丁度、出口の扉のノブに手を掛けたところでサロメは動きを止める。
ヴァンは後ろを向きながらも、気配でサロメが部屋を出ていないことを察する。
そして、
「あの男は、ケイは魔導士団に、この国に必要な人材だ。
俺たちで必ず連れ帰るぞ。
……何があろうとな。」
ヴァンは力を込めてそう宣言する。
ヴァンは一切後ろを見ていないため、サロメがどんな表情をしているかはわからない。
が、ズルッと鼻をすする音と目元を拭う音が聞こえたかと思えば、
「……ハイッ!!!」
と元気な返事と共にバンッと勢いよく扉を閉める音が響き渡る。
「……全く、これこそお前の仕事だろう、ケイ。
終わったら必ず文句を言ってやる。」
そんな憎まれ口を叩きながらも、よく見ると口角が少し上がっている。
ヴァンとは、そんな男であっ――
「んむ!!」
……そう叫ぶヴァンの鼻から、流れ出る二筋の赤い線。
後輩を諭すことはできても、三十を超えても、重大な役職を持っても。
お色気展開には滅法弱い。
ヴァンとは、そんな男であった……。




