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夢の旅  作者: 秋川 味鳥
旅の始まり
24/52

アキ VS ケイ その6

「ゴホッ‼ゴホッ‼くそ……!使っちまった……!」


 本に書いてあった隠し玉。

 出来ればとどめの瞬間まで使わずにいたかった。

 だが、


「あそこで使わなかったら、終わっていたのも事実……か……。」


 あの状況で、他の策は思いつかなかったし、思いつく余裕はなかった。

 他にどうすることもできなかった。

 そうである以上、今の一連の流れを見て、ケイが対応してこないことを祈るしかない。


「どの道劣勢なのは変わらない……。俺にできることは、最善の状況を整えてやること全部やりきるだけ、だな……!」


 アキは改めて思いを固め、拳を握り直す。

 一方、ケイは何が起こったのか判断ができず、ひたすらに困惑していた。


「水球の魔力主導権を握られた……?いや、それはあり得ない。」


 他人が操作している魔力の主導権を奪う方法は一つ。

 相手が流し込んでいる以上の魔力をその物質に流し込めばいい。

 だからこそ、自分が捜査している物質に相手が簡単に干渉できないよう、ロックの技術が発達したわけだが。


 当然、今回の水球にはロックを掛けていた。

 それも、念を入れてこれまで使用したどの魔術に掛けたロックよりも強力なものを掛けておいた。

 もちろん、それを解く魔術も存在はする。

 高レベルな魔導士であれば、あれだけの時間があればほとんどのロックを解除することができるだろう。


 だが、これまでロックを解除するスキルがあればどうにか場面で、アキはそれを試そうとするそぶりすら見せなかった。


 いや、理屈建てをしようと思えばいくらでもできる。

 解除に時間がかかるために、一瞬の勝負の中で試す暇すらなかった。

 この緊急時のためのブラフとして使ってこなかった。

 色々考えられはするが、どれもなんだかしっくりこない。

 それに、


(魔力を侵食された感覚は全くなかった……。そんなことが可能なのか……?)


 魔力の侵食をこちらに一切感じさせずに完了する。

 これまで数多の魔導士と戦ってきたケイですら、そんな経験はない。

 どんな熟練の魔導士でも、相手が支配している物質に侵入する際、相手にそれが気付かれることは避けられない。


(一体、どこでそんな技術を……。)


 非常に気になる話だが、そんなことを悠長に考えてはいられないようだ。


「うおおおおぉぉぉ‼」


 ケイの真下から、アキが迫ってくる。

 ケイが集中出来ていない隙に、ケイが足場にしている腕に魔力を引っかけ登ってきているようだ。


「……なるほど、僕が集中できていなかったのもあるけど、この距離まで来ていたら、もうどんなにゴーレムの腕を早く動かしても僕の足場ごと吹っ飛ばしてしまうな。」


 ケイは一旦思考をクリアにする。

 余計なことは考えない。

 頭に入れておくべきは、アキが何かしらの魔術でこちらの魔術を無効化してくる可能性がある、ということだけ。

 その情報だけを頭に残し、ケイは足場から飛び降りる。

 全く動きを見せていなかったアキが、突然そのような行動を取れば、当然アキは困惑。

 このまま上に上るべきか、それともケイを追って降りるべきかで一瞬迷う。

 が、そんなこと考える必要はないとすぐに理解させられる。

 ケイは落下しながらゴーレムの腕を操作。

 操作するのは、先ほどまで立っていた方とは逆の腕。

 その腕で、先ほどまで足場にしていた腕を思い切り殴る。

 衝突と同時に、当然ゴーレムの腕は砕け散る。

 アキは魔力を引っかける場所を失って落下していく。


「うおぉぉぉ⁉」


 ケイがボーっとしている隙に攻撃できると踏んでいたアキは、この状況を想定できていない。

 一瞬見えたケイは、すでに空気を足場にして着地しているらしい。

 だが、何の準備もなしに空気の足場をサッと作れるほど、アキの魔力操作速度は速くない。

 何とか地面に細工をしようと、急いで魔力を伸ばすアキ。

 だが、


「その心配は要らないよ、アキ。」


 そんな言葉が聞こえたかと思えば、背後から先ほど砕けた大量の氷塊がアキの横を通過していく。

 そして、アキの真下に巨大な水球を作り出していく。


「さっきの、もう一回見せてほしいなぁ。アキ。」


 余計なことは考えない、と言ったが、アキの魔術の謎を解くことは余計なことではない。

 あくまで、先ほどのタイミングでは余計だっただけ。

 実際、アキの謎が解けなければどうにもならない。

 アキは、空中でじたばた動いて何とか打開策を探そうと試みる。

 が、そううまくはいかない。

 そのまま水球へと落ちていく。


「ガボッ‼」


 アキとしてはそう言われた以上、余計に見せたくはない。

 だが、そんな心に反し、どんなに考えても使う以外の策が思い浮かばない。


(クッ……ソがぁぁぁぁぁぁ‼)


 アキは再び術を使う。

 水球は再びパンッと弾ける。


(また……か……。)


 やはり魔力に侵入された痕跡がない。

 先ほどの結果は思い違いなどではなさそうだ。

 少なくとも水球で囲まれた場合に、アキは魔力に侵入することなく、あるいはそれを感じさせることなく術を解除することができる。


 さて、ここまでわかったら次に確認することは。


「これならどうかな?」


 そう言うと、まだゲホゲホと咳き込んでいるアキに向け、追撃を行う。

 四つん這いの状態でゲホゲホと咳き込んでいるアキの地面がボコッと動く。

 それに気づいたアキは、急いでその場から離れようとするが、立ち上がったと同時に土がまとわりつき、身体全体を包んでいく。


 そのままほとんど身動きを取ることを許されず、気付けば首から下が完全に土の塊に埋められてしまった。


「こ……これは……⁉」


「水球から逃れられるのは分かった。では土はどうかな?」


 ケイが見たことも聞いたこともない以上、あらゆる条件を試してみる必要がある。

 魔力に関係あるところで何かをしているのか。

 していないとすれば、それはあらゆる属性の魔術に有効なのか。

 魔術でなくとも有効なのか。

 身体のどこを使用するのか。

 知らなければならないことはたくさんある。

 アキもそれが分かっているからこそ、むやみに使いたくない。

 が、


(ケイの術の使い方が上手すぎる……‼)


 先ほどまでの攻防で、隠し玉以外のアキの魔術スキルはほとんど理解されているようだ。

 自力で解決するとすれば、術を使うしかないものばかりを的確に使ってくる。


(クソっ……!使いたくねぇ……!使いたくねぇのに……‼)


 三度、使用。

 水球と同じく、パンッと弾けて術が解除される。


(同じく魔力侵入形跡なし。

 水に限った術ではない。

 手元が見えなくとも使用可能。)


 ケイは冷静に情報分析を進める。

 アキはこれ以上情報を取られまいと、今度はすぐに動き出そうとする、が。


「なら今度はこれだ。」


 その一言と共に、今度は木がアキの足にまとわりつく。

 走り出そうと体重を前に向けていたアキは、そのまま倒れて転ぶ。


「ブッ‼……おぉぉぉ⁉」


 そのまま木の枝はアキの身体を引っ張り上げ、木の幹に背をつける形で立たせる。

 アキがその衝突の痛みに悶えている隙に、木は幹を中心にアキの足からグルグルと縛り上げていく。

 アキがそれに気づいたときにはもう時すでに遅し。

 対応する間や、声を上げる暇は一切なく、今度は顔まで完全に覆い隠される形で縛り上げられた。


「さぁ、完全に視界を奪われた状態で、さっきの術が使えるのかな?」


 ケイはなんだか楽しくなって来ていた。

 未知の力に出会い、探究することへのワクワク感。

 十歳で魔導士になり、そこから十年以上研究や戦場で様々な魔術を見てきたが、原理すら全く分からない魔術に出会ったかもしれない。


 知らない魔術に対する好奇心、探究心。

 やはり、自分には魔導士が合っている。

 その感覚を、アキは久しぶりに感じさせてくれる。


「……動かない、な。」


 さっきの土球の時よりも時間が経ったが、木の球に動きはない。

 視界が完全に奪われたら使えない術なのか。

 術を使わずとも逃げる策を考え続けているのか。


「……あるいは、僕が何かアクションを起こすのを待っているか。」


 だが、それのせいでアキに有利な展開を作り出してしまうことはすでに経験している。

 もうケイから何かを起こすことはない。

 それはアキもわかっているだろうに。

 アキのワンパターンさに少しがっかりしたケイがどこかに腰かけて待とうかと辺りを見渡し始めたその時、


「……ケイ‼わかった‼

 この術について教える‼

 術を使えばここから抜け出すのは簡単だ‼

 でももういい加減囚われ続けるのはごめんだ‼

 ハァ……ハァ……。

 正直もうヤケだ‼

 いいか、この術は――‼」


「叫ばなくてもいい。聞こえる位置まで来たよ。」


 ケイは木球の前に立って話を聞く。

 何かの策かもしれないが、ある程度警戒はしているし、少なくとも攻撃に関しては余程隙を突かれなければ対応できることは分かっている。


 何より今、ケイはこの好奇心を抑えられない。

 アキはケイの言葉を聞いて、声のトーンを落として話し出す。


「……悪いな。

 この魔術は、俺がジェドさんから受け取ったもう一つの禁書に書かれていた魔術だ。

 その本は、俺のように魔導士の夢を諦めきれなかった人に、魔術を教えていた魔導士が書いた本で、魔術の入門書みたいなもんだった。

 その本の最後に、その人が教え子と一緒に考えた新しい理論や魔術が載っていたんだ。

 いくつかある中で、この短期間で一つだけ習得出来た魔術がこれだ。

 この魔術の理論について、本にはこう書いてあった……」


 ――私の友人であり教え子であるその男は、ある日このような仮説を語った。

 我々魔導士は、水を空中で固定したり、木を本来あり得ない成長の仕方をさせたりと、明らかに現実を捻じ曲げ、歪ませている節がある。

 そうであるならば、魔力を操作する技術の他に、現実を歪ませるような謎の力を無意識のうちに発している可能性はないだろうか、と――


「ありえないな。」


 ここですかさずケイが口を挟む。


「確かにそういう言い方をすればそうだが、要は、魔力は器や詰め物のような役割を果たしているに過ぎない。

 ガラスの容器に水を入れ、それを糸で吊るしたとして現実が歪んでいる、などと考えるか?

 植物もそうだ。

 木の蔓は棒を用意してやればある程度人為的に成長の仕方を決められる。

 成長しきる前の木の実を箱などに入れれば、箱型の果実ができるなど人為的な操作は魔術に限らずいくらでも可能だ。

 それにいちいち現実を歪ませているなどと理屈付けをしたとしても――」


「――それが、あったんだよ。そんな力が。」


 ケイの言葉を遮って、アキが答える。

 驚きの表情で何も言えなくなってしまったケイを気にすることなく、アキは続きを話す。


「本の著者も、最初はお前と同じことを言ったらしいぜ。

 でも、調べてみたら存在した。

 それは、魔力の糸みたいなものだ。

 魔力の糸の他に一本、その物質に向かってほとんど見えないほど細い、謎の力を持った糸が伸びていたのを発見したらしい。

 それが具体的にどう作用して現実を歪ませているのかはわからない。

 でも、コイツを切ることで魔術による物質の変化を無効にできる。

 切り方は魔力の糸と同じ。魔力で刃を作り出して切ればいい。」


 話を聞いて、ケイは自分の指先の魔力を見る。

 糸の内の一本の端、よーく目を凝らすと確かに細い糸のようなものを見つけることができた。


「こ、こんなものが……!」


 驚きを隠せないケイに、アキは淡々と続きを話す。


「……実はこの力を使う上で一つ注意が必要な点がある。

 この術はあくまで現実改変を強制的に無効にするだけだ。

 よって、歪みを無効にされた物質が、その後どういう動きをするかは、完全にランダム。誰にもわからない。

 こんな風にな。」


 その言葉にハッとして前を向いたとき、すでに目の前には木の枝が

 鞭のようにしなってこちらに向かってきていた。


「くっ……!」


 魔術が間に合う速度ではない。

 ケイは何とか反射のみで後ろに下がって回避。

 頬に小さな傷ができたものの、軽症。

 危なかった、と安堵しかけるが、その隙が命取りと急いでアキの様子を確認する、が。


「アキ……?」


 その光景は、ケイが想像していたものと全く違っていた。

 アキは、腹部を木の枝に貫かれ、元に戻ろうとしてブンブン動き回る木の枝に振り回される形になっていた。


「アキッッ‼」


 ケイはアキに向かって必死に走り出す。

 先ほどのアキの言葉を思い出す。

 “どう戻るかは完全ランダム。”

 “誰にもわからない。”

 アキは、そのランダム性に賭けたのだ。

 そして――


「アキィィィィッッ‼」


 アキを失うわけにはいかない。

 ケイの夢には、彼が必要なのだから。

 覚えていないほど小さい頃から一緒に育った。

 夢を語り合い、今に至るまでずっと親友として、家族として共に成長してきた。

 ケイの夢には、共に高め合い、成長し合い、喜び合う者が必要なのだ。

 そんな相手は、アキしかいない。

 木の枝を操作しようと、魔力を伸ばす。

 が、


(弾かれる⁉完全に歪みが戻るまでは受け付けないのか⁉

 ……なら‼)


 ケイは再び魔力を伸ばす。

 狙うは、アキの服。

 アキ本人に魔力を付けることはできなくとも、装飾品であれば関係ない。

 ……とはいえ、少しずれれば弾かれてしまうため、すさまじい技術ではあるが。

 だがそこは流石のケイ。

 寸分の狂いもなくアキの服に魔力を接続すると、そのまま思い切りこちらに引っ張る。

 アキは木の枝から解放され、空中に放り出される。


「アキッ‼」


 ケイは急いでアキの落下地点へ。

 魔力による加速も利用し、何とかアキを落下前に受け止めることに成功する。


「アキ……‼アキ‼」


 何度も名前を呼び、声を掛ける。


「……うぅっ……」


 声に反応した。

 苦しそうな顔をしているが、息はあるようだ。


「はぁ……ひとまず良かった……。

 なんて無茶をするんだ、アキ。

 まぁ今はいい、とにかく治療を――」


「か……お……か……」


 アキを連れて行こうとするケイに、アキがか細い声で何かを訴える。


「なんだい、アキ?後で聞くから、今は安静にしているんだ。」


 そう言うが、アキは何かを言おうとすることを止めない。

 震える手でケイの胸を何度も叩き、何かを訴えようとする。


「もう……なんだよ?」


 ずいぶん必死な訴えに、ケイは折れ、耳を傾けてアキの声を聞く。


「賭けは俺の勝ちだ。」


 これまでか細くかすれていたアキの声が、急にクリアに聞こえる。

 それと同時に、ケイは鳩尾に鈍い痛みを感じ、そのまま軽く吹っ飛ぶ。


「ガァっ⁉」


 ケイは一瞬ひるむが、すぐに前を向く。

 しかし、もうアキの姿はない。


「ブッッッ‼」


 今度は顎。

 いつの間にか懐まで入り込んでいたアキから、顎にハイキックを食らい、空中へ。


 流石に武闘派のアキからの一撃を二度ももろに食らえば、ケイも軽く意識が飛ぶ。

 それでもすぐに意識を戻して対応を試みる、が。


 このようなチャンスを逃すわけはない。


 ケイが意識を戻した時には、すでに目の前にはアキと、発射寸前の拳。

 そして、その拳に握られた血で作られた氷塊。


「これで……俺の勝ちだあぁぁぁぁぁぁ‼」


 三度、ケイにもろに叩きこまれる拳。

 当然、腕の背後で小石を起爆して威力は増強済み。

 その勢いで地面へと吹っ飛ばされるケイ。

 更に、それだけでは終わらない。

 アキは、ケイを殴ると同時に、先ほど拳に握っていた血の氷塊を一緒に叩きこんでいた。

 氷塊は今、ケイの腹部でケイと一緒に地面に叩きつけられようとしている。

 当然、これにはアキの魔力をつけているわけで。


「いけぇぇぇぇぇぇぇ‼」


 アキは魔力の糸を思い切り引っ張る。

 それと同時に、氷塊が破裂。

 アキの魔力破拳、氷塊の破裂ダメージ、さらにその破裂による余波。

 それらとてつもないダメージを一身に受け、ケイは物凄い轟音と共に地面に叩きつけられた。


 隕石が落ちたのかと思うようなとてつもない轟音、後、静寂。

 これまたとてつもない土煙が少しずつ晴れていく。

 ようやく見えてくるその姿。

 ピクリとも動かず、倒れ伏す男。

 そして、その隣。

 全身ボロボロの血まみれ。

 一方が倒れ伏していなければ、間違いなく敗者はこちらだと思うであろう出で立ち。

 しかして、肩を切らしながらもしっかりと仁王立ちして、倒れ伏す男を見下ろす男が一人。


「俺の、勝ちだ……‼」


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