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夢の旅  作者: 秋川 味鳥
旅の始まり
23/52

アキ VS ケイ その5

 ケイは周囲に意識を集中する。

 先ほどの泥、あれは完全に意識していない方向から飛んできていた。

 すなわち、アキはもう先ほど潜っていた位置にはいない。

 ケイは神経を集中する。

 地面の中にまで魔力探知を伸ばすのは魔力量的にも得策ではない。

 五感を頼りに、アキの居場所を探っていく。

 一方、アキは土の中で機を窺っていた。

 結局具体的な策は思いついていない。

 ただ、作り出したいシチュエーションは思いついた。

 その状況に出来さえすれば、勝利確率は大きく上がる。

 問題は、


(その状況をどう作るか……。)


 そして、今の状況。

 口火を切る一撃をどうするか。


(ケイが万全の今の状況じゃどんな攻撃でもどうせ防がれる。

 とはいえ、ケイに居場所がバレていないこの状況はかなりデカい。

 ほんの少しでもこっちに有利になるような一撃を……!)


 さっきの宣言で、ケイも本気なことは分かっている。

 そう宣言した以上、相当に集中力を高めているだろう。

 そんな格上相手にできること。


(ケイの想像を上回る。俺の純粋な魔術スキルで。)


 そのために使うべきもの。

 その使い方。

 それは―


「これは……さすがに想定外かもね。」


 そう呟くケイ。

 その目に映るは泥の弾。

 それも、四方八方満遍なく。

 ケイが動きに気付いたと同時に上空にも飛んでいき、正しく完全に包囲された形だ。


「この量の泥弾をこの速度で動かせるとは……。準備時間が長かったとはいえ驚きだよ、アキ。」


 これには思わずケイも冷や汗を流す。

 その一粒が地面に落ちる、瞬間、


 バァッ‼


 周囲の泥弾が一斉にケイに向かって放たれる。

 ケイはすぐに空気を操りバリアを展開。

 それとほぼ同時にバリアに泥弾が着弾。]


「うっ……ぐぅっ……!」


 一発一発の衝撃もそうだが、くっついてくる泥の重さものしかかる。

 固めている空気はあくまで魔力で支えているだけ。

 ケイが支えきれなくなれば、そのまま決壊する。


(な、長い……!ここまで物量で押す攻撃ができるなんて……!)


 流石のケイも想像し得なかったアキの猛攻。

 ケイも少しずつ苦悶の表情へと変わっていく。

 流石にこれ以上は厳しい、と別の手段に切り替えることを考え出したその時、泥弾が止んだ。


「止ん……だ……?」


 と、呟き切ると同時。


 ズボッ‼


 と音がして、足を掴まれる感覚を感じる。

 その次の瞬間には地面の中に引きずり込まれた。


「ガボッ‼」


 急なことに一瞬対応しきれずに溺れかける。

 が、そこは流石のケイ。

 すぐさま魔力操作で身体の周りに空間を作り出す。

 そこが、隙。

 ケイが正面を向いたときには、アキが既に構えに入っている。

 アキは拳を前に突き出すと同時に、肘後方に準備しておいた小石を起爆。

 破裂の勢いでさらに重みと速度を増した拳が、ケイの顔面へと突き刺さ―らない。

 理由はアキにもはっきりと見えた。

 ケイの顔に攻撃が当たる寸前、ケイはすぐに手のひらで拳の軌道をそらしたのだ。


「は?」


 ここに来て、アキ側に想定外が生まれる。

 もちろん、魔導士なのだから近距離戦闘は苦手、などという偏見はできうる限り思考の外に出していた。

 とはいえ、まさかこの拳を受け流せるほどにスキルが高いとは考えつかない。

 このような想定外が起これば、当然思考は停止。

 その隙を逃さないケイではない。

 今度は逆にケイが爆発を利用してアキを蹴り上げる。


「ガッ……‼」


 その勢いで、アキは地面を突き抜け上空へ。

 ケイはすぐに足元を爆破してアキを追う。

 一方、蹴り上げられたアキは動けない。

 それどころか、軽く意識が飛んでいる。

 アキは急いで何とか意識を戻す。

 が、間に合わない。

 次にアキに意識が戻ったその時、目の前にあったのはケイの足。

 空気を固めて足場にし、方向転換を行ったのだ。


「よっ……とおぉ‼」


 その掛け声とともに、再度アキの腹部に蹴りが叩き込まれる。

 アキは言葉を発する余裕すらなく吹っ飛ばされ、地面に衝突後、何回転したところでようやく止まる。


「ぐ……うぅ……!」


 ダメージに苦しむアキだが、そんな暇がないことは分かっている。

 アキはケイを探してさっきまでいた方向を見る。

 が、そちらの方の地面を見ても、姿が見当たらない。


「こっちだよ、アキ。」


 その声で、上を向く。

 ケイが、空に浮いていた。

 実際には空気を固めてそれを足場にしているだけではあるが、


「見下されてる感はムカつくな……。」


 アキは何とか力を振り絞って立ち上がる。

 その姿を何もせずに見届けると、ケイはフッと笑って、


「僕が格闘術苦手だと思ってたの?昔のままじゃないよ、僕だって。」


 その言葉に、アキも笑い返して、


「そりゃそうだろうけどよ。流石にあの距離の一撃をあっさり避けられるなんて予想できないっつの。」


「まぁ、それもそうか。あの速度はちょっと驚いたしね。

 ところで、僕を倒す方法は思いついた?」


「お前に話すわけねぇだろばーか。この後を楽しみにしとけ!」


 少しの間、戦闘中とは思えないほど和やかな空気が流れる。

 お互いに軽口を叩き合い、笑い、穏やかに話す。

 先ほどまで殺し合いをしていたとは思えないほどに、不思議なほどに穏やかな時間が流れる。

 ただの幼なじみで居られる時間はそうしてあっという間に流れていった。


「じゃあ、そろそろ君の実力もわかったし、終わらせるね。

 一目見て、万が一諦めて降伏する気になったら言ってくれ。」


 その言葉に、お互いニヤリとする。

 どちらもそんなことをするとは思っていない。

 ただの軽口。

 最後の、軽口。

 ケイは指を素早く、大きく動かす。

 それに合わせて、地面のあちこちが盛り上がっていく。

 そして、ボコッボコッと地面の中から何かが出てきてケイの元へと集まっていく。

 集まっていくのは先ほどの氷塊だ。

 ただ、いつの間にか先ほどよりもサイズが大きくなっている。

 それが集まって、徐々に何かの形を形成していく。


 それに対し、アキは全く動けなかった。

 最初こそ、ケイの出方が分からず様子見をしていたところもあるが、今はもう違う。

 魔術速度に関しては、むしろ遅い方で、アキにすら対応可能なレベルだったが、これはそういう次元の話ではない。

 ただただ、アキにはどう対処すればいいのかが分からなかった。

 そうしているうちに、ケイの魔術は完成する。

 出来上がったものは、ゴーレムだった。

 ゴーレム自体は珍しい魔術ではない。

 アキでも作ろうと思えばできる。

 だが、規格外なのはそのサイズ。

 先ほどケイが背にしていた城壁。

 その城壁から、頭が飛び出るほどの大きさ。

 アキは対応策を考えるどころか、思考すら停止してしまう。


「さぁ、どうする?アキ。」


 ケイにそう問われて、ようやくアキはハッとして我に返る。

 だが、


(俺の魔術でこれをどうにか……?)


 結局案は何も思い浮かばない。

 それでも何かしなくてはと周囲を見渡す。

 そんなアキの様子を、少しの間文字通り高みの見物していたケイだが、本気でやると約束したのだ。


「来ないなら、こちらから行かせてもらうよッ!」


 そう言って、ケイはゴーレムの拳をアキへと放つ。


(やばい……!)


 アキは周囲を見ていたせいで一瞬反応が遅れる。

 それでも、何とか急いで範囲から離れようと走る。

 拳は、


 ドオォォン……‼


 という激しい音と共に、周囲一帯に衝撃を飛ばす。


「うおぉぉぉぉ⁉」


 と情けない叫びと共に、アキは衝撃波に吹っ飛ばされていく。

 そのままかなりの距離を転がされるものの、何とか止まることができる。


「……あれ?」


 アキが疑問に思ったのは、先ほどの拳。

 アキは完全に対応が遅れていた。

 当たってしまうことを覚悟して、その後の対策を頭の中で巡らせていたが、意外とあっさり避け切れてしまった。

 そうだ。

 大きさに圧倒されて、冷静な判断ができていなかったが、こういうものに対する共通の対処法があるではないか。


 “デカいものは動きが鈍い”


 攻撃後の衝撃にさえ気を付ければ、避けやすい。

 そうと決まればやることは一つ。

 攻撃を避けつつ、動きを制限するような術をかけ続ける。

 そうすれば、どこかでケイに攻撃できる隙ができる。

 そこまで考えたところで気づく。


(森から離されている……⁉)


 現状、ゴーレムの動きを止めるために使えそうなものは二つ。

 土と木、そして城壁だ。

 その内、土はゴーレムの足を制限できるほどのサイズを動かせるほど集中する時間がない。

 城壁を動かせば、流石に城の人間に気付かれる危険があるためなるべく使いたくはない。

 となれば、真っ先に使いたいのは木だ。

 サイズ含めて成形しなければならない土と違い、木ならば太さはそのままで十分。

 あとは長さを伸ばしていけば良いだけなので、アキのスキルでもゴーレムの動きに対応しながら縛ることができる、はずだったが……。


(完全に後手に回った……‼)


 ケイが適当に攻撃したわけがない。

 間違いなくこの状況を予期して、アキを森から遠ざけたのだ。

 とはいえ、現状それ以外の策はない。

 森に近づいていくしか、ない。

 アキは森に向かって走り出す。


(動きが鈍いことは変えようのない事実!森に近づくくらいそこまで難しいことじゃない‼)


 森へと走るアキの前に、ゴーレムが立ちはだかる。

 アキの狙いが分かっている以上、当然の行動だ。

 だが、その行動は逆にアキにとっても想定通り。

 アキは一切速度を落とさずに進み続ける。


(このまま突っ込んで、攻撃が来たらそこに合わせて手に握っている石を爆破して加速。

 それで森へは十分近づける……!)


 ゴーレムは、ゆっくりとした動きで拳を振り上げ、狙いを定める。

 そして、そのまま発射。

 流石ケイと言うべきか、狙いは完璧。

 この速度のままアキが突っ込めば、拳に潰されて終わる。

 が、アキには石による加速がある。


(これで、第一関門通過……‼)


 と、思ったところで――


 ドオォォォォオオオン‼


 と、とてつもない轟音と共に、アキの身体が吹っ飛ばされる。

 物凄い衝撃と風に、アキは声を発することすらできずに転がっていく。

 そして、城壁に衝突したところで、


「ウッ……!」


 とうめき声だけ挙げて倒れ込んだ。

 この衝撃波を生んだ元、それは当然ケイのゴーレムだ。

 起こしたのは足。

 最初に腕の攻撃を印象付けさせ、上からの攻撃に集中させておいて、本命は蹴りによる衝撃波攻撃だった。

 アキは完全に術中に嵌ってしまった形となった。


(戦いの中で、魔力操作の遅さをうまくカバーしながら戦っているのは流石不利な状況でも戦い慣れているといったところ。

 でも、魔術戦において素人なのは間違いない。

 ゴーレムを見た焦り、攻撃を見て避けられると感じた慢心、そういった隙を突きやすいのが弱点だ。)


 ケイはゴーレムの上に佇んで、アキの動きを見る。

 アキはあれからピクリとも動かない。

 何をするつもりなのか。

 アキがあの程度の衝撃で致命的なダメージを負うことなどありえない。

 何か策があって動かずにいるはずだ。

 そう考えて、ケイも動くことなく観察を続けるが、一向に動く気配がない。

 それどころか、魔力をどこかに伸ばしている形跡もない。


(まさか……当たり所が悪かった……?)


 こう思わせることもアキの策の内である可能性は十分にある。

 というより、その可能性の方が高いだろう。

 だが、ケイの夢のためには、ほんの少しでもアキの命に関わる可能性があるのであれば確認しに行かざるを得ない。

 ケイはそれでも念を入れて、ゴーレムだけは動かしながらアキに近づいていく。

 その間も、アキは一切動かない。

 ゴーレムはあっという間にアキの前へと移動し切る。


「アキ!無事かい⁉」


 ケイは声をかけるが、反応はない。

 こうなればいよいよ不味い。


「アキ‼」


 と心配したケイは、アキの元へ向かおうとゴーレムから飛ぶ。


「……こらえ性がねぇなぁ‼」


 瞬間、アキは魔力をゴーレムの足に付けて自分の身体の方をゴーレムに引き寄せる。

 更に、先ほど使えなかった石を背後で爆破してブースト。

 一気にゴーレムの足元へと移動すると、そのまま森の方へ一直線に駆けていく。


「これで今度こそ第一関門突破ぁッ……!」


 そうして森の近くへとたどり着き、木の操作でゴーレムの動きを封じて再スタート――


「……甘いよ。」


 ドンッ!という破裂音。

 何があったのかと振り返るアキ。

 だが、もう遅い。

 アキは、何が起きたのかをきちんと認識する間もなく、気付いたときにはゴーレムの手の中に捕らえられていた。

 アキは一つため息をつく。

 これは、自分自身に対する失望だ。

 状況を見れば、何が起こったのか簡単に想像できる。

 ケイはゴーレムの腕を破裂させ、その一瞬の加速を利用してアキの裏をかいて捕獲したのだ。

 とはいえ、これは先ほどからアキが自分で何度も使ってきた策だ。

 ケイが“ゴーレムは動きが鈍い”という印象付けをうまくした結果、と考えることもできるが…


「あまりに、安易な考えだったな……。」


「そうだね。君の魔導士としての経験不足が如実に出た結果かな。」


 いつの間にかケイがゴーレムの手首辺りに立っている。

 その表情は正しく勝ち誇ったような顔だ。


「なんだよ、ケイ。俺を捕らえたからって、もう勝ったつもりか?それこそ慢心だろ。俺はまだ諦めてねぇぞ?」


 ケイは静かに笑って後ろを向く。

 そして、


「いや、もう終わりだよ。」


 と呟くと、指をパチンッと鳴らす。

 それを合図に、ゴーレムの手が変化。

 アキは一瞬のうちに、水の球の中に捕らえられる。


(まずい……!)


 これは完全に予想外だった。

 あまりに急なことで、息が足りない。

 とにかく息を吸わなくてはと、アキは急いで上に向かって泳ぐ。

 が、


(水面が全く近づいて来ねぇ……‼)


 ケイが水球を操作してアキに息を吸わせようとしない。


(まずいまずいまずい……!)


 このままでは、敗北だ。

 このまま息ができずに気を失えば、そのままケイに連れ戻されて終わりだ。

 演技でごまかして隙を見て逃げるか……?

 だが、先ほど使ったばかりの策に再度引っかかるほどケイは馬鹿ではないだろう。

 いや、それでも他に策があるわけでもない。

 一か八か、やってみるか――


「ガボォッ……‼」


 考えているうちに限界が来る。

 これでは演技どころではない。

 演技のつもりでそのまま気を失うことになるだろう。

 だが、だとすれば、どう、する…


 ケイは水の中の様子を確認する。

 アキは完全に脱力している。


「まぁ、念のためだ。あとほんの少しだけ待って、それで回収かな。」


 万が一、演技だとしてもすぐにゴーレムの身体から新しく水球を作り出せばいい。

 だがまぁ、念には念だ。

 魔術しか使うつもりがないとはいえ、この男の身体は剣士長。

 常人離れした能力を持っていることは間違いない。


(それに、アキの魔術能力についても決して侮れるものじゃない。応用力もそうだけど……何か、隠し玉があるような気が……。)


 そこまで考えて、頭を振る。

 余計なことを考えれば、それが隙になる。

 とにかく、今はアキを溺れさせて気絶させる策に集中する。


「まぁ、そうは言ってもやることは待つことだけなんだけどね。」


 ケイはそう呟いて軽く笑うと、水球に背を向け、少し離れようと歩き始める。

 その時、


 パンッ‼


 と背後から大きな破裂音。

 ケイが音にハッとして背後を振り向いたときには、水球は先ほどまであったところから消え、その真下に何度も咳き込むアキの姿と、大きな水溜まりが出来上がっているのが見えた。


「一体……何が起こった……⁉」


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