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夢の旅  作者: 秋川 味鳥
旅の始まり
22/52

アキ VS ケイ その4

 暗闇の中で目を開く。

 右も左も何があるのか分からないが、やるべきことだけは分かっている。

 まず必要なのは空気だ。

 このままでは溺れてしまう。

 身動きを取ることすら難しいが、なんとか魔力を操作して身体の周りに空間を作る。

 次にほしいのは水。

 これは簡単に手に入る。

 周囲の水分を集めて、顔の周りに集める。

 何とか泥も落ちてきた。

 顔周りから少しずつ水を下へと移動させていく。


「それにしても危なかった……。もう少しでケイの奴に撃ち抜かれるところだった……。」


 そう言いつつ、アキは先ほどの瞬間を思い返す。

 ケイの弾の速度に対応しきれない。

 そう気づいた瞬間、アキは自分でも驚くほどに冷静になった。

 その場で自分に使えるものを瞬時に判断し、アキが選んだのは経っている地面。

 アキは逃げながら、地中の水分を逃走ルートに集中させ、沼を作って土の中に逃げたのだ。

 弾幕が丁度良くアキの姿を隠してくれたこともあり、ケイも逃げた方法は分かっても、どのあたりに沈んでいるかはわからないだろう。

 とはいえ、


「痛っ……!」


 泥を洗い流していた水が、腹部に到達した途端痛みが走る。

 ケイの弾が当たったのだ。

 傷はなかなかに深い。

 それだけではない。

 直撃こそこの一発のみだが、かなりのかすり傷ができている。

 出血量はそこまで多くないものの、楽観視はできない。

 長期戦はより難しくなった。


「まぁ、元々ケイ相手に長期戦に持ち込むなんてほぼほぼ不可能だったし、さほど問題はねぇ。

 むしろ、ここで少し作戦を立てられることを考えりゃ差し引きプラスだろ。

 問題は……。」


 その作戦が思いつかないところだ。

 ケイを倒すための作戦。

 落ち着いて、もう一度禁書の内容を反芻する。


 魔力の特徴は二つ。

 物質の変化と破裂。

 物質の変化は場所や形、状態を変化させることができるという特徴。

 破裂は魔力を物質の外に無理に引き出そうとすると爆発が起こる特徴である。

 ここで気を付けなければならないのは、自分の魔力を、動物の魔力に接続させることはできないということ。

 だから、魔力を相手に接続して爆破、ということはできない。


 ここまでが魔力の基礎知識。

 魔術を使う上で誰もが知っていること。

 当然、ケイも。

 だが、この禁書に書かれていることはそれだけではなかった。

 魔導士でない人間への魔術入門書として、基本的な知識、技術を教えてくれた最後に、こんな記載からその章は始まる。


 ここまで読んでくれた物好きに、最後にちょっとしたおまけを載せておきたい。

 ここまで読んでくれた者は思うだろう。

 こんなことは誰でも知っていることだ、と。

 特に、魔導士であればこれを知らないものはこの世に存在しないと断言できる。

 つまり、この本を読んだとしても、魔術での勝負で魔導士に勝利できる可能性は限りなくゼロに近いということだ。

 だが、私の友人はそれでは納得しなかった。

 私たちは魔力の性質についていくつか仮説を立て、まだ誰も気づいていない性質や、それを応用した魔術を編み出した。

 これを実際に他人に使用したことはない。

 それに、時代が変われば我々が発見したことが当たり前になっているかもしれない。

 だがそれでも、諦めの悪い者たちにこれを残しておく。

 どうか一つでも君たちの役に立つ魔術がありますように――


 ここに記載されている魔術の中で、一つだけこの短い期間で試して成功した魔術がある。

 これがアキの切り札。

 とはいえ、


「雑に使えば勝てるようなものじゃない。ケイの行動にうまく合わせればあるいは……くらいのものだ。だからこそ、ケイの行動がある程度誘導できる作戦が必要だ。しかも、ケイにはこっちからしたら無限とも思えるような手札がある。」


 なんとも厳しい勝負だ。

 分かりきっていたが、改めて考えると無茶苦茶だ。


「でも、勝ち目が全くないわけじゃない。」


 確率はゼロじゃない。

 なら、諦められない。


「……死ぬ前には思いついてみせるさ。」


 そう呟いて、アキは必死に頭を動かし続けるのだった。


 一方のケイ。

 アキが姿を消してからというもの、一切その場から動くことなく立ちつくしていた。

 当然だ、アキの居場所が分からなければ動きようがない。

 魔力探知も、あくまで自分の魔力を広げられる範囲内までしか調べられない。

 少なくともこの周辺にいないということしかわからない。


「……そう、仕方ないんだ……。わからないのだから……。」


 ……嘘だ。

 分かっている。

 あの場からアキが完全に姿を消すとしたら、空か地面の中だけ。

 いくらこの暗さでも、今の今まで見えていたものが上空に飛んで行ったら流石に見えるだろう。

 そもそも、弾幕で見にくかったとはいえ、アキの身体が沈んでいくのが見えていた。

 では、なぜ追いかけないのか。

 ケイの行動を阻害しているもの、それは罪悪感だ。

 先ほどのアキの一連の攻撃。

 非常に殺意の高いものだった。

 土壁の中でのことから全て、一歩間違えば死んでいた。

 その危険度を感じたからこそ、ケイは手加減してアキに攻撃が当たらないようになどと気を遣う余裕がなくなったのだった。

 とはいえ、友人を傷つけてしまったこと、そして不意打ちのような攻撃をしてしまったことに対する罪悪感はぬぐえなかった。

 だが、


「僕がこのままの気持ちでは、アキを止められない。アキにあのような攻撃を続けられたら、僕はどこかでアキを殺してしまうだろう。

 そんなことは、あってはならない……。」


 ケイの夢には、アキが必要だ。

 ケイの人生には、アキが必要だ。

 だから、


「きちんと、宣言する。次に君が僕の前に姿を現した時に。もう君の身を案じることはしない。

 五体満足でさえあればいい。

 君をボコボコに痛めつけて、動けなくしてから連れ帰らせてもらうよ。

 ただその代わり、もう魔導士としてのアキを軽んじたりはしない。

 殺さない程度に、本気でやらせてもらう。」


 ケイはそこまで呟いたところで、ハッとして背後を振り向く。

 だが、見える限りは誰もいない。

 それでも、ケイはニヤリと笑うと、


「そういうことで良いかな?アキ。」


 とはっきりとした声で伝える。

 アキからの返事はない。

 聞こえていなかったのか、それとも納得できない理由があるのか。

 それともケイの勘違い?

 と、


 ボッ‼


 とケイの顔に何かが飛んでくる。

 ケイはそれを魔術――ではなく手でガードする。

 手の中を見て、打ち込まれたものを確認する。

 泥だ。

 手に傷がついているわけでもなく、何の意味があるのかわからない一撃。

 ケイは思わずフッと笑う。


「もうちょっと分かりやすい返事をしろよ。」


 これで互いに憂いも不足もない。

 もうブレイクタイムはない。

 最後のぶつかり合いが、始まる。


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