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夢の旅  作者: 秋川 味鳥
旅の始まり
20/52

アキ VS ケイ その2

 アキはケイと睨みあう。

 まだやるか、だと?

 当然アキの答えはイエスだ。

 だが、いい加減はっきりさせておきたいことが、アキにはあった。


「ここでやめるって答えたら、お咎めなしで許してくれんのか?」


 目の奥に怒りを隠し、取り繕った笑みで、そう問う。

 そんなアキの気持ちを分かっているのかいないのか。

 ケイは無機質な表情で何でもないように答える。



「もちろん。君を害する気は全くないよ。」



 ――これではっきりした。

 ケイは全く本気じゃない。

 アキは、最悪ケイの命を奪ってでもこの場を切り抜けようと思っていた。

 自分の夢のために、それだけの覚悟を持っていた。

 だが、ケイは違った。

 正直、これまでも察するところはあった。

 ケイの夢は、アキがいなければ成立しないものだ。

 その時点で、ケイはアキの命を奪うつもりはないのだろうとわかる。

 それでも、アキは負ける時は死力を尽くした時だと思っていたし、負けたら潔く罰を受けるつもりでいた。

 だが、ケイはそんなつもりはないと言う。

 それどころか、傷つけるつもりすらないと。

 どうりで攻撃の範囲が狭いわけだ。

 先ほどの氷弾も、ケイが本気でこちらを狙っているならあの程度の範囲で済むはずがない。

 考えれば考えるほど、アキは腹が立ってくる。

 アキは強い覚悟を持ってこの場にいる。

 だが、ケイはそれに対してこんなに甘い対応で返してきている。

 覚悟を踏みにじられた気がした。

 もちろん分かっている。

 そのような覚悟を持った、考えを持ったのはアキの勝手であるし、それと同じような熱量をケイに求めるのはあまりに身勝手であると。

 だが、頭でわかっていれば収まるものではない。

 アキは、沸々と怒りが湧いてくる。

 自分の思いを受け止めないケイに。

 そして、ケイの本気を引き出せない自分に。


「あああああぁぁ‼」


 怒りのままに近くにあった小石をケイに投げつける。

 更に、石がケイに当たる直前のタイミングで自身の魔力を無理にねじ込む。

 魔術を使用する際は、あくまで技術を駆使して爆発が起こらないように魔力に触れているだけ。

 無理にねじ込むようなことをすれば当然、


 バァン‼


 という音と共に小石は破裂。

 破片がケイへと向かっていく。

 が、破片はケイに当たる前に勢いを失ってポトポトと落ちていく。当然だ。

 これは魔導士にとっては常套手段だ。

 小石を投げられた時点で察していたケイは、風を操作して壁を作っていた。


「諦めるつもりは、ないんだね。」


 ボソリと呟いたその言葉と、一瞬だけ見せた悲しげな顔は、アキには気づいていない。

 アキは今の隙を突いて、また少し距離をとっていた。

 そして、強い敵意を持ってケイを見据える。

 アキは怒っていた。

 だが、冷静でもあった。

 そうでなければ、このままいつか魔力切れで倒れるだけだ。

 だから、冷静に考えなければならない。

 ケイを本気にさせる方法を。

 ケイに勝つ方法を。

 それが思いつきさえすれば、


(怒りのままにぶちのめすだけだ……‼)


 だが、どうするか。

 アキは周囲を見渡す。

 何か攻撃に使えそうな物体はないか。

 先ほどのように会話で時間は稼げないだろうことを考えれば、すぐ近くにあるものを使うしかない。

 何かないかと探していた――が、


「土壁」


 ケイが何か言葉を発した瞬間。


 ゴゴゴゴッ‼


 と謎の轟音が響く。

 アキが、その音の正体を確認するよりも早く、


 ゴォッ‼


 という音と共にアキの周囲の地面が一気に盛り上がり、一瞬で壁が作られる。


「閉じ込められた⁉」


 四方を土の壁に完全に囲まれている。

 油断していた。

 先ほどから自分から動こうとしないケイと、傷つけたくないという発言から、ケイから積極的に攻撃してくることはないだろうと勝手に思ってしまっていた。

 今になって思えば、ずいぶん甘ったれた考えで自分をぶん殴ってやりたい気持ちになるが、今はそれどころではない。

 この場所から何とか抜け出さなくては。


「フッ!」


 試しに魔力を土壁に流してみる。

 が、


 バチィッ‼

「うおっ‼」


 弾かれた。

 恐らく、訓練場で見た魔力のロックの派生形だろう。

 少なくとも、この土壁に関しては魔力に触れることすらできない。

 天井は閉じられていないが、ジャンプ等で届く高さではないし、仮に魔術で出ることができたとしても、ケイが何もしていないとは思えない。


「どうする……⁉」


 時間をかけてもいられない。

 ケイやアキが部屋にいないことが誰かに気付かれ、ケイ側に増援が来たら終わりだ。

 どうにかしなくては。

 落ち着いて、今使えるものを考える。

 土壁は利用できない。

 今立っている地面は使えるだろうが、ケイ程派手に上げることはできない。

 あとは今地面に生えている草。

 それから、今自分の持っているものか。


「とはいえ、大したものは持ってない……。最低限の金と禁書二冊、一日分の水、今着ている服、それから――」


 ポケットに何か箱状のものがある。

 取り出してみると、


「マッチだ。」


 思い出した。

 禁書に書いてあった。

 魔導士が戦闘をする際、中々準備をしにくいのが火だ。

 禁書が書かれた当時は、火打石が必須だったようだが、今の世の中は便利になったもので、マッチで良いだろうと持ってきていた。

 とはいえ、


「今これで何ができる……?考えろ……考えろ……。」


 この場所から脱出する。

 必要なのはケイにバレないこと。

 もっと欲を言えば、ケイへの反撃の準備がしたい。

 そんな滅茶苦茶な策が、


「……っ!」


 思いついた?


「いや、でも……。賭けにはなるか……。」


 だが、いくら手加減されているとはいえ、賭けに勝っていかなければ圧倒的な格上であるケイに勝つことなどできない。

 アキは覚悟を決め、準備を始めた。

 ジャイアントキリングの準備を。


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