ある酒場で
町の中でもかなり入り組んだ場所にある裏酒場。
古ぼけた見た目とは裏腹に、中は会話も難しいほどの大盛況だ。
この盛況ぶりには当然理由がある。
というのもこの店では、特殊な認識阻害の魔術が常に使用されており、客が指定した人物同士しか認識し合えないという店になっているのだ。
当然よからぬことに使用されることも多いが、一方で町の要人などが気軽に利用できる酒場としても機能しており、まさしくグレーの酒場となっている。
そんな酒場の一角。
二人の男が飲んでいた。
一人は、パッと見は細身の優男といった見た目だが、露出した腕をよく見ると筋肉や傷などが多く見える。
もう一人も見た目は細身だが、こちらはあまり肌を露出していない。
しかし、よく見ると首元に火傷の後らしきものが少し見えており、こちらもただものではなさそうだ。
「あの日からもう十年かぁ……。」
男の一人、筋肉質の男が呟く。
「……あぁ、早いもんだな。」
火傷の男はそう呟くと、グラスの中身を一気に飲み干す。
「っ……!はぁっ!なんだか辛気臭い雰囲気だぜ?止めようや、今日は祝いの席だろ?飲もうぜ」
火傷の男は、二つ目のグラスに手を伸ばし、それもまた一気に飲み干すと、すぐさま店員に追加の注文をする。
そんな様子を見た筋肉質の男も苦笑した後、自分の前に置かれた二つのグラスを一気に飲み干す。
「……ふぅ。それもそうだな、今日は色々忘れて飲むのが一番だ。」
「そうだよ、俺たちの夢が叶った日だぜ?あの日に誓った通り、俺たちはそれぞれ剣士長と魔導士長になったんだ。最高の日だろ?アキ。」
そう言って火傷の男、ケイは改めてたった今運ばれてきたグラスを前に向ける。
筋肉質の男、アキもグラスを受け取ると、ケイに応え、グラスを前に出す。
「それじゃあケイ、お前の魔導士長就任を祝って」
「アキ、お前の剣士長就任を祝って」
「「乾杯!」」