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夢の旅  作者: 秋川 味鳥
旅の始まり
18/52

夜勤

 深夜。

 城下町入り口前。

 夜の警備は二名。

 魔導士団と剣士団からそれぞれ一名ずつ、交代で入ることになっている。


「今日は三日月かぁ。俺なんか好きなんだよなぁ、三日月。あの尖ってる感じがさぁ。」


 剣士団の男が言う雑談に、魔導士団の男が対応する。


「あぁー。なんかわかるかもなぁ。」


 こんな平和ボケした会話が続くのが夜の警備だ。

 緊急性のある事態など滅多に起こりはしない。

 殆どこうやって、だらだらと雑談をして終わる。


「てか、アキさん大丈夫なのか?今日、ケイさんとの手合わせを体調不良で欠席してただろ?式までもうそんなに時間ないのに……。」


 アキは今日、就任式で使用される予定の観客を守る結界の強度を確認するため、ケイと模擬戦を行う予定だった。

 模擬戦とはいえ、次期長たちの戦闘が見れるということで多くの兵士たちが一目見ようと集まっていたが、結局アキがその場に現れることはなかった。


「あー……。まぁ、いいか。あんまり言いふらすなよ?」


 質問を受けて、剣士は言いにくそうしつつも、そう前置きして回答する。


「実はさ、アキさんの欠席理由、よくわかってないんだ。」


「はぁ⁉」


 思わず大きな声を出してしまった魔導士に、剣士は焦って口に人差し指を立てる。


「しーっ!あんまデカい声出すなよ!

 ……実はな、アキさん昼間の訓練の時間から顔出してなくてさ。

 副長たちが声掛けに行ったみたいなんだけど、なんか気の抜けたような返事が返ってくるだけだったらしくて……。

 体調不良なのは間違いないんだけど、よくわからんっていう状況なんだよな。」


「へぇー……。そりゃあまた何とも珍しい話だな。その状況で聞いたことあるのは……まぁ、実力がなかなか理想に追いつかなくて、焦って体調崩して――とかかねぇ。」


 魔導士が言った内容も、実際はほとんど聞く事はない。

 誰もが皆、才能ある職に就ける世界。

 現実は、焦る間もなく実力がついていく。

 比較的劣るものはいても、全くできない者はいないのがこの世界だ。

 まして――


「次期剣士長だぜ?まぁ、現時点ではまだ候補ではあるけどさぁ。それだけの実力者が実力不足で焦るなんてことがあったら、俺たちは何なんだって話だよ。」


 そう言って、剣士は自嘲気味に笑う。

 魔導士もつられてそりゃそうだと笑う。


「まぁ、案外ただの二日酔いとかだったりしてな。ケイさんとちょくちょく酒を飲みに行ってるって話だし。」


 剣士はポカンとして魔導士を見る。


「え?そうなのか?」


 魔導士もまた、剣士を意外そうな顔で見返す。


「知らないのか?結構知られた話だぞ?」


「あぁ、知らなかったよ。

 意外だな。

 アキさんはともかく、ケイさんは酒とか飲むタイプだと思わなかったよ。」


 二人で飲み会の様子を想像してみる。

 全く想像できない。

 どちらも盛り上げるようなタイプではないし、しっぽり飲んでいるという感じだろうか。


「……案外、ケイさんが飲み潰れてたりしてな。」


 剣士がそう言って笑う。

 魔導士も一緒に笑いつつ、


「いやぁ、どっちかって言うとケイさんよりアキさんの方がそのイメージあるぜ。」


「確かに。」


 なんて会話で笑いながら話していると、


「ずいぶん楽しそうに話してるな、お前ら。」


 不意に背後から声がして二人ともギョッとする。

 急いでそちらを見ると、魔導士団の制服を着た男が立っていた。

 剣士は懐から時計を出して時間を確認する。


「あれ、もう交代の時間か。」


「あぁ、ずいぶん話が弾んだらしいな。」


 魔導士団の男、魔導士Bは、そう言うと両腕を高く上げる。

 二人はサボってた分、殴られるのだと思い、咄嗟に目を瞑る。

 魔導士Bは二人に向かって振り上げた腕を下す。

 その腕は、二人の肩に軽くパンッという音を響かせて着地する。

 魔導士Bはそのまま二人の耳に顔を近づけ、


「そんなお前らにとっておきの追加情報だ。

 ケイさんは良く飲み潰れてしょっちゅうアキさんに金を立て替えてもらってるらしいぞ。」


 唐突な話に理解が追い付かず、二人は少しの間固まる。

 が、話の内容を理解すると一気に噴き出す。


「おいおい、脅かさないでくれよ。」


「ハハッ。お前もなかなか面白い話知ってるなぁ。」


「サボっていたんだからちょっとくらい脅かされとけよ。」


 そんな和やかな会話で、三人は一気に打ち解ける。

 楽し気な雰囲気が流れる中、剣士が疑問を投げかける。


「……あれ?俺の交代は?」


 深夜の交代は基本、剣士団員も魔導士団員も同じタイミングで交代が入る。

 そのため、交代の声掛けも二人で来るのが普通だ。

 しかし、剣士の様子は見られないようだが――


「いや、お前今日は二時間連続のシフトだってさっき愚痴ってたじゃねーか。」


 と魔導士Aがツッコむ。


「そうだった……。最悪だ……。」


 今日はたまたま剣士団の中で夜の時間に対応できる人員が少なく、時間に対して人手が足りなくなってしまったため、このようなシフトになってしまっていた。

 剣士が絶望の顔でいるのを尻目に、魔導士たちは軽く挨拶を交わして交代を終える。


「……お前ら、ちょっと冷たくないか……?」


 魔導士Bは笑って、


「ハハッ!まぁまぁ、大変なのは皆一緒だろ?まぁ俺で良いなら慰めてやるよ。おーよしよし!」


 と、わしゃわしゃと剣士の頭を雑に撫でる。


「ちょっ……やめてくれよ!俺が欲しいのはそういうのじゃねぇわ!」


 そう言って剣士は笑いつつも手を払いのける。


(……?)


 コイツ、誰だ?

 不意に剣士の頭に疑問が浮かぶ。

 振り払った手の感じ、撫でられた頭の感覚、どこかで感じたことがあるものだ。

 魔導士に頭を撫でられた経験などあっただろうか?

 魔導士Bは、先ほどのやり取りを終えて、持ち場である門の右端に立っている。

 顔を確認しようと思っても、軍の標準装備である帽子を深めに被っていることに加え、月が隠れてしまって丁度魔導士Bの辺りが見えない。

 魔導士の全員を把握しているわけではないし、これまでこの仕事中にわざわざ人の顔をまざまざと確認することなどなかった。

 だが、今回ばかりはどうにも気になる。

 少しずつ、雲の隙間から月明かりが戻ってくる。

 少し前かがみになって、さりげなく魔導士Bの方へと近づく。


(もう少し……!)


 あともう少し明かりが魔導士Bの周りを照らしてくれれば見える――


「ん?」


 魔導士Bが声を上げる。

 顔を見ようとしているのがバレたか……?


「今、何か動いた。」


 どうやらそういうわけではないようだ。

 剣士は安堵しつつも、仕事に集中できていなかったことを恥じる。


「わ、悪い、見逃しちまった。人か?」


「いや、そんなにデカくは見えなかった。まぁでも魔獣とかの方がむしろ危険だからな。ちょっと様子を見てくるよ。」


 そう言うと、魔導士Bは剣士が返事をする間もなく城壁の陰へと曲がっていく。

 たどり着いた先で、魔導士Bは辺りを見渡す。


「……。」


 先ほど見かけたものは見当たらない。

 もう少し探そうと、林の中へ足を踏み入れようとしたその時、


「どこへ行くんだ?」


 不意に後ろから声がして、そちらを振り向く。


 そこにいたのはケイだった。


 ケイは城壁を背に、睨むようにこちらを見ている。


「い、いえ、不審なものを見かけたので、念のためこちらも確認しておこうと思いまして……。」


 なにやら疑いの目を向けているケイに、魔導士Bは焦って弁明する。

 だが、


「おかしいな、僕の魔力探知には先ほどから何も反応がない。

 本当に見たのかな?

 そもそもなぜ魔力探知をしない?魔力探知をすればすぐにわかるはずだ。この辺りには危険のある生物は存在しない、と。」


 ケイの追及は止まらない。


「……。」


 魔導士Bは黙ってしまう。

 何か言おうと焦るが、うまい言い訳が思い浮かばない。

 そんな魔導士Bに、ケイはさらに畳みかける。


「良い言い訳が思いつかないかな?

 例えば、忘れてました?

 目で見たものを信じたいと思いました?

 魔力探知が苦手?

 どう来てもいいよ。

 全部返せる自信はあるし。」


 ケイの圧が強くなる。


「……。」


 魔導士Bは何も言えない。

 ケイの言っていることはハッタリではない。

 もう、何も言い返せるものはない。

 こうなったら――


「もう、いいかな?

 いい加減余計な時間を使うのは嫌なんだよね。

 事情を聴かせてもらっていいかな?

 アキ。」


 ケイがそう言うと同時、魔導士Bの右腕が木の枝に縛られる。

 もちろん、これだけで魔術が使えなくなるわけではない。

 だが、魔術の発動速度に大きな差がある中で、さらにこのマイナスは致命的だ。

 それでもまだ何かできることはないかとしばらくケイとのにらみ合いを続ける。

 が、当然何も思い浮かばない。

 観念して、帽子を脱ぎ捨てる。


「わかったよ、話をしよう。

 ちゃんと聞いてくれるんだよな?ケイ。」

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