諦め
「はぁ……、はぁ……。」
息を切らせて廊下を歩く。
身体がだるくて、壁に身体を擦らせながら歩く。
こんな姿、誰かに見られても状況説明なんてできない。
説明、したくない。
だから誰にも見られないように。
急いで行動したいのに。
身体は言うことを聞いてはくれない。
だが、幸いにも辺りに人の気配はない。
仕事を早めに切り上げてここにいるのだから、当然と言えば当然だ。
ゆっくり、ゆっくりと着実に歩を進めていく。
そうしているうちに、意外とあっさり目的地に着いた。
結局誰にも会わなかったし、誰かの気配を感じることもなかった。
まぁ、時間的にもそう珍しいことではない。
アキは前を見る。
そこにあるのは、地下書庫への扉だ。
「ジェドに本、返さなきゃ……」
自分は絶望した。
自分は諦めた。
だから、この本は返さなきゃいけない。
扉を開け、階段を下りていく。
いつも通り、誰もいない。
薄暗く、無音。
一段降りるたびに、その足音だけが聞こえる。
そんな孤独感の中では、ついつい色々なことを考えてしまうものだ。
改めて、考える。
昨日のこと。
昨日一日で夢を見て、その日のうちに砕かれた。
ケイとの差はわかっていた、つもりだった。
でも、そんな想像は軽々と超えられた。
一桁秒まで縮めれば早いと思ってた。
デカいものを動かせれば凄いって思ってた。
ガキの頃学んだことが全てだって、思ってた。
そんなのは、才能のあるやつが一週間で超えていくものだったんだ。
本物は一秒だった。
本物は繊細な操作が必要だった。
本物は、アキの知らないことをたくさん知っていた。
「諦める、かぁ……」
十年の夢。
そう簡単に捨てられるものではない。
でも。
共に夢を語り合った友に、はっきりノーを突き付けられた形だ。
それに、このままでいるわけにはいかない。
アキは、大切な仲間を殺しかけた。
「……そうだよな。諦めなきゃ、いけねぇ。」
これ以上悩んでも、何も変わりはしない。
世界を変えても、自分に実力がないなら夢をかなえることはできない。
それなら、自分ができることをしっかりやった方がいい。
心配してくれる、仲間のために。
アキは頬をパンッと叩く。
「……よし!」
もう、迷わずにいよう。
しっかり諦めよう。
俺は、本を読んで絶望してしまったのだから。
そう、結論を出したところで扉にたどり着く。
アキは扉に手を掛ける。
そうしてゆっくりと開きながら、これまでの自分と決別する。
さて、今日はどんな本を借りようか。




