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夢の旅  作者: 秋川 味鳥
旅の始まり
14/52

諦め

「はぁ……、はぁ……。」


 息を切らせて廊下を歩く。

 身体がだるくて、壁に身体を擦らせながら歩く。

 こんな姿、誰かに見られても状況説明なんてできない。

 説明、したくない。

 だから誰にも見られないように。

 急いで行動したいのに。

 身体は言うことを聞いてはくれない。

 だが、幸いにも辺りに人の気配はない。

 仕事を早めに切り上げてここにいるのだから、当然と言えば当然だ。

 ゆっくり、ゆっくりと着実に歩を進めていく。

 そうしているうちに、意外とあっさり目的地に着いた。

 結局誰にも会わなかったし、誰かの気配を感じることもなかった。

 まぁ、時間的にもそう珍しいことではない。

 アキは前を見る。

 そこにあるのは、地下書庫への扉だ。


「ジェドに本、返さなきゃ……」


 自分は絶望した。

 自分は諦めた。

 だから、この本は返さなきゃいけない。

 扉を開け、階段を下りていく。

 いつも通り、誰もいない。

 薄暗く、無音。

 一段降りるたびに、その足音だけが聞こえる。

 そんな孤独感の中では、ついつい色々なことを考えてしまうものだ。

 改めて、考える。

 昨日のこと。

 昨日一日で夢を見て、その日のうちに砕かれた。

 ケイとの差はわかっていた、つもりだった。

 でも、そんな想像は軽々と超えられた。

 一桁秒まで縮めれば早いと思ってた。

 デカいものを動かせれば凄いって思ってた。

 ガキの頃学んだことが全てだって、思ってた。

 そんなのは、才能のあるやつが一週間で超えていくものだったんだ。

 本物は一秒だった。

 本物は繊細な操作が必要だった。

 本物は、アキの知らないことをたくさん知っていた。


「諦める、かぁ……」


 十年の夢。

 そう簡単に捨てられるものではない。

 でも。

 共に夢を語り合った友に、はっきりノーを突き付けられた形だ。

 それに、このままでいるわけにはいかない。

 アキは、大切な仲間を殺しかけた。


「……そうだよな。諦めなきゃ、いけねぇ。」


 これ以上悩んでも、何も変わりはしない。

 世界を変えても、自分に実力がないなら夢をかなえることはできない。

 それなら、自分ができることをしっかりやった方がいい。

 心配してくれる、仲間のために。

 アキは頬をパンッと叩く。


「……よし!」


 もう、迷わずにいよう。

 しっかり諦めよう。

 俺は、本を読んで絶望してしまったのだから。

 そう、結論を出したところで扉にたどり着く。

 アキは扉に手を掛ける。

 そうしてゆっくりと開きながら、これまでの自分と決別する。

 さて、今日はどんな本を借りようか。


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