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夢の旅  作者: 秋川 味鳥
旅の始まり
13/52

反省

 甘かった。


 何もかも。


 十年も努力を続けていれば、少しは近づけているだろうと思った。

 五秒という数字を見て、俺ももっと頑張ればやれるって思った。

 泉を見つければ、俺にもできるって。

 全部、全部、甘かった。


 才能の壁は、思った以上に高かった。


 時間の差は、思った以上に大きかった。


 夢への道は、思った以上に長かった。


 ジェドさんが言っていた絶望とはこういうことかって、はっきりと思い知らされた。


 でも。

 それでもまだ。

 自分の中で、モヤがかかる部分がある。

 まだ、なのか。

 まだ俺は。

 自分の夢を、諦めきれずに――


 ドンッ


 と、背中への衝撃で我に返る。


 前を見ると、今まさに自分の脳天に剣を振り下ろされようとしている。


「ハッ‼」


 という短い掛け声とともに、剣が迫る。

 その瞬間、両者の視界がスローになる。

 徐々に、それでも確実にアキの脳天へと剣が向かっていく。

 そして、まさにアキに直撃しようかというその時だ。


 ガッ‼


 という音が響く。

 気付けば、アキの頭部付近にあったはずの剣が消えている。

 剣を振っていた男は、あまりの速さに何が起きたかわからず、剣を探す。

 辺りを見渡して、上空に吹き飛ばされているのが確認できた。

 が、次の行動をとる前に、恐ろしい寒気を感じて、その方向を見る。

 もう、遅い。

 男がそちらを見たその時、まさにアキの剣が男の首筋を捕らえようとして――


 ブォンッ‼


 という大きな風切り音と共に、アキの剣が止まる。

 アキの目の前には、真っ青な顔で大量の冷や汗をかいたリュウがいた。


「あ……。」


 自分がやってしまったことに気が付き、なんとも言えない声が漏れる。

 あまりの状況に、二人ともまともに動くことができない。


「おい、どうした?大丈夫か?」


 二人の奇妙な状況を見て、ヴェインが寄ってくる。

 その声掛けで、ようやくアキの身体から力が抜け、剣を下げる。

 リュウはそれを見て、全身の力が抜けたようで、膝からばたりと倒れ込む。


「お、おいおいリュウ⁉大丈夫か⁉」


 リュウは膝立ちの状態で手をつき、下を向いていた。

 そのせいで表情こそ見えないが、荒い息の音が聞こえ、冷や汗と思われる水滴が大量に落ちている。

 その様子を見て、ヴェインはすぐにリュウの肩を掴む。

 が、リュウは手を前に出し、


「大丈夫っす。ちょっとビビっただけなんで。少しだけこのまま休ませてください。」


 と言って、そのままの態勢でじっとしている。

 ヴェインは一瞬見えたリュウの顔に笑みが浮かんでいたような気がして不安を覚えたが、見間違いだと思いなおしてアキの方に意識を向ける。


「アキ……お前、今日はなんだかずっと変だぞ。朝からずっと上の空だし、さっきの稽古中も、いつもみたいにわざと打ち込ませてやってるっていうよりは、ボーっとしてて反射だけで相手してる感じだったし……。何かあったのか?」


 ヴェインがそう問うが、アキからは返事がない。

 アキもまた、息が荒く、冷や汗を大量に掻いている。

 ただ、こちらは表情が見て取れる。

 アキは、ただただ呆然としていた。

 目の焦点が合わず、明らかに様子がおかしい。


「アキ‼」


 部屋中に響く大きな音と共に、肩に強い衝撃を受けて、アキはハッとする。

 アキは周囲を見て、今自分の置かれている状況を思い出すと、


「……悪い、今日はこれで帰らせてもらっていいか?ちょっと今日は……まともに動けそうにない。」


「お、おい……。」


 アキはそのままヴェインの顔すら見ることなく出口へと向かう。

 いつもとあまりにも違うアキの様子に、あっけにとられてしまうヴェインだが、流石にこのままではと意識を戻してアキを引き留める。


「待てアキ!お前がそんな状態になるってことは何かあったてことだろう⁉何があったか教えてくれ!」


 そう、アキに思いをぶつけるが、アキは止まらない。

 一切振り返ることもなく、手だけを挙げて、


「ちょっと体調が優れないってだけなんだ。ほんとに気にしないでくれ。」


 そう言って、まっすぐ扉を目指す。

 ヴェインは、その後ろ姿をただ黙って見送って――


「アキ‼」


 居られなかった。

 きっと何を言おうとアキは止まらない。

 事情を話してもくれはしない。

 だから、


「行く前にこれだけ聞いてくれ。」


 最後に、伝える。


「今朝、先日の謁見時の話をしていただろう。お前には、俺たち団員一人一人をケアする責任があるって。

 確かに、責任ある立場とはそういうことだろう。

 だが、一方でそれは俺たちも一緒だ。

 お前一人に皆の責任を背負わせてしまう分、俺たちは皆でお前を背負う。

 今気分にならないなら、いつかでいい。

 俺たちに話せないのなら、他の団員でもいい。

 お前の重荷、俺たちにも背負わせてくれ。」


 この言葉に、アキは立ち止まって、少し俯く。

 が、再び無言で手を挙げると、そのまま出ていってしまった。

 ヴェインは少し胸をなでおろす。

 これでいい。

 元より今の状態のアキを引き留められるとは考えていない。

 こちらの思いが伝わり、気持ちに寄り添う姿勢を見せること、これが今一番重要だ。


「……伝わってる、よな?」


 人の心は分からない。

 ただ、最後にアキが見せた動揺。

 あれが、こちらが考える通りの心の機微から来るものであったことを望む他ない。


「そんな副団長の微妙な心持ちを残し、今宵の訓練は幕を閉じるのであった……。なんて、らしくねぇやな。」


 ヴェインは自嘲気味に笑うと、リュウの方を見る。

 まだ先ほどの姿勢のままだ。


「おいおい、大丈夫か?それとも、こっそりサボってんのかぁ?」


 ヴェインは冗談めかしてそう言うと、リュウの肩を軽く叩いてしゃがみ込む。

 てっきり何か反応が来るかと思ったが、特にない。

 代わりに、何かブツブツ言っているのが聞こえてくる。


「あーん……?」


 ヴェインは気になって耳を澄ます。

 と、


「アキさんの本気……!見れた……!アキさんの本気が俺にも……‼へへ……うへへへへ……!」


 なんだか気持ち悪いことを口走っている。

 ヴェインは立ち上がると、


「そりゃアキも大変だぁな……。」


 とだけ呟いて、何も聞かなかったことにするのだった。


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