真夜中の相談会 2
謝罪の言葉を聞いてから、すぐにケイはアキの氷を溶かし、話を聞く。
アキも完全に頭が冷えて、一から順に状況を説明していく。
書庫でジェドに会ったこと。
王様から聞いた話について相談したこと。
古びた本棚を見せられて、その中にあった本を借りたこと。
ジェドから言われたことまで、アキは一通り話す。
ケイは真剣な表情でアキの話を最後まで聞く。
最後まで聞き終えると、少しの間考え込んだのち口を開いた。
「……まぁ、さっきの会話の反応で、アキが国を出る人々に対して思うところがあるのは分かっていたし、可能性として君が剣士の職に不満を持っていることも考えてはいたから、そこはそんなに驚きはないかな。まぁ、最初に僕に相談してほしかった気持ちはあるけど、それはタイミングもあるしね。
それで?
その本、読んだんだろ?
何が書いてあったんだ?」
ケイの質問に対し、すっかり調子を取り戻したアキは、待ってましたと言わんばかりに目を輝かせながら答える。
「こいつにはな、この世界、特に職業選択の儀についての真実が書かれてんだよ。
って言うのもさぁ――」
と言いかけてアキは口をつぐむ。
そして、少し黙った後、
「いや、せっかくだ。
ケイ、お前も読んでみろよ。
こういう娯楽系の本は読んだことないだろ?
お前、魔導書読むのも早いし、そんなに時間かからないだろ。
せっかくだし、試してみろよ。」
と言って、本をケイに押し付けるように渡す。
ケイは、アキの押しつけがましさに微妙な顔をしていたが、一応本を受け取り読み始めた。
それなりに分厚い本だったが、アキの言う通り、ケイはペラペラとあっという間に読み進めていく。
そうして十分ほどであっさりと読破してしまった。
読み終わると、ケイはふぅ……と一息つくと、
「これが娯楽本、いわゆる小説ってやつか。悪くないね。」
そう言って笑顔でアキに本を返す。
が、返し終えるとすぐに先ほどまでの真剣な表情に戻る。
「本の内容はわかったよ。
かつてこの世界は自由に職を選ぶことができる世界だった。
でも、それに不満を持った一人の男が世界を旅して、その果てに世界の在り方を変える泉にたどり着いた。
男は、才能によって人々が正しい職に就ける世界を願った。
そうして職業選定の儀が生まれ、人々は自分に適した職に就くことができるようになった。
面白かったけど、この創作がなんだって言うんだ?
所詮誰かの想像だろう?
面白いとは思うけど、これが何か世界を変えるようなものには思えないけどなぁ。」
その言葉を聞いて、アキはニヤリとすると、
「お前、全部ちゃんと読んでないな?大事なのはここだよ。」
と言って、本の背表紙を開き、ある一点を指さしてケイに見せる。
そこに書いてあったのは、赤い円とその中に同じく赤で書かれた禁の文字だった。
それを見て、ケイもハッとする。
このマークは、魔導書でも見た覚えがあった。
「禁書……⁉」
アキは先ほどの表情のまま頷く。
「俺も最初はこんな創作で何が変わるんだって思った。
でも、ただの創作物のはずなのに、この本は禁書指定されている。
それってつまり――」
「この本の内容が、真実だって言いたいのか……?」
アキはまっすぐケイを見ながら再び頷いた。
ケイは目を外して思案する。
はっきり言って根拠としては薄めだ。
この小説が禁書扱いされているからといって、イコールこの小説の内容が真実だとするのは無理がある。
思想そのものが問題であるとされたとしても否定できないし、さらに何か別の理由があることも考えられる。
だが一方で、この内容が真実でないとも言い切れない。
職業選定の儀に関しては現在の魔術では解明できない。
世界を変える泉、などという超常的な力を信じる方が理屈が通る部分もある。
「俺だっていろんな可能性を考えないわけじゃない。でも、今揃ってる情報だけで考えれば、どの可能性もあるフラットな状態だ。
それなら、俺は夢を見たい。
お前が覚えてるかはわからないけどさ、俺にとっては、儀式当日の誓いより、儀式の一週間前に立てた誓いの方が心に残ってるんだ。
俺が魔導士長に、お前が剣士長になろうって約束。
ずっと胸に空いてたその穴を、今からでも埋められるのならそうしたいって。
そう、思ってるんだ。」
黙って考え続けているケイに対し、アキは思いのたけをぶつける。
ケイはその言葉を聞くと、アキの目を見る。
まっすぐ、力強い目。
そして、キラキラと輝くような瞳。
ケイはふぅ……と一つため息をつくと、黙ったまま立ち上がり、扉の前に行く。
「……ケイ?」
急な行動に困惑するアキに対し、
「……ついてきて。」
とだけ言い残し、ケイは扉の向こうへ消える。
「……お前もかよ。」
つい数時間前と似た状況に少し不機嫌になりつつ、アキは急いでケイの後を追った。




