表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

生の選択肢

作者: HORA

私の名前は麻生夏子(あそうなつこ)。32歳独身で地元で小中学校の先生をやっています。児童・生徒が少ないので小学生と中学生が一緒の校舎で学んでいる程の田舎です。そろそろ結婚して子供が欲しいとは思うのですが、そもそも彼氏募集の段階。まぁ子供に囲まれて毎日楽しいので忙しくはありますがやりがいがあり、現状の暮らしに大きな不満はありません。


学校の先生は夏休み前の時期、授業の準備と並行して1学期の成績表を作成したり夏休み中の行事の予約や準備に追われて非常に忙しくなります。その日も4限目の音楽の授業の間に職員室に戻り生徒の成績表作成に追われていました。そんな勤務中に学生時代の親友からLIИEの通知が入ります。


親友の名前は桐生冬美(きりゅうふゆみ)。中学、高校と同じ部活だった事から自然と仲良くなり、学生時代の酸いも甘いもずっと冬美と一緒に経験してきました。高校を卒業してからは私は地元の教育系の大学に進学し、彼女は都会に憧れ東京のファッション関連の専門学校に行ったので、そこから会う事は無くなりました。お互いに忙しい生活を送り、時々通話をしたり、LIИEでメッセージを交換して互いの近況を時間を忘れてやりとりし、時に中学高校の思い出話に花を咲かせていました。


東京に住んでいた頃の彼女の家賃は私の倍以上。同じ国で同じ商品に対してここまで金額差があるモノも珍しいですよね。東京にいた時の冬美は流行の最先端を行くように私が聞いた事の無いブランドやファッション、メイクやスイーツのショップの話を私にしてくれていました。しかし10年程東京にいる間に心を磨り潰してしまったのが先か、危険ドラッグにハマったのが先かは分かりません。友人づてに冬美がおかしいと噂は聞いていたのですが結果、彼女はボロボロになって地元の病院に入院するために帰ってきました。症状がある程度安定し退院してから私の元に冬美本人から連絡が入ったので、私はずっと冬美がそのように苦しんでいた事を後になって知ったのです。


「これからは同じ地元にいるんだから何か困った事があったら相談してね!」

「うん… 心配させてごめん… 親友の夏子だから…、逆に恥ずかしくて言えなかったの…。」


彼女の脳はすでに一部が溶けているそうです。退院したとは言え躁鬱(そううつ)に関しては治療の目途が立たずに、気分の浮き沈みが症状と言える程に出るのです。4限目に職員室で働いている際に来たLIИEも(うつ)(おか)された生きる目的を教えて欲しいという内容だったのです。そこで給食が終わった後のお昼休み、私は冬美へLIИEの返信をします。


「生きる目的とは少し違うのかもしれないけど、私の担当のクラスで【生】っていう漢字に色々な読み方があるからみんなで調べてみようってやったの。


①相生町の②寄生木に③苔生す④芝生で⑤生粋の⑥生花と⑦生糸の⑧育生を⑨生業とし⑩生きがいとする⑪生え抜きの⑫生な⑬弥生⑭生まれの⑮桐生と⑯麻生の⑰今生は⑱生い立ちから⑲生憎と⑳生涯㉑生半可ではなかった

①あい(  ) ②(   )ぎ ③こけ( )す ④しば( ) ⑤(  )すい ⑥(  )ばな ⑦( )いと ⑧いく(  ) ⑨(  )わい ⑩( )き ⑪( )え ⑫(  ) ⑬(   ) ⑭( ) ⑮(    ) ⑯(   ) ⑰こん(   ) ⑱( )い ⑲(  )にく ⑳(   )がい ㉑(  )はんか

あい①(おい)ちょうの②(やどり)ぎにこけ③(む)すしば④(ふ)で⑤(きっ)すいの⑥(いけ)ばなと⑦(き)いとのいく⑧(せい)を⑨(なり)わいとし⑩(い)きがいとする⑪(は)えぬきの⑫(うぶ)な⑬(やよい)⑭(う)まれの⑮(きりゅう)と⑯(あそう)のこん⑰(じょう)は⑱(お)いたちから⑲(あい)にくと⑳(しょう)がい㉑(なま)はんかではなかった


凄くない?私も生徒も調べてみてビックリだよ!私達の苗字にも【生】の字が入ってるわよね。【生】の選択肢って沢山あるからさ(←私良い事言ったw)、冬美も頑張ろう!今度一緒に飲み行こうね!」




その日の夕方。冬美の母から電話があり、冬美が首を吊って自殺したとの連絡がありました。遺書などは無く冬美が何故自死を選んだのか判別できる物が無いので(そう)状態での突発的な自殺ではないか…との事だそうです。ただタイミング的に私のメッセージが引き金になった予感がありました。


…何がいけなかったのか。



東京での華やかな生活は一転、田舎に戻り病院に入院。三十路を越えて借金を抱えつつも薬物の治療。病状は治ることなく通院を余儀なくされた冬美。


勤務中だからとLIИEの返信をお昼休みまで1時間程遅らせた事がまずかったのだろうか…

悩んだ末に私にメッセージをしたのに生きる目的とは的外れの返信をして傷つけてしまったのではないか…

私が子供と一緒に色々な活動をしている文面が冬美に劣等感を抱かせたのだろうか…

無思慮(むしりょ)に頑張ろう!とか(くさ)を入れた事が気に(さわ)ったのだろうか…

飲み行こうと誘ったが、冬美が服用してる薬と相性が悪くお酒は禁忌(タブー)だったのだろうか…

【生】に冬美の名前を盛り込んだ文章も結果的にネガティブな内容になってるので感化されたのだろうか…


親友である冬美の死を悲しむ気持ちはあるのだが、私は送ったメッセ―ジのどこに冬美を殺す引き金があったのかを考えていました。



…そういえば


クラスで【生】の読みを調べまとめ終わった後に一人の生徒が何気なく言った言葉が思い起こされた。


「【生】って漢字は読み方がたくさんあるのに、【死】は一択だよね。」

①死ぬ ①(し)ぬ


選択死

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ