夜。買い物。
三題噺もどき―よんひゃくじゅうご。
視界の隅で、街灯が点滅を繰り返している。
ヒヤリとした風が、むき出しの肌を撫でる。
「……」
首元と目元しか開いていないのに、こんなに冷えるのかと身が竦む。
それでも、それなりに防寒はしているから、想像以上という程ではない。
上着を着て、マスクをして、手は冷えないようにポケットに突っ込んで。
深夜も通り過ぎたこの真っ暗な時間である以上、寒いのは分かっていることだから。
「……」
歩きなれた住宅街。
街灯が点々と立っているのだが。
先程から点滅をしている光の元は、いい加減交換すればいいのにと思い始めて数ヶ月経っている気がする。
ああいうのは、どこが管理しているのか知らないが、早くどうにかしていただきたいものだ。……だからと言って、口を出すことはないが。
「……」
人影はない。自分の影があるぐらい。
夜だし。普段は、学生や主婦やご老人方で賑やかなこの住宅街の道も、この時間は静まり返っている。
私も基本は、この時間はベッドに居るはずなんだけど。
「……」
今日はどうしても、眠りにつけず。
寝つきの悪い子供みたいに、ぐずぐずとしてしまって。
このままでは埒が明かないと思って、いっそのことと起きてしまったわけで。
「……」
かと言って何をする気にもなれず。
どうしたものかなぁと、ぼうっとすること数時間。
ふと思い立って、こうして夜道を歩いている。
「……」
それだけ言うと、夢遊病にも思えそうだが、そいうわけではなく。
それとなく理由があって。
数日前に料理をしようと思ったタイミングで、塩瓶の中身が空っぽになったことを思い出したのだ。
今日―時間的には昨日か。買いに行こうと思っていたのだけど、できなかったので。
人のいないこの時間なら大丈夫だろうと、こうして買い物に出た次第だ。
「……」
珍しいことに、近場に24時間営業のちょっとしたスーパーがあるのだ。
こんな所にそんなものが居るのかという声が少数上がったようだが、私はかなり重宝していた。
今日みたいな日にもありがたいし、働いている時も帰宅が遅かった私はよく利用していた。
「……」
と。
そうこうしているうちに、スーパーにたどり着く。
入り口に近づけば、ドアが静かに開く。
中からは、小さな店内BGMが流れてくる。
……買うものは決まっているが、他にも何かないかと店内を回ることにした。
「……」
ガランとしたスーパーは静かで、日中の賑やかな雰囲気が嘘のようだった。
こうも静かだと、少し不気味な感じもするが、今の私にはこれがちょうどいい。
「……」
スタッフは他にいないのか、入り口付近にあるレジに1人立っていただけ。
あの子は、店長ではなく深夜バイトか何かだろう。学生ぽかったし、ここに店長はもっとふくよかだった気がする。知らないけど。
あまりにも、こちらに無関心すぎてなんだか笑えてしまう。あくびしてたもんなぁさっき。
眠いよなあこの時間は。
「……」
色々と店内を見て回ったが、とくにはなかったので、さっさと目的の場所へと向かう。
そこまで広い店内でもないので、数分見て回れば終わってしまう。いい気分転換という感じだ。
「……」
塩や胡椒、その他スパイスなどが並ぶコーナー。
ガラスのミルに入った桃色の塩とか、透明なものとか、緑スパイスとか……こういうものには好奇心はくすぐられるが、買ったところで使い道に困りそうで手には取らない。
……でもこういうのを、うまく使えれば少しは料理に関心が持てるかもしれない。
あぁ逆か。料理に関心があるから、ああいうのをうまく使うのだろう。
「……」
まぁいいや。
料理に関心がない私は、いつもの自分が使っている詰め替え用のものを手に取って。
そそくさとレジに向かう。
「……」
レジには、見てわかるほどに眠そうなスタッフ。
学生何だろうか、夜遅くまでバイトをして、学校に行ってと大変なんだろう。
商品をレジに通し、料金を告げる。
―お互いなんだか無関心をよそっているようで、面白い。
「……」
料金を払い、軽く会釈をしながら店を出る。
開いたドアの向こうから、冷えた風が吹き込む。
「……」
さっさと帰って、塩瓶の入れ替えをして。
朝食でも作るかな。まだ時間的には夜食に入りそうだけど。
お題:桃色・塩瓶・夜道