初めての感情、初めての……
2023年、春。
高校生になったら、当たり前に恋をして、友達もたくさんいて。
学校生活は充実したものになると思っていた。
「はあ…」
高校3年生の春が来てしまっていた。
勉強もそこそこ、運動もそこそこ、全部そこそこだ。
恋愛なんて…
「おはよ」
「…なんだ…美月かよ」
「かよって何?かよって」
俺は蒼井奏汰。
残念ながら、俺の高校生活はラスト1年を迎えていた。
「また奏汰と同じクラスかよって感じ」
「そっちも言ってんじゃん、かよって。悪かったな俺で」
白石美月は俺の中学からの友達。
なぜかずっと同じクラス。
高校に入って、美月は結構モテてるらしい。
「結局彼女出来てないじゃん。ちょっと可哀想」
クスクスと笑いながら、美月はいつも俺を馬鹿にする。
実際、本当に出来ていないから言い返すことも出来ない。
「ま、タイミングってものもあるからな」
「ついうっかり話し込んでしまうことを話に花が咲くって
言うけど、恋もそんな感じだと思うな」
「花が咲く?」
「うっかり惚れ込んでしまって、恋に花が咲く…みたいな」
中学の頃も、好きという感情を抱いたことが無かった。
周りの奴らが彼女できたって騒いでるのを見たりして、
羨ましいなと思ったことはあったけど。
恋に花が咲くか。
✱✱✱
黒板に書いてある座席表を見て、新しいクラスメイトの名前を
一度目に通す。
「あれ、奏汰じゃん」
「弘樹…一緒だったんだ」
彼は田中弘樹
去年同じクラスで仲良くなった。
「奏汰とも一緒で美月ちゃんとも同じなんてツイてるな俺」
「まだ美月のこと好きだったのかよ」
「悪いかよ。お前も早く彼女つくれ」
弘樹が隣の席だった。
幸先いいスタートを切れた気がする。
あとは、恋愛…恋愛…だ。
「…よろしく」
俺にボソッと話し掛け、前の席に座る。
「おう、よろしく。名前は確か…黒嶋悠だったっけ」
黒嶋悠
真っ黒な髪。ちょっと地味そうな雰囲気で
よろしくとだけ言ってあとはずっと無言だった。
✱✱✱
最後の授業が終わり、HRも終わり、帰る準備をしていた。
「あのさ…」
突然、黒嶋が俺の方を見て話し掛けてくる。
少し手が震えて、小さく溜息をついた。
「俺…」
じっと俺の目を見ながら
なかなかその後の言葉が出てこないようで、止まっている。
「顔がものすごくタイプなんだ」
(顔がタイプ…?今、黒嶋はなんて言った?聞き間違いか?)
「黒嶋…ごめん、俺さ、お前の好きな人分からなくて
もし話しかけてたならちゃんと聞いてなくてごめん」
「蒼井奏汰」
「え?」
「蒼井奏汰の顔がタイプなんだ」
(ってことはつまり…………)
「え!?」
✱✱✱