第86話 自己嫌悪
リンの表情が再び暗くなり……下を向いた。
「その子は……ある日突然見なくなった」
「……どういうこと?」
ある日突然……何か嫌な予感がする。
「……ごめんちょっと待って」
リンは手の甲で……目を擦った。
まさか……その子は……。
「見なくなった理由はすぐわかった……その子は……街の真ん中で処刑されてた……しかも……両親と見られる男性と女性と一緒に……私……その時……なにも……できなくて……うぅ……」
「リン……」
リンは……涙を流し、私の腕を掴む手が、力強くなっているのが分かった。
「その子は……ラサル氏族と敵対している氏族の子だったの……領内に侵入したのがバレて……それで家族ごと……」
「……」
……リンは最初、氏族同士の争いなんてくだらないと、そう言った。
こんな仕打ちをされると……そう思わざるを得ないかもしれない。
「私は全てが嫌になって……家を飛び出した。元の名前を捨てて、姿も変えて、とにかく遠くへ遠くへと歩き出したの……」
「それで……サンルートに?」
「うん……」
リンは涙を拭い……深く深呼吸をした。
「遠くに向かう途中でこんな話を聞いたの……エルフ同士の内戦が泥沼になっていって、『これ以上争っても仕方がない』って意見が多数を占めてきて……それで話し合いが行われて……」
「……共和制になった?」
「そう……選挙で偉い人を決めよう、そうすれば平等だからってなったの」
確かに、それはいい考えだとは思う……でも未だに内戦が起きているということは……。
「でも……選挙とは名ばかりで、どこが賄賂を受け取った、どこが票を操作した、どこが有利だ不利だってなって……結局……」
「……内戦になった」
「そう……本当に……馬鹿みたい……」
「……」
……かなり複雑だ。
相手の意見に対して納得がいかない、気に食わない、不正だと決めつける……。
そうやって争いは終結の目途が立たない……これは決して私たちには無関係とはいえないかもしれない……。
「時折、エルフである自分が嫌になるの。なんであんな連中と一緒の種族なのか……」
「……」
自分が嫌……あんな連中……。
そう思うのは分かるけど……なんだろう、なにか違うような気がする。
「サンルートに初めて来た時、色んな種族が助け合って、笑いあって生きていることに……感動したの。どんな種族の人も国王陛下を慕っていて……同じ道を歩いているって思ったの」
「……」
……ゴルドの言っていた通り、サンルートは国王陛下のおかげでみんなが団結しているようだ。
色んな種族がその人の下で肩を並べる……そうじゃない人も中にはいるんだろうけど、なんか、聞く限りだといい国なんだろうなって思う
「ラピラピやノンノン、ゴル爺とも仲間になれて……そうなると、氏族って何? って尚の事思うようになって……エルフはエルフで、世界が融合しても、いまだに争いを続けて……私……エルフなんて……エルフなんて……」
……リンは悲しいような、悔しいような表情を浮かべて……ゆっくりとこう呟いた。
「……大っ嫌い」




